気味の悪いもの

「ボス、何見てるんですか?」


 視界の端に金髪が映り込む。ジョディがモニターを覗き込んできた。


「敬語じゃなくていいと言ったろ。それに俺はボスじゃない、皆同じ平社員だろ。ちょっと気味の悪いものがあってな──」


 そう言いながら俺はパソコンを操作した。

 ここは数年前に突如現れた「巨大樹林」を研究するための施設だ。

 俺たちはここで働いているが、最初から研究員だったわけじゃない。

 俺たちは、この施設がなんのためにあるのか知らされず、清掃員をしていた。

 しかし、「一斉に研究員達が辞めてしまったので、今日から君達が研究員だ」と、通達があったのだ。桁が一つも二つも増えた月給の記された紙とともに。

 中には不審がって、辞退した者もいた。ここにいるのは、それでも残った者たちだ。


「一番年上なんですし、本当のボスは姿を現したことがないし、一番仕事熱心ですし……もうボスがボスでいいんじゃないですか?」


 ジョディがボスを連呼する。──もしかして、俺の名前を覚えてないだけなんじゃないだろうな。


「……まあ、なんでもいいさ。これを見てくれ」


 パソコンの画面のゴミ箱を開き、ジョディに見やすいようにモニターの前を譲ってやる。


「なんですか? これ」

「何か分かるかと思ってな。完全に消えたデータをどうにか復旧させてみたんだ」


 えっ、凄いじゃないですかー!と黄色い声が聞こえる。これのために数ヶ月費やしたんだ、もっと褒めていいぞ、と気持ちが大きくなる。


「あっ! もしかして、みんなで第六調査団を送り出した日から毎日パソコンいじってたのそれですか?」


 ああ、そうとも、と答える。すると、彼女からてっきりオタクなのかと……という呟きがこぼれた。

 先ほどまで大きくなっていた気持ちが、途端にしぼんだ。確かに冷静に考えれば、自分のその行動はまさしく機械オタクだな……。


「──ッそれよりもだ!」


 気をとり直して、話を続けよう。仕切り直す言葉を言えば、ジョディは少し姿勢を正した。


「これは、さっき流していたデータだ。さっきの、最初から聞いてたか?」


 ゴミ箱の中のデータの一つを指差して質問すると、肯定の返事がある。


「西暦XXXX年四月一日と言っていましたね!」

「そうだ。だが、これを見て欲しい」


 そう言って、同じデータの保存日時を指差した。

 ジョディがモニターを覗き込み、読み上げた。


「これ……西暦も日付も全然違うじゃないですか」

「そうなんだ。しかも見てくれ」


 そう言って今度はそれともまた違う日付のデータを再生する。


『──西暦XXXX年四月一日。今日から我々第一調査団による──』


 適当なところで動画を止める。どんな反応かとジョディを見れば、思いっきり眉を寄せていた。


「なんですか? これ。全く同じこと言ってるじゃないですか。なんのために動画の複製をしたんでしょうか。しかもこんなに期間を空けて」


 まさにそうなのだ。あまりに不可解すぎる。

 その上、同じようなデータが、今までの調査団の数だけあるのだ。

 二人して唸りを上げながら考え込むが、一向に解明されなかった。

 パソコンからピロンッと通知が鳴った。調査団からの報告を知らせるものだ。


「おい、定期報告だ。みんなに知らせろ」


 そうジョディに言えば、はーいと元気のいい返事があった。

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