二十一 ベレンテル候の真意

 その日、風邪気味だった白雪姫はベッドの上で朝食を取っていました。お盆の上には暖かいスープとパン、バター、そしてジャムカップにはリンゴのジャム。


「白雪姫様! 姫様! お気を確かになさって下さいませ」

「誰か、お医者様を! 早く!」


 お城は大騒ぎです。召使い達が右往左往している所に、ベレンテル候が飛び込んで来ました。後ろにお妃様が続きます。


「白雪! 白雪や! 目を覚ましておくれ! 一体、何故こんなことに」


 朝食の盆は既に下げられていました。ですが、ベレンテル候は白雪姫の口元についたリンゴジャムから、お妃様に毎週日曜日に食べさせているあのジャムではないかと思いました。


「白雪の朝食の盆を持ってこい」


 召使いが慌てて朝食の盆を持ってきます。候は盆の上に乗っていたジャムを指ですくって舐め、すぐに吐き出しました。それは毒リンゴで作ったジャムでした。お妃様を病気にする毒でした。

 お妃様の夫であるベレンテル侯は決して王になれません。しかし、女王であるお妃様が病気になれば、お妃様の代わりに政治を行い、権力の実権を握れます。

 候の目的はそこにありました。

 お妃様が死んでしまっては、現在のお世嗣、亡くなられたお妃様のご夫君、先王の妹君の孫、御年十歳になるマーク・ロレンスが、祖父のタイザー候を摂政として王になるでしょう。

 生かさず殺さず、一週間に一度、スプーン一杯を与えておけば、体調が悪くなるそんな毒でした。

 最初、候は毒リンゴをお妃様に食べさせていました。ですが、毒リンゴはやがて底をつくでしょう。無くなった時の為、毒リンゴでジャムを作らせておいたのです。

 まさか、白雪姫が食べるとは候は思ってもいなかったのです。


「この朝食を作ったのは誰だ? 何故、リンゴジャムを出した?」


 召使いの一人が言いました。


「ジャムが切れてしまったのです。残っていたのは、お妃様用のリンゴジャムだけだったのです。お妃様用であればお毒味は済んでいると思いそのままお出ししたのです」


 ジャムカップにはほとんどジャムは残っていませんでした。

 候は急いで自室に戻り毒消しを金庫から取り出し愛娘の元へ戻ります。


「白雪よ。さあ、これをお飲み。飲めばきっと良くなる」


 ベレンテル候が白雪姫の口に毒消しを流し込みます。しかし、死んでしまった白雪姫には毒消しを飲み込む力はありません。


「お願いだ。白雪、これを飲んでおくれ」


 泣き伏す候を見ながらお妃様が部下に命じました。


「馬車の用意を致せ! 小人が持っているガラスの棺に白雪姫を入れるのじゃ。まだ、間に合うかもしれぬ」


 候は白雪姫を毛布で包み抱き上げて馬車へ急ぎます。お妃様も後に続きました。




 その様子を一郎は見ていました。馬車では遅いと思いました。

 一郎は壁からポンと飛び降ります。

 掃除をしていた召使い達がびっくりして見ています。


「誰か窓を開けて! 早く!」


 一郎は自分が自由に動けるとわかった時から試してみたい事がありました。

 空を飛ぶのです。

 一郎はその場で浮きたいと思いました。1cmほど浮き上がりました。後は要領です。腕があれば、スーパーマンスタイルで飛ぶのだけどと一郎は思いました。ここは魔法の絨毯スタイルがいいようです。

 一郎は横になって浮きたいと思いました。ふわりと浮きあがります。天井近くまで浮き上がりました。下に実験室が見えます。一郎はそのまま召使が開けた窓から飛び出しました。白雪姫の寝室を探します。中庭に馬車が引かれているのが見えました。ベレンテル候が白雪姫を抱いて馬車に駆け寄っています。後ろにお妃様が続いています。


「お妃様、白雪姫様を私にお乗せください。さあ、早く」


 一郎は中庭に滑るように降りて行きました。

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