第四話「無敵!セクサーロボ発進」

「あ………あ、あ………っ!」


光の身体に、未知の感覚が走る。

内側からこみ上げ、泉のように湧き出るような。


「くう………うううっ………!」


涼子にも、同様の感覚が襲いかかった。


ここでは語らないが、光と違い、生きる為に手段を選んでいられなかった涼子は、この感覚を既に知っていた。


ただ違うのは、「それ」が単なる欲望の発散の為ではない事。


溢れ出る多量のゼリンツ線を通じ、光と繋がった涼子の中には、暖かい感情が流れ込んで来ていた。


「(………これって………)」

「(………これは………)」


意識が混ざり会う。

深い愛情と原初の欲望が、まるで水溶液のように、深く結びつき、一つになる。


それは、とても、とても。


「「(………気持ちいい………)」」


気持ちがいい物だった。

  

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

ずぅぅんっ!!

 

一進一退を繰り返して時間を稼いでいたラッキースター小隊の元に、地響きと轟音が響いた。

 

「やったの?!」

 

期待を込めて、ヒナタの操るケーオン指揮官機が振り向く。

 

パイロットの読み通り、そこには大地に降り立った一体のロボットがあった。


ケーオンの倍以上はあるそれは、Cコマンダーとサーバル号の合体によって完成する機体。

 

鬼のような二本角と、腰から伸びるスカート。

そして太くもあり女性的なフォルムと、それを操る涼子のような………「黒ギャル」を思わせるカラーリング。

 

鬼性獣に………そして「奴等」に対抗する手段である、人類の希望。

 

これさえあれば勝てる。

これこそが、人類の希望。

しかし………

 

 

「………どういう事だ?何故セクサーが動かん?!」

 

五月雨は焦っていた。

本来なら既にあのロボットは、もう動ける状態にあるはずなのだ。

 

しかし、ロボットはその場に鎮座するばかりで一歩も動こうとしない。

 

「何が起こっている?!」

「ちょっとまってねぇ五月雨くん、えーと、ぴ、ぽ、ぱ、の、ぽーっと………」

 

五月雨に言われ、白衣の女がエリザベート内のシステムを使い、解析を始めた。

口調はふざけているが、キーボードを打つ手はマシンガンの弾丸よりも素早い。

 

「………ありゃりゃ、二人ともショックを起こしてしまっとるよ」

「ショックだと?」

 

白衣の女の導き出した答え。

それはパイロットの………光と涼子に起きた異常である。

 

「セクサーロボへの合体時には炉心の出力上昇と脳のワイヤレスコネクトで、あたかもパイロット同士が気持ちよくなるような感覚に陥るのは五月雨くんも知ってるよね?その結果脳が与えられる快感のあまり、一種の疲労を起こしちゃったんだよ」

「簡潔にいうと?」

「ワイズマン現象」

「………さよか」

 

原因は判明した。


ワイズマン現象。

興奮を過剰に与えられた事により発生する、脳をコンピュータで例えた所のフリーズ現象だ。


しかしここからでは、二人を叩いて起こすような事はできない。


解決策はある。

だが、どうする事も、できないのだ。

 

 

そうこうしている内に、ガシボがロボットの存在に気付いた。

ガシボは、そしてそれを操る存在は、あれが自分を殺すための物だという事を理解している。


ならば、やる事は一つ。

 

 GAOOOOOOO!!

 

動かぬうちに叩き壊す!

そう言うように吠え、その巨体で町を蹴散らし、ガシボがロボットに迫る。

 

『まずい!』

『これ以上近付けないで!』

 

そうはさせるかとラッキースター小隊。

ケーオンに装備されたミサイルや弾丸が火を吹いたが、眼前のロボットに意識を集中したガシボには足止めにすらならない。

 

GAOOOOOOO!!

 

ガシボの剛腕が、ロボット向けて振り上げられる。

ロボットは相変わらず動かない。

 

ああ、ここまでか!と、ラッキースター小隊のメンバーが顔を覆った、次の瞬間。

 

 

………がしぃッ!

 

 

「「!」」

GA?!

 

受け止めていた。

 

ガシボの拳がハンマーかメイスのように叩きつけられようとした瞬間、

ロボットの右手がヒョイ、と上がり、ガシボの拳を受け止めていた。

 

『………なァにしやがる』

 

慌て、振り払おうとするガシボだが、ロボットに捕まれた腕はどうやっても離れない。

ロボットのパワーは、ガシボを上回っている。

 

『感傷に浸ってる最中に割ってはいるたぁ、ムードも何も無ぇヤツだ………』

 

そしてロボットは右手でガシボを止めたまま、左手を構え………

 

『なァァっ!!!』

 

拳の一発!

ボグシャアッ!という鈍い音と共に、ガシボの身体が吹っ飛び、スラムの大通りに叩きつけられた。

 

呆然とするガシボの眼前で、そのロボットが──「セクサーギャル」立ち上がる。

黄色のセンサーアイを睨むように輝かせ、50m前後の巨体を空に聳えさせて。

 

「光!起きてるか?」

『は、はい!』

 

涼子の声に、若干慌てた様子の光が答える。

どうやらさっき覚醒したばかりのようだ。

 

「上等、なら行くぜぇぇぇぇぇっ!!!」

 

ズシン、ズシン。

大地を揺らしてセクサーギャルが突撃する。

 

そして立ち上がったガシボに向けて、拳の一撃!

 

GAAAAAA!?

「おらおらおらぁッ!!」

 

一発、二発、三発。

涼子がレバーを倒す旅に、ガッシ、ボカと。

ズワォ、ドワォ、と鋼の拳が叩き込まれる。

 

連続で浴びせられるパンチを前に、ガシボがよろめく。

そして、涼子はそんなガシボのグロッキー状態を見逃さない。

 

「ふんっ!」

 

隙をつき、セクサーギャルがガシボに組み付き、持ち上げる。

 

「うぉんりゃあ!!」

 

そして、近くにあったゴミの埋め立て地めがけて、ぶん投げた。

ガシボはズワァーッ!と弧を描いて飛び、埋め立て地に叩きつけられる。

 

GAAAAAAAA?!

 

傷み………というよりは、身体にゴミが付着した不快感から、ガシボが吠える。

兎も角、これで街への被害の危機は大体去った。

 

 

『………すごい………』

 

その鬼神のごとき戦いを、ラッキースター小隊は遠目で見つめている。

自分達のケーオンではまったく歯が立たなかったガシボを、一方的に叩きのめしている。

 

『あれが………“セクサー”………!』

 

自分達のこれから始まる戦い。

その要となるべき存在を前に、ラッキースター小隊の一人が漏らすのであった。

 

 

「もう一発!」

 

ガシボに再びパンチを浴びせるため、セクサーギャルが突撃する。

だが。

 

GAOOOOOOO!

「うおっ?!」

 

ガシボが口から光弾を吐いた。

一発は避けるも、二発目が命中。

 

「ぐあっ!」

「あああっ!」

 

光と涼子を襲う衝撃。

ガシボはセクサーギャルを近付けないように、光弾を放ち続ける。

セクサーギャルを破壊するまでには至らないが、近づく事ができない。

 

「クソっ!こっちも何か武器とか無いのかよ!」

『リスカタールを使え』

「うおっ?!」

 

悪態をつく涼子に、再び五月雨からの不意打ちの通信。

 

「り………リスカぁ?」

『武器名を叫んで右手のレバーを押せ!そうすれば武装が展開する!』

「お、おう!なるほどな!」

 

偏差値の低い涼子でも使える親切設計に感謝しつつ、再びセクサーギャルが突撃する。

 

GAOOOOOOO!!

 

そこに放たれるガシボの光弾。

だが。

 

「二度は通じねぇ!」

 

着弾の瞬間、飛び上がり回避するセクサーギャル。

腰部にはためくスカート………半重力マントにより、セクサーギャルの巨体が空高く舞い上がる。

 

そして。

 

「リスカタァァールッ!!」

 

セクサーギャルの手首より形成される鉄刃。

手首(リスト)の左右サイドより延びた刃が繋がり、セクサーギャルの主武装たる一本の刃………「リスカタール」となった。

 

「うおおおおおーーーーっ!!」

 

ガシボの光弾を掻い潜りながら、落下を利用してセクサーギャルが迫る。

 そして。

 

「ふん!」

GAAAAAAAA?!

 

斬った。

リスカタールの一刃は、確かにガシボの強靭な装甲を砕き、切り裂く。

 

ズシン、とセクサーギャルが大地に降り立つ。

 

瞬間、ガシボの切り裂かれた跡から光が走り、爆発。

その身体を、まるで夏の終わりの花火のごとく吹き飛ばした。

 

 

「へっ!どんなモンだぁっ!!」

 

ガシボを撃破した涼子は、テンションの上昇も合間って上機嫌。

ガッツポーズなんか取ったりしている。

 

だが一方の光はというと。

 

「ぜぇ………ぜぇ………」

 

ぜぇぜぇと、肩で息をするほどには疲れていた。

戦闘事態はほんの数分の物だが、光にとってはまるで数時間ほど全力で走ったような感覚だ。

 

「………ぜぇ………ぜぇ………」


まるで、精気その物を吸われたかのようにも感じた。

身体に溜まった疲労感に耐えきれず、光の身体は、ずるり、と自分の座っているシートにもたれかかる。


「………あ………熱い」


そして同時に、光の身体は酷く火照っていたという。

サウナか真夏日のように、光の身体には汗でぐっしょりと濡れていた。 

 

 

「………ふふっ………ふふふ………ははははっ!」

 

五月雨が口を吊り上げて笑う。

いや、笑わずにはいられない。

 

長年の夢が叶ったのだから。

 

「………五月雨くん」

「ははは、解っているよ毒島君、これは始まりにすぎない」

 

ゴーグルをクイッ、と上げて、五月雨は再び見る。

セクサーを。自身が産み出した究極の兵器を。

 

「………だがせめて、今は一時の勝利に酔うのも悪くないだろう?今まで、我々はずっと、負け続けてきたのだから」

 

五月雨の言葉を代弁するように、セクサーギャルは夕日の中にその巨体を佇ませていた。

 

まるで、この一時の勝利を称えるように。

そして、これから起こる戦いを予見するように………。

 

 

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