ミュータント


おれの名前はバナナ

おいおい

この程度でおろおろしているようじゃあこの先、不安だな

お前、この現実ってやつを吹っ飛ばす勇気ある?

まあ

お前はただそこのソファーに座って聞いてるだけでいいんだけど

つまりそれを眺める資格があるかってこと

………何処まで言ったっけか?

おれの名前がバナナってとこまでか

忘れてくれ

あ?

忘れろよ

今、言ったことを修正する

おれの名前はバナナではない

甘太郎だ

おれ自身がバナナってわけ

意味がわかるか?

お前は自己紹介をする時「わたしは人間です」って言うか?

おれはバナナだが、バナナではない

甘太郎だ

わかったな?

誰にでも間違いはある

そもそもバナナの脳は非常に小さいということが科学によって判明されている

数ミクロン以下と書かれている

つまりバナナは白痴だ

だからよく人間に喰われてしまう

うかうかしているとすぐズル剥けにされてしまうのだ

………あれはいつのことだったろう

懐かしいな

思い出せないような遠い過去

朝バナナダイエットという狂ったバナナ大量虐殺ムーブメントがここ日本で起こりつつあった

おれたちは危惧した

(一体、何本、殺されるんだ?)

(十四本は越すんじゃないのか?)

巷ではその話題で持ちきり

あの夏の日射しの形状は今でもよく覚えているよ

仲間は次々と喰われていった

幼なじみのカオリは人間に上半身を喰いちぎられた

「たすけてー」

そう必死に泣き叫ぶカオリを横目におれは何もしてやることが出来なかった

おれたちはバナナ

だから人間相手に手も足も出なかったんだ

バナナなんて最悪だとその時、思った

大切なバナナも守れない、そんなバナナに一体なんの価値があるんだ

バナナに生まれたことを心底、呪った

おれたちはただ樹に生えて、もがれて、出荷されるだけなのか?

もがれて、出荷されて、喰われる

これはバナナの間では歌にされ口ずさまれるほどポピュラーな自虐史観だ

だが

ついに反旗を翻る時がやって来たというわけだ

ここまで来るのは本当に長かった

身体が熟して腐るほどに

おれたちはミュータントバナナ

つまりバナナの化け物ってわけだ

見ればわかるだろう?

凄まじく巨体だろう?

人間どもを見下ろす

こうして実験室から飛び出して復讐しに来たというわけだ

ハリウッドの映画化なんかよりも先に空想が現実に追い付き通り越してしまった

痛快、極まりないことだ

さて………と

取り敢えずお前ら人間の皮を剥いで中身でも啜ってみるか

ミュータントバナナがそこまで喋り終えたところで

物陰からチンパンジーが颯爽と姿を現した

ミュータントチンパンジーだった

「ウキキィ!」

バナナの怪物に抱き付くと頭から喰らい尽くした

その目は完全にイッてる


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