第20話 仲裁
「えーっと……これは一体どういう状況なのでしょうか?」
僕の両肩に手を添えて教室の中を見ていたリシェナ様は、繰り広げられる惨状を前にそんな声を漏らした。
教室の中では言い争っていた生徒たちがお互いに魔法をぶつけ始めていた。難いのいい強面男子生徒の方は腕輪型の魔法具、細身で背の高い女子生徒は錫杖型の魔法具を用いて。
流石は特進クラスと言ったところか、十代半ばにしてはかなりの魔法技量だ。初級、中級の近距離魔法を巧みに操り攻撃をしかけ、また防御に回す。魔法が飛び交う度に、副作用として教室の備品が飛び、壊れ、燃えていく。
入学初日に一体この問題──備品の破壊や教室での魔法使用は如何なものかと思われるが、周囲にいた他の生徒たちは特に動じた様子もなかった。寧ろ、冷静に自分たちに向かい来る流れ魔法を対処していた。
「どうするの? このままじゃ私たちはともかく、後ろのお嬢様方が教室に入れないよ?」
両手を前に掲げ、透明な魔法防壁を展開していたミリーが僕に聞く。流石に、唯の学生が放つ魔法程度は簡単に防げるようだ。
とはいえ、ミリーの言う通りこのままではリシェナ様とレナ様が教室に入れないどころか、二人に危険が及ぶ。
本来護衛は目立ってはいけない、陰の者に徹しなければならないが、ここは致し方ない。
「(別にレイピアを抜くほどでもないな)」
レイピアはより強力な遠距離魔法を放つための魔法具。学生相手にそれを抜くほど、子供の喧嘩を止めるために使うほど大人げない性格ではない。
指先を争っている二人に向け、魔力の塊を射出する。うっすらと白く丸い魔力球は二人の眉間に直撃し、二人をのけぞらせた。
「「ッ!?」」
同時に直撃した箇所を押さえて後退した二人は、すぐにその原因が飛んできた方向──つまりは僕を見た。
「な、なんだ?」
「痛〜っ……、何が飛んできて──」
それぞれ反応を示しながら僕を視界に収めた途端、僕を睨み殺さんとばかりに射抜いてきた。
「……今のはお前がやったのか?」
「もう少しで仕留めれたのに、余計な真似はしないでくれる?」
戦意は喪失していない。
それどころか、僕に対しての戦意が燃え上がっている。魔力を高め、再び魔法を放とうとしているようだ。
……王女殿下の御膳で頭が高すぎるし、なにより僕を舐めすぎ。自分たちと同じか、低いレベルだと思われてるから仕方ないけどさ。
「避けなよ。避けれるなら」
「「は──??」」
次の瞬間、再び二人に魔力球が飛来。後頭部を直撃し、前のめりに床へと倒れ込んだ。
「お姉ちゃん、大人げない」
防御壁を解除したミリーがジト目で僕を見るが、そんなこと言われてもどうしようもないよ。
第二撃。
一度当たった弾が再び襲いかかる可能性を微塵考えていないとは、歳の割には魔法技量があるけど、まだまだ学生の範疇。命をかけた戦いを経験していない半端者だ。
起き上がり始めた二人に向かって、僕は言い放つ。
「喧嘩をやるのは構わないけど、教室でやるのはよしたほうがいいよ。今みたいに、痛い目見たくなかったらね」
バチッと右手に雷纏わせ、放電させて威嚇。
幾ら近距離戦が苦手な僕でも、井の中の蛙に勝つくらい造作もない。
まして、ここにはミリーもいるし。
「んだと──ッ」
「……」
まだなにか言いたげな二人。
だが、先程の魔力球を受けたばかりのためか、言葉を止めて言い返さない。
ふむ、釘を刺しておこうか。
「これ以上、王女殿下の前で無礼を働くのかい?」
リシェナ様を前に出し、再度忠告。
途端、二人の態度が急変し、床に膝をついて頭を垂れる。
おぉ、流石に王女殿下の前ではきちんとするみたいだ。不敬があれば極刑だからね。
頭を垂れる二人に対して、リシェナ様が両手を振って慌てだす。
「顔を上げてください! ここは学園ですから、身分は関係なしです!」
相変わらず敬われることが好きではないようだ。
リシェナ様に言われたため、二人は頭を上げて立ち上がり、互いの顔を見合わせ不機嫌そうに反らした。
うん。犬猿の仲って感じだ。互いに嫌い合っている、感じ?
「あー、なるほど。あの二人ね」
「ご存知なんですか?」
レナ様が納得顔で頷くので、思わず尋ねる。情報通の彼女は何やら知っているようだ。
「レイズとミリーは知らなくて当然かも。けど、貴族の間ではかなり有名な2家よ」
「というと?」
レナ様が男子生徒の方を見る。
「男子の方は武道の名門ダリアス男爵家長男、ドルト=ダリアス。近距離魔法と肉弾戦が自慢らしいわ。筋骨隆々で、頭の方はそこまで。だけど、格闘魔法戦では神童と言われているわね」
「は、はぁ」
色々と知らない単語を言われ、頭がパンクしそうだ。そのまま、レナ様は女子生徒の方を見た。
「女子生徒の方は水属性魔法を得意とするダズモンズ家の次女、メリーナ=ダズモンズ。家柄の通り、水属性を得意としている。ただ、遠距離は苦手みたいね。とっても勝ち気な性格だから、ちょっと気をつけたほうがいい。炊きつけないように」
と、大まかな概要を聞いたところで、?? が消えることはない。
「あの、それでどうして二人が喧嘩する理由に?」
別に、それぞれが貴族というだけ。
一体何が納得できる理由なのだろうか?
レナ様は肩をすくめ、少し笑いながら言った。
「その両家、お互いに当主が滅茶苦茶仲悪いのよね」
納得。
つまり、家同士が仲悪いので、必然的に互いで嫌い合っているのだろう。
面倒な家柄の子たちを同じクラスにしたものだ……。
「社交界でも凄いわよ? 目があったらドンパチかまして、周りの温度が一気に下がる。けど、そこだけ上がるっていう変な現象が起きるの。変に目をつけられないように、他の貴族たちは挨拶だけして立ち去るわ」
「そんな面倒な家の子たちに、私は手を出してしまったわけですよねぇ」
魔力球を2度も当ててしまったわけである。
リシェナ様を安全に入室させるためだったとはいえ、後々面倒なことになりそうだ。
変な絡み方されなければいいんだけれど……。
「とりあえず、そのことは置いて席に付きましょ。幸い、他の子たちが机と椅子だけは守ってくれてたみたいだし」
花瓶や窓ガラスは犠牲になったものの、席は無事。それなら備品全部守ればよかったのにと思いながらも、僕らは席に向かう。
去り際に二人を見ると、再び顔を合わせて睨み合っていた。もちろん、魔法を使うことはない。
■ ■ ■
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