エピローグ

 クラシマショーと呼ばれた魔王だった男がのが、外から見ていた私にもわかった。

 あの気持ち悪い液体の塊が、今のこの部屋唯一の魔王、つまりこの迷宮の主なのだ。

 間違いなく、これで決着はついた。

 だが、腑に落ちないことばかりだ。


「……イフィーネ、でいいですか?」


 私たちのパーティのメンバーだったに、そう声をかける。


「まあ、それは偽名だ俺の名前とは違うが、別にいいか。で、なんだ?」

「あなた、本当の目的はなんだったんです?」


 それを聞いて、彼は楽しげに笑った。

 

「本当の目的もなにも、パーティに入れてもらう時に最初に言ったとおり、見てのとおりの魔王退治だ。さっきこいつに言ったことが全てこの魔王を元の世界に連れて帰ることだよ。この世界とは違う、まあ言うなら神の世界にな」


 そのちんぷんかんぷんな言葉そのものよりも、私はずっと、彼の態度が気になっていた。

 喋りと態度が自然すぎて忘れそうになるが、この人物は男なのだ。

 だが、話していてもほとんどそれを感じない。

 パーティメンバーので一応女性のふりをしていたイフィーネだった時とまったく別物といってもいいのに、受ける印象はなんの差異もないのだ。

 その理由には一つ思い当たるところがあった。


「もう一つ、質問してもいい?」

「まあ、いくらでもどうぞ」

「あなた、本当に男なんですよね?」

「そういう事になっているな。まだおっさんじゃないが」

「それでよく私たちといて平気でしたね。こんな格好になっているのに」


 話しながらも私は胸と局部をなんとか隠しているのだが、イフィーネと名乗っていた男は、それをまったく意識する素振りも見せない。

 それが自然すぎる違和感の正体だ。

 まるでこちらが服を着ているかのような(いや、男の中には服を着ていてもこちらの身体を意識している者もいるが)変わらぬ態度。

 むしろ彼に関しては、まるで壁に話しかけているかのような意識の無さなのだ。

 しかし、この人物に感情がないわけではいのはわかっている。

 むしろ正体を明かしてからは感情の塊だ。

 先程の魔王とのやり取りなど、大人げないと思えるほど感情が溢れていた。

 だがいま、彼は私たちと接する態度は、あくまで無に近い平坦さなのだ。


「ああ、そのことか。まあ、こっちは別にあんた方に興味はないんで。うちの姉のほうが美人だ姉さん以外は女じゃないし」


 そして彼は、あっけらかんとそう言い放った。

 それを聞いて、なにかいろいろな感情がよぎっていったが、結局私はただ笑うことしかできなかった。


「……なるほど、それだけのことですか。わかりました。今回はありがとうございました。一応、パーティを代表してお礼を言っておきます」

「ま、そのへんはお気遣いなく。俺も一応はパーティのメンバーだったし。ここはこのアメーバ俺の代理人の預かりとしてそのうち閉鎖するけど、財宝の類は今のうちにどうぞご自由に」

「いいんですか!?」

「俺にはこのダンジョンそのものとこいつ元魔王さえあれば問題ないんで。じゃあ俺はこのへんで帰りますかね。なにかあったらそこのアメーバに伝えてくれ。連絡線は繋げておくから。お疲れさん」


 そしてそれだけ言い残し、イフィーネは不思議な光の膜とともに、元魔王を連れてどこかへと消えていった。


「やっぱり、イフィーネさんは男の人だったね」

「やっぱりって、あなた、最初からわかっていたの?」


 ライラの言葉に私が驚くと、彼女はにっこりと微笑んでうなずいてみせた。


「迷宮にそのまま入れた時は流石に驚いたけど、なにかしら事情のある人なのかなって。まさかあんなにストレートに男だったとは思わなかったけどね」

「いや、よくもまあ、男とわかっていてパーティに入れたね。彼が姉以外に興味がないような奴じゃなかったら、大問題になっていてもおかしくなかったじゃないのよ」

「大問題になってもいいかなって思ったの、実はね」

「はあ?」


 ライラの耳を疑うような発言に、私は思わず言葉を失う。

 冒険者を目指すよりはるか前、子供の頃から相棒としてやってきて、何もかも知り尽くしたと思っていた相手の、思いがけない言葉。


「このパーティで一番キレイなのはあなただし、もしあいつがそういった事を考えたのなら、あなたに対してなにかしてくるかなと……」

「なによそれ! ライラ、あなた、どうしてそんなことを……」


 思わず、彼女に掴みかかりそうになる。

 だがライラの表情を見て、それもできなくなってしまう。


「私は、あなたに失望したかったのかもしれない。子供の頃からずっと、あなたを尊敬してきた。なんでもできて、いつも私を引っ張ってくれて、それでも隣りにいてくれて……そんなあなたが男になびく姿を見て、この程度なんだって思いたくて……でも……」

「知らなかった……ごめんね、私、あなたにそんなに嫌われていたなんて……」

「嫌い? そうよ、あなたのそんなところが嫌い。私とずっといたのに、私のことをなにも知らずに、そんな事を言ってしまうあなたが嫌いなの! だから、そのために……」


 ライラはそのまま泣き崩れ、私はなにも言えなくなる。


「お前の負けだな。ま、なんで負けたのかをしっかりと考えて、これからも仲良くやっていきなよ」


 泣き崩れるライラとオロオロする私を見ながら、エファが意味深に笑った。

 なにもわからないことだらけだが、とりあえず私は、ちゃんとライラと話し合わないとと思ったのだった。

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異世界のプロによるエロトラップダンジョン強奪記 シャル青井 @aotetsu

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