俺と相棒の能力の一部
レックスの方に魔族とかが寄ってくる、という話。
これも、本人にとっては残念な事ながら事実。
なんで綺麗なねーちゃんを呼び寄せる能力をつけてくれなかったんだ、と戦場に出るたびに嘆いてる。
諦めろ。
戦場に出ている綺麗なねーちゃんの気持ちなら、お前よりも敵兵や魔物がどこにいるかに集中している。
どのみちお前の希望通りに近寄ってもらいたい者は来てくれない。
世の中生きてて碌なことはなかった。
約二十年前からずっと、こいつはほんとに何も学んでないな。
そんな愚痴の中身もほとんど変わらない。
まぁ口から出るネタが尽きれば、同じ話が何度も繰り返されるのは誰でも同じか。
レックスが未練がましく綺麗なねーちゃんを二度ほど口にしている間に目的地に着いた。
こいつの俊足、そして健脚の安定ぶりは戦局を優位にしてくれる。
「なぁヒーゴ、この位置でいいのか? 壊魔からは最短距離だと思うが、馬車とここと壊魔じゃ「く」の字だぞ?」
どこまでも綺麗なねーちゃんに拘っている。
壊魔に襲われる彼らの前に立ちはだかり、壊魔を討伐するかっこいい俺。
そんな姿を想像してるんだろう。
それは想像ではなく、妄想という。
彼らが俺らに背を向けて、壊魔の存在自体知らないでいる可能性がある。
討伐後、彼らの前に姿を現し、かっこいい姿を見せたいところだろうが、そんな状況だと間違いなく痛い人馬族の男としか見られないはずだ。
「知るか。そんなことより、俺達が丹精込めて栽培して実り豊かにした作物が台無しになるかもしれん。そっちの方がつらいに決まってるだろう」
「ヒーゴ……マジでお前、農業に向いてないか?」
実り豊かに育ってくれ、と毎日心の中で声をかける相手の方に情が傾くのは道理だろうが。
そっちは見も知らぬ相手にすり寄ってほしい、と無節操な妄想。
一緒にしてほしくはないもんだが。
「……上陸して全身見えたら、いつも通り突進。あとは流れでぶっ倒す」
「ほいほい。……ようやく海上から一部見えたって感じだな。全身はしばらくは出てこないな」
レックスの戦闘能力は、その突進に特徴がある。
目標との間に五メートル以上の距離があればそれは発動できる。
目標物を貫通することができ、その間あらゆる攻撃を防御し、それらを決して後方に逸らすことはない。
真後ろにいる者達をも防御することができる。
だから守るべき者とこの二者が一直線にならないことがあれば、それをやや異様に気にする傾向がある。
そしてその能力発動には体力を要し、一度の戦闘での使用は五回が限度。
五回までなら、六時間程度の睡眠で回復できるがそれを越えると丸一日くたばってたりする。
このような状況ならば、二回以上能力を発揮する必要がない。
その上俺もいる。
俺はというと……。
「ヒーゴ、上陸したぞ? 馬車の方が何やら騒がしいが、ここで仕留めりゃ被害はないよな」
「あぁ。じゃあこのまま突進してくれ」
「了解」
海から現れた壊魔は、周囲に向けて放射状に数多くトゲが向けられている鉄球。
確かモーニングスターとかいったか、あの鉄球の直径が五メートルくらいの形をしている。
レックスは俺を乗せて、七メートル先にいるそいつに突進の能力を発動。
そいつの体内を通過中、俺は手を伸ばしてそいつの内部と接触。
そして通過。
「ヒーゴ! ちゃんとやれたか?!」
「問題ない。あとは自滅を待つだけだ」
俺の能力は発動後、相手に手で触ることで効果を発揮することができる。
その効果とは、引力。
能力を発動した手で触った物は、その物体の中心に引力が発生する。
その物体は内部からそこに引き付けられる。
外から見れば、外部から圧力が加わっているように見える。
だから次第に小さくなっていき、やがて自分の意思で移動できなくなる。
収縮する動きが止まると、いきなりそれは壊れ、崩れる。
それと同時にその引力も消滅する。
その物体の外部に接触してもいいのだが、その場からすぐに離脱することができなければ、返り討ちに遭うことは間違いない。
レックスの能力でも、万が一予測不能な事態が起きる可能性はある。
その欠点を互いに補い合うことができる、ということで、相棒というわけだ。
「ねーちゃん、こっち見ててくれてたかなー」
このウザさがなければ、何も言うことのない最高の相棒なのだが。
「残骸確認するぞ。壊魔だから食える部分はないと思うが」
壊魔の体は外殻ばかりじゃなく、中身も金属に似た物体で形成されていたりする。
流石に消化できない物は食い物にはできない。
だが俺達の装備は壊魔の残骸からも作ることができる。
「新しい装備作れるといいな。どんな装備でも頼めば作ってくれ……あ……すまん、ヒーゴ」
……何を謝ることがあるのやら、だ。
謝ってほしいことがあるとすれば、ウザい口が多いことだけしかない。
「そんなことより、食える部分はどこにもないな。なら放置でもいいか」
「……だな。ほったらかしにしても汚染されることがないってのも不思議な話だけどよ」
大きな残骸は、歪んでいようが丸まってようが、使い道はたくさんある。
しかし細かい物は大きくすることができないのでゴミになる。
が、大きい物はそれなりに重い。
誰もいないここでは、横取りされることがないからあとで取りに来てもなくなってる心配がないから問題はないが……。
「ヒーゴ、あの二人、こっちに向かってくるぞ」
まさか素材の横取りに来たのか?
まぁ俺達に不要な物を取りに来たんなら気にすることじゃないが。
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