定期報告
プロジェクターの前に集まる研究員たちはそわそわとしている。
月に一度の定期報告は、その度に新しい生物の記録が送られて、研究に慣れていない元清掃員たちの楽しみとなっていた。
──今日はどんな生物が見れるのだろうか。この前の空を飛ぶ巨大なダンゴムシのような生物の映像は面白かったな。その前の地を泳ぐ魚もだ。確かに──
皆がざわめき立つ中、プロジェクターが起動する。途端に研究員たちが静かになった。
『──西暦XXXX年十月一日。我々第六調査団による六回目の報告だ』
隊長である一人の男が出てきて、資料を見ながら話を始める。一回目のときは熱帯林のように鬱蒼とした樹木が主に生えていたが、画面を見る限り広葉樹が目立つ。それに、地面は土よりも草原が主であり、他の隊員が休んでいる場所を見れば、湖があった。
「随分様子が変わったな」
俺がそう言えば、皆がそれに頷いた。しばらく報告を静かに聞いていると、後ろで眠っていた一人の隊員が起き上がるのが写る。そこまでは何もおかしいことではない。問題はそのあとだ。
『おい、ここはどこだ! 隊長、隊長はいるか!』
カメラから少し離れた場所だと言うのに明瞭に聞こえるほど大きく男が叫ぶ。周りの隊員はその異常に慣れているのか、ゆっくりと男を落ち着かせるように声をかけているのが見える。
『現在我々は、出発前に上空から撮影した写真で判断するに、中心から一キロメートルほどの場所で休息をとっている。しかし先週から、このように〝入り口からここまで〟の記憶を突如失う隊員が出てきた』
隊長の口から告げられた驚愕の事実に再び研究員らはざわついた。口々に困惑を表に出す。
「どういうことだ?」
「過去の事例は?」
「ない! 仕事を受けた時に何も記録が残っていないのを見たろ!」
誰かがそう言ったのにそう答えた。先ほどジョディと観た、一日目のデータしか復旧できなかったのだ。他のものはさらに入念に消されて、俺には復旧ができなかった。
『おい、みんな起きたな? ならビデオを回したまま最奥地に行こう』
そう言って隊長が隊員らをまとめる。全員いることを確認した彼は、カメラを前方に向けながら歩みだした。
『このように、入った当初とはまるで違う景色だ』
喋るのは隊長だけで、他は黙ってついてきていた。みんな疲弊しているのだろう。元々探検家ではないのだから、無理もない。
しばらくすると、一日目の動画に出てきていた生物が茂みから現れた。
『おおー! またお前か! 今回も案内してくれ!』
隊員らしき声が入る。それは随分と嬉しそうで、俺は不思議に思った。
『こいつは度々現れて、逸れるたびに奥地へと道を修正してくれるんだ』
疑問を口にせずとも隊長が説明した。まあ勿論ここで質問しても、収録済のが送られるのだから意味はないのだが。
ピョコピョコと謎の生物が奥へと進む。
だんだんと周りの景色は変わり、入った当初のような、鬱蒼とした森へと変わった。
不意に、謎の生物が立ち止まり、こちらを向いた。
『お、ここが最奥地か』
ここまでありがとうな、という声とともに隊長の手がその謎の生物に伸びた瞬間だった。
──バクリ、という幻聴が聞こえるほどの大口を開けてその生物が隊長を飲み込んだのだ。
カメラが土の上に落ち、その光景をプロジェクターへと映し出す。
隊員らは一瞬訳もわからず言葉を失うが、一人が声を上げて逃げ出すと、全員がパニックに陥った。
男も女もなく悲鳴をあげて逃げるも、その生物は次々に人を飲み込む。その身体は最初はウサギほどであったが、隊長を飲み込めば犬ほどに、次の人間を飲み込めば獅子ほどに、その次には熊ほどにと──どんどんと図体を大きくしていった。
「おい、これどういうことだよ」
ただただ言葉を失っていた研究員らのうちの一人が呟いた。その映像のあまりの凄惨さに誰も彼もが目を背ける。
映像から流れるものが無音になった頃には、そこかしこから鼻をすする音がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます