第3話 祖父、祖母の仕事
仕事が代々受け継がれている話は祖父から聞かされていた。
祖父母は名高い”賢者の夫婦”として名を轟かせていた。
「いつか、俺もじいちゃんやばあちゃんのように賢者になりたい!」
なーんて、幼いころはそんな夢みたいな希望にひかれていた。
山の中に獣の洞穴のなかに隠すかのようにその扉があった。大人一人が通れる程度、太っている人は通れないほどの狭さだった。
その先には見渡す限り広大な荒れた地面が広がっていた。
植物は枯れ、空は紫色で、この世とは思えない不可不思議な場所だった。
「じいちゃんは、毎日ここでなにをしているの?」
子供ながらの疑問を初めてぶつけたのかもしれない。
厳格で自分にも厳しかったじいちゃんはこの世界では一回りかき氷が解けたかのように優しくなる。
「仕事。代々受け継がれる仕事だよ。」
「ふーん…。どんな仕事なの?」
「すぐにわかるよ。」
「じいさま、どうやら今度の敵はちと面倒ですぞ」
「おや、まあ。これはこれはクジラ様ですな。空を泳ぐとはほんと、この世界は不可不思議ばかりじゃ」
絵本で読んだことがある。
クジラは海の生き物で、深い深い水の底に住んでいる怪物なのだという。
戦艦を丸呑みできるほどの大きな口を持ち、小尾などは船など転覆できるほどの強大な力を持った海の化け物と呼ばれていた。
そんな生物が海ではなく空から現れた。
しかも、聞いていた話よりもはるかに大きく、体の色は青紫色に染まり、空の上に真っ黒な船か何かが浮いているようにも見えた。
「八城(父の名前)、扉に避難しなさい。あとは私らでやるから」
すぐさま扉の中に入り、半扉の状態でじいちゃんとばあちゃんの活躍に胸を驚かせながら目をキラキラと光らせ見つめていた。
「八城がものすごい眼差しでみてきますね」
「そうだな。やられたら、トマトのように真っ赤で夜も眠れんようになるかもしれんの」
「それはいやですね。今日も精一杯に頑張って後を継ぐ孫たちにも見せないとね」
夫婦の戦いはすごかった。
一言では言い表すことができないほど、夫婦の息はピッタリで物音せず流れ星ごとくクジラを討滅してしまった。
肉片が地面へ落ち行く中、夫婦はお互い息があったかのようにガッツポーズをとっていた。
現実では絶対に見れない光景だった。
厳しいじいちゃん、人見知りのばあちゃん。
ふたりがあんなにも楽しそうに愉快そうに話し合い、手をつなぎ、そして共に目的を果たすその姿は、けっして現実世界では見ることもなかったであろう。
地面に落下した肉を回収し、王様へ渡してお金にしてもらう。
そのお金は現実世界でも使えるため、こうして大金を稼いでくるのだ。
二人の戦う姿勢に憧れ、自分もああなりたいと努力するようになった。
「妖霊は金にならん」
じいちゃんが言った。
現実世界で、絵を頼りにあの世界の怪物たちのことを語りながら描いていた。
「妖霊って?」
「妖霊は半透明で、武器ではまったく歯が立たない。魔法という妖術しか通用しないうえ、あればひどく疲れる。木刀を一日中振るのと違って一日中活字ばかり読むのと同じほど疲れるのじゃ」
妖霊が出たら、生半可な武器では通用しない。
もし、出て着たらそれなりの対策ができるように妖術を知っておくのが良いとじいちゃんから教わった。
ばあちゃんからは、妖術よりも知識のことを教わった。
「いいかね、すべては武器でも妖術でも敵を倒せるわけじゃないんだよ」
ばあちゃんは紙に書いてくれた。
「敵は常に大勢で襲ってくる。クジラのような大きな怪物が単体で襲ってくることはあまりない。もし、でてきたら…そうだね戦術とならをいくつか伝授しよう」
ばあちゃんからは戦術という戦い方の基本を教えてもらった。
二人の力があって初めて、この仕事ができる。
二人に感謝しつつ、世代交代した俺は、片手に刀剣を握り、もう片方は杖を握る。二刀流。
二人には叶わないけど、ひとりしかいないから。ひとり二つの武器でこなす。それが俺流である。
門番の仕事 にぃつな @Mdrac_Crou
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