3.紅茶のブルゴーニュ酒〈祁門紅茶〉⑤
◇◆◇
むかつきにも似た空腹を覚えて意識を取り戻すと、なぜか仰向けで横になっていた。
……あれ?
ゆっくりと上半身を起こし、途端に頭蓋骨を締めつけるような頭痛に襲われ顔をしかめる。目蓋が重くてなかなか開かず、なんとかこじ開けて辺りを見回すも照明は橙色の豆電球だけで部屋は薄暗い。かろうじてここがリビングであることは認識できた。ブランケットをかけられ、ソファに寝かされていたようだ。
ぼんやりしたまま乱れた髪に手ぐしを入れていたら、枕元に買ったばかりのスマホがあることに気がついた。時刻を確認すると、午前五時になろうというところ。この季節だとまだ日の出前だ。
記憶がはっきりしない。秀二さんと飲んでいたはずなのに──
ぼってりした目蓋をこすって視線を動かし、ソファの足元を見て眠気が吹っ飛んだ。
「秀二さん?」
私のブランケットの足元で、自分の腕を枕に突っ伏すようにして秀二さんが眠っていた。メガネはそばのローテーブルに置いてある。
無防備な寝顔からたちまち目を逸らせなくなり、顔の前に流れている黒髪の束につい手を伸ばしそうになって慌てて引っ込めた。
何がどうしてこんなことに……。
ソファから出るべきか、でも秀二さんを起こしちゃいそうだしいっそこのまま二度寝すべきか、でも頭痛い、などとその横顔を見つめたまま考えていたら、ゆっくりと開かれた目がこちらを見る。
「起きたんですか?」
秀二さんは床に座ったまま口に手を当てて小さく欠伸をし、メガネに手を伸ばしてかける。
「お、起きました、けど」
「何も覚えてないって顔してますね」
秀二さんは立ち上がって自分のブランケットを畳むと、腕を回してストレッチを始める。
「こんなところで寝たから身体がバキバキじゃないですか」
忌々しげに呟いているのを黙って見つめていたら、「まだ酔ってます?」と訊かれて首を横にふる。
「あの……どうして秀二さんもこんなところで寝てたんですか?」
「はい?」なんて思いっ切り睨まれた。
「寝ている間に
もしかして。
「私、リバースしました……?」
「そりゃあもう派手に。幸い、トイレに駆け込むだけの理性はあったようですが」
状況が読めた。
酔い潰れて介抱されたということらしい。
ありがたさに胸が詰まったのは一瞬のこと、あとはただただどこかに埋めてもらいたい気持ちになって座ったままひれ伏した。
「申し訳ございませんでしたっ」
「吐き気は?」
「まったくないです。むしろお腹空いてるくらいで……頭は痛いですけど」
「あの程度のワインでこんなになれるなんて、ある意味感心しますね」
確かにあまりお酒に強くないってわかってたけど、でもこんなのは初めてだ。
「本当にすみません!」
「謝る元気があるなら、シャワーでも浴びてきたらどうですか?」
欠伸をしつつ秀二さんがリビングから去っていくのを見送ってから、頭を抱えてうなだれた。
【次回更新は、2019年9月8日(日)予定!】
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