1.花咲く紅茶〈Shalimar Tea〉⑦
早速二手に分かれて行動に移った。
佐山さんは家電量販店をネットで調べて車で出かけていき、私はまずはペンションの美沙さんのところに駆けた。
ランチ時に邪魔をした非礼を
「前日に災難だったね。氷が欲しくなったらいつでも言って」
重たいクーラーボックスを抱えて急いで店に戻り、分けてもらったもろもろをまずは冷蔵庫に詰めた。今は冷えているけど冷凍庫もどうにかしないと、と考えていたら店のドアを叩く音がした。
はーい、と声をかけてドアを開けると、近くで一人暮らしをしている米寿のおばあさん、
富子さんとは以前、チラシを渡したときに少し立ち話をして以来だ。
はい、と富子さんは膨らんだスーパーの袋を差し出してくる。受け取ったそれはずっしりと重たい。
「美沙さんから聞いたよ。これ、よかったら使って」
袋には、持ち帰りのケーキなどについているような手のひらサイズの保冷剤がぎっしりと詰まっている。
「いいんですか?」
驚いて顔を上げると、「いいのいいの!」と富子さんはカラカラ笑った。
「家にあっても使わないものだし!」
胸が詰まって何も言えなくなってしまった私の腕を、富子さんは軽く叩く。
「明日、楽しみにしてるからね!」
──そうして数時間経った頃、佐山さんが帰ってきた。
時刻は午後三時を回ったところだ。
途中でスーパーに寄ってくれたようで、氷やアイス、持ち帰り用のドライアイスを多めにもらってきてくれている。
「冷蔵庫、買えました?」
受け取ったドライアイスの袋を冷凍庫に入れつつ聞くと、佐山さんはカタログをこちらに見せた。
「家庭用の冷蔵庫で大きめのものを選んでもらいました。五時半頃に設置しに来てくれるそうです。そちらはどうですか?」
私は冷蔵庫の中をさっと見せた。
「……これだけあると、牛乳が凍りそうですね」
富子さんを筆頭に、美沙さんから話を聞いたという近所の人たちがポツポツと店を訪れ、保冷剤を置いていってくれたのだ。
おかげで冷蔵庫は保冷剤でパンパンだ。
「ありがたすぎて泣きそうになりました」
佐山さんは私の言葉に頷いてから、ボソッと言った。
「チラシのおかげですかね」
「チラシ?」
「あなた自らチラシを配りに行って、近所の方々と親しくなったおかげでしょう」
そして、ポツリと漏らす。
「私一人じゃ、どうにもなりませんでした」
ふいにどうしようもなく胸が熱くなって息を吞んだ。ホッとしたせいか、嬉しいせいか、感動したせいか。
言葉にならない感情を抱えたまま、壁の時計をこっそりと見た。
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