第7話 久しぶりの故郷、公園に友達
僕は帰りのHRが終わった瞬間教室を飛び出した。
皆がどうした!? と聞く。大声で急用!! と答える。間違ってはいない。
校門から出、家へと帰る。
50メートル走のタイムが0,5秒でも短ければ良かった、なんて思う。
まぁ、こっちの僕の方が1秒程短いのだけれど。
隣にキッチンと洗濯機がある、古びた家。全財産と保険証諸々が入っている財布とスマホを小さなトートバッグに入れ、数週間ぶりに玄関扉のノブを触る。
その先の世界はやっぱり僕の目には醜く見えた。進む事に少しだけ躊躇する。
けれど、こんな状況でおそれていては駄目だと思い、走り出した。
駅までは約2キロメートル。使い慣れない自転車を側に置いたままの自宅が、気付けば小さく見えた。
切符を買う時、新幹線を待っている時。心の中で早く速く、と急かしていた。
実際は何も変わらないけれど、少しだけ早く
新幹線に乗る。長旅の間、スマホで彼の状態を確認する事にする。
樂が利用しているSNS。ログイン無しでも閲覧はできると聞いた事がある。
ハンドルネームは……ゆらり、とか言っていたっけ。彼が生まれて間もない頃、3歳で亡くなったお姉さんの名前がゆらで、それにりを付けたんだ、という話も。
『ゆらり 姉 名』で検索。最初の方に表示されるのは犬、猫、幼い子供、ハムスター等々。
けれど、しばらくスクロールしていると、彼らしき人物を見つけた。ユーザーネームはゆらり@男子高校生。
……"名前の由来ですか? 俺が赤ちゃんの時に亡iくなった姉の名前がゆらで、それにりを付けたんです。両親が語るゆらのように、明るい人になりたいなって。"
亡とくの間にあるiはアカウントの凍結防止といった所だろうか。
現実より数倍優しげな口調だけれど、言っている事は全く同じだ。本人だろう。
ゆらり@男子高校生のユーザーページに飛ぶ。フォロワー12、フォロー20。活発に『#~さんと繋がりたい』を使ってなさそうな彼のアカウントの最初に表示された文章を見た途端、目を見開いた。
……"公園で毎日暴i力。痛い。放課後もまたやられる。上京した親友にダメ元でメッセージを送ってる"
リプライ、お気に入り、拡散共に0の、1時間半前に投稿されている短い文章。
それを確認し、静かにスマホの電源を落とした。
やはり、あの背中の痛みは彼を襲った痛みなのだ。さっきまではいくら不思議な世界だからといってそんな事があるのかと少しだけ疑っていたが、今はそんなそんな思いは全くない。
放課後もまたやられる。きっとやられはじめているのは今頃だ。
東京から故郷までは最速でも3時間以上かかる。到着する頃にはもう日が暮れているだろう。
ボロボロになって、家に帰っているだろうか。それとも公園でまた暴力をふるわれている? 気絶でもして、歩く事どころか意識も失っていたら……。
笑顔が素敵な彼が、暴力をふるわれている。
やられる理由は分からない。けれど、経験のある自分からしたら、誰かに痛め付けられるというのはそうとう嫌で、苦しくて。
そう、勝手口の先の、安全で自分が人気者の不思議な世界に逃げ込みたくなる位。
最速で、できるだけ早く助けたい。新幹線に乗って正解だったと思う。
……なんとなく、今自分がいる風景がそれほど醜く見えない気がする。気がするだけだけど。
駅に着いて走れるように、車内販売の弁当はゆっくり食べた。どう足掻いても時間単位で乗る事になるんだから、ガツガツと早食いしても仕方がないからだ。
クーラーが効いているこの空間で、思い切りだらける。平日の16時だ。ガラガラの車内なのだから、隣の席に人なんかいない。通路を跨いだ席には人がいるとか関係ない、通路はけっこう広いのだ。
駅に到着し、改札めがけて早歩きをする。切符を入れるのでその分カードより時間がかかるのも嫌になった。
でも、もう通り抜けたのでどうでもいい。前住んでいた所はここから少し離れているので、バス停へ向かった。時刻表を確認すると、今から2分後に来るようだ。
バスの車内もクーラーが効いている。止む事のないアナウンスを聞きながら、到着するのを待った。
代金を支払い、バスから飛び降りると、
……ビンゴ。そこには、数名のガタイの良い男子と彼がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます