おばあちゃんの思い出


「ブログでやれ!」

そんな叱責がおばあちゃんから飛んで来た

朝の食事中のことだった

ぼくが目玉焼きに醤油を掛けるかソースを掛けるかで悩んでいた時だった

「うーん………どっちにするべきかな? 今日の気分で言うとソースなんだけど、昨日もソースだった気がするしケチャップという第三の選択士も考慮しなければ駄目かなあ」

おばあちゃんがキレた

「ブログでやれ!」

おばあちゃんの入れ歯がテーブルクロスの上にゴトリと落下した

「………」

一家団欒の図は不気味に凍りついた

ぼくは言った

「おばあちゃん、ブログって何か知っているの?」

おばあちゃんは言った

「そりゃあよく知っとるよ、昔はみいんなブログだったからね」

また何か勘違いしてる

「あのねーおばあちゃん、ブログっていうのはつい最近、出来たパーソナルコンピューターで行うことの出来る最先端のサービスなんだよ?」

おばあちゃんはふんぞり返って叫んだ

「あたしの膣が黒いうちはそんなこと許さないよ!」

思えばおばあちゃんがおかしくなり始めたのはこの頃からだった

翌年、桜の花が舞い散る季節におばあちゃんは死んだ

ぼくは言った

「あの時なんであんなこと言っちゃったんだろう、ブログの本当の意味なんてどうでも良いことだったのに」

おばあちゃんの墓の前で後悔した

ぼくは大学二年生

最近、流行りのムシキングにすっかり心を奪われている典型的な大学生だ

「おばあちゃん、天国から見ててね………」

今日もライバル相手にムシバトルを繰り広げる

「いくぜ!」

手から離れたカードはもはや自由意志を持ち対戦相手の放ったカードへと向かって行くのだ

自分に出来ることは(頑張れ………)と心の中で思うだけなのだと思う


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