第8話 真実

「君と美里には、アダムとイブになってほしいの」

「冗談はやめてください」

「わかった?でも、半分は本当だよ」

「半分は?」

あやめさんは、頷く。


「ねえ、忠雄くん」

「何?」

「漫画は描いた事ある?」

「漫画?ええ、趣味では」

「楽しいよね」

確かに、趣味で描くだけなら、楽しい世界はない。


「でも、プロになると大変だね」

「確かにそうですね」

「君が、自然に囲まれた緑豊かな環境で生活している」

「ええ」

「でも、君1人なら、それでもいい」

「確かに・・・」


よく言われている話だが、それは趣味の範囲。

仕事となると、大勢の不特定多数の人、

つまり、読者を住まわせないといけない。


そのためには、どうしてもその自然を破壊しないといけない。

自然に囲まれたところよりも、便利な物を望む。


その結果、自分の求めいた世界とは、かけ離れてしまう。

もちろん、出て行く人もいる。


しかし、どんなに開拓しても、その読者が集まってくれる保証はない・・・


「さすがだね、忠雄くん」

「いえ、褒められる事では・・・」

あやめさんは、笑う。


「でね、忠雄くん、君と美里にしてほしいのは・・・」

「ええ」

「この町を、人や動物が集まってくる世界にしてほしいんだ」

「でも、ここは夢の世界でしょ?」

「今はね、でも・・・」

「でも?」

あやめさんは、続けた。


「いつか、ここも人が集まってくる。そういう世界にしてほしい」

「もう、便利でしょ?これ以上開拓しても・・・」

「逆だよ」

「逆?」

次のあやめさんの言葉に、僕は茫然とした。


「緑豊かな、世界にしてほしい」


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