第8話 親友と自分、玄関の先の世界

 自分の目の前で殴られ蹴られているがく

 思っていたよりも加害者が強そうで、玄関扉の先に出た時よりも先に進むのを躊躇あうる。


 ただ見るだけの時間があった。何もできず、ただただ既に日が沈んでいる外で突っ立っているだけ。

 外灯でうっすら明るくなっている所で暴力を振るわれ続けている彼。グーで殴られた顔面についている奥二重の目が自分を見付けた。

 彼は目を見開き、けれど強引に倒されて苦しい声をあげる。

 そして、昼と同じ所を蹴られて……


「やめろ!!」

「伊吹……!!」


 気付けば樂の手を握って公園を出ていた。

 後ろを見れば、さっきまで彼に暴力を振るっていた数人が僕を睨んでいた。

 右肩と左の頬が痛い。あの戦場に突っ込んだ時に殴られたのだろう。

 でもそんなのどうでもいい。樂を助けられたのだ。


 樂の家の駐車場に着く。共働きなので車が停まっていないそこで座り込む。

 完全に座った彼が口を開いた。


「伊吹ありがと、助けてくれて。俺の自慢の友達だよ!!」


 その瞬間、ずっとうす汚れて見えていた景色が鮮やかになった。

 嗚呼、これが本当の、玄関の先の世界なんだ。


 濁っていない今の世界は、勝手口の先の世界と同じような透明度で。

 それでも勝手口の先の方が不自由ないし、スタイルいいし。

 けれどやっぱり、ここが僕の住むべき世界なのかな、って。

 そう思った。


 しばらくすると、左に一台の車が停まった。

 出てきたのはがくのお母さんで、僕らの姿を見るととても驚いた。

 ボロボロの彼、久しぶりに姿を現した僕。非日常過ぎるのだから無理もない。


 樂を見て、彼のお母さんを見て、もう暗いけれど綺麗な街を見て。

 ここに戻りたいな、なんて思った。

 勝手口の先は確かに幸せだけど、上京してから初めて帰ってきて、樂を助けて。

 彼の家で麦茶を飲みながら考えた。

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