本業よりも自給自足の作業の方が忙しい
確か大雨が降ったのは三日くらい前か。
毎日毎朝、真っ先に気になるのは天気の動向。
自給自足の生活をしている以上、その影響は計り知れない。
空、そして大地の恵みの何と有り難いことか。
俺……いや、俺たち二人は、基本的には自給自足の生活をしている。
こんな生活をして五年目に入った。
目の前にある、俺と相棒の手製の田畑と果樹園は、毎日実りが充実してうれしい限りだ。
このフィールドでは、俺達二人分の一年間の食料を問題なく採り続けることができる。
食料不足になることはないが、つくづく二人でこんなに広く耕せたものだと我ながら感心する。
ここは、壊魔が真っ先に壊滅させたウールウォーズ大陸。
この世界には七つの大陸があるのだが、一つを残した六つの大陸に住む者達は皆命を失った。
壊魔は、この世界の住人が築き上げた文明やその命を奪い、壊してまわる。
なぜそんなのが生まれたのかは分からない。
ただ、極北地点に天高くそびえたつ一本の光の柱から魔獣や邪龍、オークやゴブリンなどの魔族と共に、週に二、三体ずつ現れ、そして世界を壊していく。
俺達……世界が壊魔について知っていることはそれくらい。
大陸を蹂躙した後は、その地にはまるで無関心のように、その地を後にする。
ときどき方向が分からなくなったような壊魔がまた戻ってくることはあるが、たまにしか起きない。
それ以外の壊魔は、そこに戻ってくることはない。
俺達はその習性を突いて、荒れたこの大陸の一部に住みつくことができた。
文明が存在しないということ以外で、ここでの生活に問題点はない。
動物性たんぱく質も問題なく摂取できる。
文明は破壊されたが自然はほとんどそのまま残っている。
壊魔の襲来はないが、魔族はそこにやってくる。
海釣りで魚は獲れるし、魔獣や龍などの肉が食用にできると分かれば、それで補うことができるからな。
……あぁ、問題点は一つあった。
それは……。
「おーい、ヒーゴ。今日も釣れたぜー。大漁大漁。綺麗なねーちゃんもこんだけ釣れたら言うことなしだがなー」
こいつだ。
相棒のレックス。彼の名前はそれだけ。
セントール族……人馬族と言った方が分かりやすいか。
馬っぽい体の首の部分が人の上半身になってる半獣人。
だがちょっと体型が……まぁ本人もあまり改めて人に言われたくはないらしい。
いずれ人馬族を自称している。
そういうことで、下半身の動物の部分は人目に見せたくはないようで、下半身全てをローブで覆っている。
その気持ちは分かる。
俺も人に全身を見せたくはない。
天気が晴れだろうと雨だろうと、常に黒いローブを羽織ってる。
気分によってはフードを脱ぐこともあるが、頭部もあまり人に見せたくはない。
で、問題点の話だが、こいつがうざい。
とにかくうざい。
そしてうっとおしい。
口を開いて二言目には、綺麗なねーちゃんときたもんだ。
ここで生活してるのが俺とこいつの二人きりだから、こいつの話し相手は俺しかいない。
他にも誰かが住んでいたなら、そっちに矛先を向けさせることもできたんたが。
「レックス、あまり獲りすぎるな」
「つってもよー。俺っていろんな生き物から好かれ過ぎだからなー。来るなっつっても来ちゃうんだよなー」
「来てほしい相手には相手にされず、来てほしくない相手にはまとわりつかれる、と。だから寄ってくる魔族とかはぐれ壊魔は、お前の方が多いんだな」
「ヒーゴ、お前はいっつもフード被ってっからもてねぇんだよ。もう言い伝えを気にする奴らは、この世界のどこにもいねぇよ?」
「口数が少ない方がもてるって統計もあるらしい?」
「男だって愛嬌も必要さ。お前の不愛想な態度は箸にも棒にもかからねぇっての」
うざい。
俺に人差し指を突きつけるばかりじゃなく、その格好を良く見せようと一々決め顔になるのがうざい。
「大体統計とろうにも、その相手がいねぇだろうよ」
「お前に寄ってくる女性もいない。女性どころか人自体いない」
「違ぇねぇや。ははは」
俺はヒーゴ=カナック。
種族は……元々は人族だった。
だが今では半分になった。
もう半分の種族は、その光の柱から現れる魔族の一つ。
つまり半人半魔ってことだ。
人からは侮蔑の感情を込めて、『混族』と呼ばれている。
見た目は人間なんだが、魔族の血統が少しでも混ざるとどんな種族でも全身が青くなる。
言い換えれば、魔族の血が混じっている証拠ってことだ。
それは、この世界の人々から忌まわしく思われ、迫害される。
だから、そうとはばれないように、今日のような天気のいい日も雷雨の日も、雪が積もる季節でも、この黒いローブを羽織ってるって訳だ。
「だが女性どころか壊魔も来ない。不人気キャラに変わってしまったな」
「ばか言え。仕事の依頼が来りゃ壊魔どころか魔族よりも、言い寄ってくる綺麗なねーちゃんの方が多くなるってぇの」
俺相手に胸を張って決め顔をする意味がどこにある?
その口がなくなったら、いくらかはそんな女性が一人くらいは増えるだろうに。
ここには一人もいないがな。
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