閑話 派出所の食卓

 ハドが派出所に来てから二週間になろうという、ある日。

 派出所の食卓に、ファンシーでラブリーな、くまのホットケーキが並んでいた。

 それを前に、ラオはげんなりした顔をしていた。

「キリュウ~~。最近の飯、なんでこんな可愛いの。俺がっつりしたやつが食いたいんだけど」

「だって!」エプロンをしたまま振り向いたキリュウは堰を切ったように話しだす。「今までの料理では、ハドさんがまったく喜んでくれないんです!」

(あー、また始まったよ)

「毎食きれいに食べきってくれますが、まるで食事を楽しんでいるようには見えない。流れ作業でもしているかのよう。シャオくんもいつも完食してくれますが、食事を楽しみにしてくれているんだなと伝わってくるんです。犬のようにがっつき、ラオと競うようにおかわりしてくれて。

 アサギくんのように好き嫌いも言わず――アサギくんは好物のクリームシチューを出したときにはそれはもう喜んで……。ただニンジンを入れると嫌がるんですよね。そこも子どもらしくて可愛いのですが。

 それなのにハドさんに「どうでしたか?」と訊くと、「おいしかったです」と返すんです。五歳児に! 気を! 使わせてしまうなんて……っ! 僕は、僕はもう、苦しくて苦しくて……っ。

 ハドさんになんとか喜んでもらえる料理を作りたくて、試しに見た目を愛らしくしてみたら、ちょっと喜んでくれたみたいで。ハドさんの背後に花が一輪、飛ぶのが見えたんですよ。そうなったら愛らしい料理にするしかないじゃないですか。

 味の好みも探れないかといろいろと試した結果、ハドさんはチョコソースよりベリーソースのほうが好きだということが判ったんです! 背後の花が二輪に増えて、微笑んでいるようにすら見えましたよ。アサギくんからの情報もあったのでこれは確かです。なので、今日のホットケーキもベリーソースで顔を描いてあるんです。

 ――そういうわけで、ハドさんに心から喜んでもらえるまで、今の食事が続きます」

 ラオは思った。

(そんだけ気ぃ使えるんだから、俺にも気、使って……?)

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