ACT2

『人のせいにして逃げるつもりですか?』 


 彼女は妙に挑戦的な口調と、明らかにこっちをバカにしたような視線を送ってくる。


 俺は二本目のビールを開けた。旨いなぁ。


『どうとでも好きに解釈してくれ。俺は免許持ちの探偵だから拳銃を持ってる。それだけだ・・・・すまないが今日は俺にとって大事なオフなんでね。これ以上貴重な時間を邪魔しないで貰いたい』


 それだけ言うと、俺はソファにごろりと横になった。


 彼女は相変わらず俺を睨みつけ、


卑怯ひきょうだ』とか、


『貴方も所詮は拳銃を撃ちたいだけなんだろう』だのと、言いたい放題喚わめいていたが、俺が相手にしないと分かると、


『また来ますからね』と言い残して、事務所を出て行った。



(二度と来るな)


 俺は心の中でそう呟き、腕を枕にドアに背を向けた。


 客でもない奴に出入りをされるのは、本当に鬱陶うっとうしい。



 これで終わったと安心していたのは、俺が甘かった。


 それから3日後のことだ。


 俺はジョージの運転するワゴン車で、国道134号線を東京に向かって走っていた。


 無論遊びじゃない。


 立派な仕事だよ。


『披露山庭園住宅』といえば、地元では有名な高級住宅街だ。


 そこに住んでいる住人である、元のオーナー社長だった人物から、時価にすれば凡そ数億の価値のあるネックレスを、田園調布に住んでいる女性の元に運んでくれと頼まれた。


 その女性は社長氏の元愛人だった女で、老い先短い自分としては、この世でたった一人愛した女に、自分の愛の証しとしてこれを渡してやりたいという訳だ。


 え?


(そんなのは探偵の仕事じゃない。どこか信頼できるセキュリティ会社にでも頼めばいい)?


 しかしな、今の法律じゃ、警備会社は銃の所持が許可になっていない。


 民間人で銃が持てるのは、俺達免許持ちの探偵だけだ。


 おまけに老人は極度の人間不信に陥っていて、自分の周りにいる人間・・・・形ばかりの結婚をした妻(既に他界しているが)との間に設けた子供たち、会社の人間、一切を信用していない。


 いつどこで狙われるかわからない。そこで彼の顧問弁護士を通じて俺の所に『これを彼女の元に運んでくれ』という依頼が来たのだ。


 俺は老人の手から直接渡されたそのネックレスの入った特殊なケースを渡され、 ジョージの車に乗りこんだという訳だ。


『つけられてるぜ』


 片瀬江ノ島を過ぎた頃、ハンドルを握っていたジョージが、後部座席の俺を振り返っていった。


 俺は身を前に乗り出して、バックミラーを覗き込んだ。


『二台だな?』


『ああ』


『やっぱりプロだな、あんたも』ジョージが笑いながら言った。


『当たり前だろ?』


 一台は黒のセダン、


 もう一台は銀色の4WDだ。


 銃声が響き渡り、後部座席のウィンドに放射状の刻みが出来る。


 バックミラーを覗き込むと、セダンの助手席から身を乗り出すようにして、男がライフルを構えているのが見えた。


 










 



 





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