ヴェロニカの指輪 Ⅰ

 指輪が作られたのはセントラル・イースト地区の工房街――その一角に佇む小さな工房だった。

 工房は仕立屋の妻と靴職工しょっこうの夫が営んでおり、婦女服に紳士靴、と、おかしな組み合わせの看板が下がっている。

 その看板の下には縦長の窓が嵌め込まれている。工房のひとり娘はそこから見えるカウンターで細工をするのが好きだった。

 藍色の髪にかどのある耳の娘は、この日も母お手製のワンピースを身に纏い、白い右手とで指輪を作っていた。

 青い屑石が組み合わされ、ヴェロニカの花を模した美しい装飾の指輪が生まれた。

 娘は窓から射し込む光に指輪をかざした。ヴェロニカの装飾が陽を受けて――加工した石よりも控え目に――きらきらと輝いた。不均等で、不完全で、だからこそ美しい輝き……。娘の口元が綻んだ。

 娘は完成した指輪を箱に入れ、店内で待っていた男の元へ運んだ。ガーディの制服を着た、丈が二メートルある背の高い男だった。並ぶと娘は男の膝ほどの身長しかなかった。

 指輪を受け取った男はそれを贈るのことを想い、愛しそうに指輪をみつめた。

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