第24話 圧倒的な差
開始の合図から数分。
正直、僕はこの戦いに飽き始めていた。
「おおおぉぉぉぉぉぉッ!!」
「……」
炎を纏った両手で乱打を放つドルトから距離を取り、拳を躱し、炎を潜る。その都度クラスメイトからは「おぉ」という感嘆のどよめきが上がるが、正直それも鬱陶しいくらい大したことはしていない。
だって、言ってしまえば彼の攻撃は全てエルトさんの超劣化版なんだもの。攻撃の速度も劣り、裏をかくような策もなく、ましてや火力なんて何百分の一だろう?占有魔法と汎用魔法なので、差は圧倒的なのは当然。だけど、それ以前に魔法士としての格が違い過ぎた。
ドルトのは完全に子どもが拳を振り回しているだけに思える。
僕が子供に負けるわけがないし、一発ですら当たらないよ。
「レイズ様、御強いですね」
「相手が学生なんだから、当然でしょ」
レナ様とリシェナ様がそれぞれ感嘆と呆れの声を上げられる。僕のことをよくわかってらっしゃる。
「おい! たまには反撃しやがれッ!」
「反撃って言われてもなぁ」
一度も反撃していないことに怒り、魔力を増して火力を増加させるドルト。
いや、反撃したら今すぐにでも君をあの世送りにできるくらいではあるんだけど、それはちょっとね。でも、何もしないとまた怒りはじめるだろうし……仕方ない。
「ぼちぼちやりますか……」
大きく跳躍し、距離を取る。
続けざまに無属性中距離中級魔法──反射壁を複数空中に発動。
「ん?」
それを見て、エルミナール先生が首を傾げる。
まぁ、不規則に置かれた反射壁を見れば、何をしているのかと思うのは当然のこと。本来一度に複数も出す魔法ではない。せいぜい、進行方向を変えるために一、二個設置するのが定石。
だけど、僕のような狙撃手には、それでは少ないんだ。
レイピアの切っ先から迸る蒼い稲妻。極限まで出力を押さえたそれは、小さく放電を繰り返し、反射壁の迷宮へと向かって射出された。
それを見たドルトは、嘲笑。
「ハッ!一体何処に向かって打ってるんだよ!」
その言葉を無視して、僕は追加で八発の稲妻を、それぞれ別の場所に向かって射出。終え、刀身を鞘に戻した。
クラスメイトはどよめく。
「剣をしまったぞ?」「諦めた?」「いや、それにしては……」
僕の行動について予想し、一体どういうことだと首を捻る。
そんなに考えなくても、戦いの最中に得物をしまったということは……そういうことだよ。あ、学生はわからないか。
「さっきからふざけやが──ッ!」
ドルトが僕に向かって突進しようと構えた瞬間──彼の脚が微かに放電し、その衝撃でバランスを崩し、その場に膝をついた。
静まり返る棟。
腕を組んで成り行きを見守っていると、ドルトがすぐに立ち上がった。
「何が──」
「気を抜きすぎだよ」
もう遅いけど。
「ッ、まさか!」
「たっぷり痛い目見てくれ」
空中に発動した反射壁を幾度も、幾度も反射した稲妻が全て、ドルトに向かって襲い掛かる。威力は最小限に抑えてあるので死ぬことはないだろうけど、それなりに痛みを伴うはずだ。加えて、しばらくの間は身体が痺れて動けなくなることも間違いなし。
恐らく、今までこんな戦い方をするような相手と戦ったことはなかったんだと思う。というかあるはずない。僕の戦い方は殲滅閉室の中でもかなり異端なのだから。
自分を基準に物事を考えて、自分は強いと過信していたお坊ちゃまにはいい薬になったことだろう。一度も攻撃を当てられず、尚且つ魔法を使われて十数秒程で地に転がされてしまったんだ。
心が折れてなければいいんだけど。
「そこまでだな。レイズ、お見事」
「恐縮です」
先生が近づき、僕の肩をポンと叩いて労いの言葉をかけてくれた。それに短く返し、クラスメイトたちの方へ。
と、急に話しが振られ、立ち止まった。
「しかし、何とも異質な戦い方をするな。幾度も過程を作り出し、結果として相手を倒す……。こんな戦い方は初めて見た」
「一直線に、しかもこんな短い距離で魔法を使っても、自分の訓練になりませんから」
「向上心があるのはいいことだ。今のは神業と言ってもいい技量だったぞ?」
「そうですかね……それより、起こしてあげなくても?一応治癒魔法も掛けた方が──」
「その必要はない」
ん?と首を傾げると、前方では僕に倒されたドルトがむくりと起き上がり、頭を引っ掻きながら立ち上がった。その身体には、一切の傷がない。
おかしい。稲妻はしっかりと直撃したはずなんだけど……。
その疑問を、先生はすぐに解いてくれた。
「この実技棟は少し特殊で、中にいる間は受けたダメージは実際の身体に影響を及ぼさない。精々、感じるのは痛いとか熱いといった感覚くらいだ。どれだけの魔法を受けても、死ぬようなことは絶対にないってわけ。ま、この効果がつくられたのは結構最近らしいけど」
「怪我をしないと言っていたのは、こういうことでしたか」
そんなからくりがあったとは。
でも痛いのは感じるってことは、それなりに緊張感のある授業になると思う。何も感じなかったら、それこそ加減を忘れて魔法を放ってしまう危険があるし、棟の外でも同じようなことをする阿呆がいるかもしれない。
「一応君にも体感してもらいたかったんだけど」
「すみません。あまりにも攻撃が当たらなかったもので」
「いや、問題ないよ。寧ろそれができることは褒められることだから。さて──」
先生はパチンっと指を鳴らし、クラスメイト達の前に張られていた防御壁を解除した。次いで指をくいっと曲げ、生徒たちにこっちへ来るようにハンドサインを送る。
「これから彼には少しお説教かな」
自信満々、意気揚々としていた彼に、少しお灸を据えるらしい。
だらしなさそうな雰囲気をして、案外まともなんだな。と失礼なことを考えてしまったのは、ここだけの内緒である。
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