ウザイのは何とかしてほしいが、レックスが適任

 孤児院の庭では、既に朝ご飯の時間が始まっていた。

 ミーンは子供らに何かを話しかけているみたいだが誰も耳を傾けず、一心不乱に肉にかぶりついている。


「で、えっと、あ、この人がヒーゴお兄さんです。そこの、ちょっとお喋りなレックスお兄さんの二人から、みんなにいろんなことを教えてもらうことになるからねー」


 何という空回りな園長先生か。

 子供らから相手にされない大人ってのも哀しいものだ。


「何が教えてもらう、だ」

「あ、ヒーゴ。ごめん。この子達に紹介するの忘れてて」

「別に気にしない。名無しでも構わんが。それより緊急連絡事項だ」

「緊急?」


 一々こいつの反応を待ってはいられない。

 ややこしい奴に口を挟まれたら、話がこじれててこっちにまで余計なトラブルが飛び火してしまう。


「自警団がどうのって言ってたよな? そいつらから報告があったんだそうだ。今朝の巡回で俺と同じ青の一族と遭遇したってな。お前、その報告は受けたか? それについてどう動く?」

「え? ちょ、ちょっと待って。一体何の」

「うるさい。お前はそいつをどうするか、どうしたいかという話を聞きたいだけだ。そいつを見つけるまで山の中をさ迷い歩けと? 見つけるまで帰ってくるなと?」

「話について行けないわよ。一体」

「だからうるさいって言ってるだろ。俺達が食料調達しに行く前に言ってたな? 自警団がどうこうと」

「え、えぇ。それが?」


 こいつは人の話聞いてなかったのか?

 それでよく指令役が務まるものだ。

 情報収集こそその立場の肝だろうに。


「それが? なんて暢気すぎるぞ。大体なんで自分の指揮下にある組織の情報が、俺の方に先に来るんだ。自分が管理する組織の把握ができてないな? 今はそんなことより」


 言葉を続けようとしたが、後ろからこいつを呼ぶ声が近づいてきた。

 ライナスも孤児院の中から出てきた。

 いつここに入り込んだのか分からんが。

 まあ俺の知ったことではない。


「……ゴっ! おいっ、ヒーゴ……お、お嬢様?! え、えーと」


 まさかこんな朝早い時間にこんなところになぜこのお嬢様が? という、信じられない顔をしてる。

 主に無関心な執事ってのも変な話だが。


「ライナス、おはよう。……今ヒーゴから自警団の話が出たんだけど、報告がこっちにこなくて、先にヒーゴの方に届いてるって言うんだけど、どういうこと?」


 なんだよ。しっかり理解してるじゃないか。

 だが場所と状況考えろ。

 上司が部下を窘めることは必要だろうが、俺みたいな部外者や無関係な子供らに聞かせる話じゃない。

 それに俺が求めてるのは、俺への指示だ。


「で、いるかいないか分からない存在を、見つけるまでこの山の中を探せばいいのか? 見つけるまで帰ってくるなと? 流石に日当が金貨一枚じゃ足りなすぎる」

「おい、何かあったのか? つか、お前、まだ朝飯食ってねぇだろ?」


 こんな時にレックスまで口を挟みにやってきた。

 話をややこしくするなよ。


「……ライナス。あとで執務室に来なさい。自警団みんなも一緒に」

「用件があるのなら、その間の巡回は」

「……ヒーゴとレックスに任せます。ただし、巡回ではなく付近の警護になるけれど」

「お嬢様、それでは」


 内輪揉めをいつまで聞かされなきゃならないのか。


「なぁなぁヒーゴ、何がどうしたのよ?」

「遭遇した自警団の連中、青の一族を見かけたんだと」

「ありゃ。……ふむ。俺に考えがある。ヒーゴはちと黙っててくれねぇか?」

「変な事言いだすんじゃないぞ?」


 任せろ、とばかりにドヤ顔をこっちに向ける。

 それが不安なんだよ。

 まぁ交渉の類も苦手じゃなさそうだし、静観するか。


「あー、ヒーゴ以外にも青い奴見かけたんだって?」

「お前は引っ込んでろ!」

「ちょっとライナス! あなたは彼らにそんな口を利く立場じゃないでしょう?! ごめん、レックス。今あなたに構ってる」

「いやいや、今ヒーゴから聞いたけど、あいつのほかに青の一族を見かけたんだって?」

「ちっ。あのお喋りめ」

「見間違いなんじゃないの?」

「「見間違い?」」


 おいおい。

 静観することにしたが、いくらなんでもそれは。


「あの連中って、青い肌を隠したがるだろ? 俺も研究所にいた頃にそういう奴何人か見たけど、みんな角随ってたぜ?」

「研究所にいた頃……あぁ」

「ミーンちゃん、俺の過去話はともかくだ。姿を隠したがる奴はそんな奴らばかりじゃないだろ? そうじゃない奴と青の一族と見間違えたんじゃねぇの? もしそうだと確定してるなら、そんなこそこそしないだろ。ひっ捕まえるんならすぐにでも山狩りでもするつもりなんじゃねぇの? そうしないってことは、目撃者の気のせいかもしれないってことだ」

「そ、それは……」

「それに俺ら、ミーンちゃんの依頼で来てるんだぜ? あのガキんちょどもの相手をするって依頼だったよな、なぁ?」

「え、えぇ……そうよ。それ」

「飯食ったら早速畑耕さなきゃな。あれじゃこの人数を賄えない。それが終わったら山に行って、食える草や木の実とか教えてやらなきゃな」


 舌先三寸、だったか?

 あいつの場合、口先十割って感じだな。

 ……いや、そのドヤ顔ウザいからこっちに向けるな。

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