十 白雪姫、授業をサボって森に行く

 ベレンテル候の愛娘、白雪姫は森が大好きでした。故郷に帰ったような気分になれたからです。その日も書き取りの授業をサボって、一人森の奥深くへと遠乗りに行きました。今まで行った事の無い小道を辿ると、小さな原っぱに出ました。そこは木々がなく青い空が見えます。森の中には時々こんな原っぱがあるものです。どこからか人の声が聞こえてきました。原っぱには誰もいません。誰だろう、どこから聞こえるのだろうと白雪姫は不思議に思いました。原っぱの向こうは小高くなっていて、小さな丘のようです。その横に洞穴の入り口が垣間見えます。どうやら声はそこから聞こえてくるようです。白雪姫は馬を森の中に隠して近づいてみました。


「一郎さんはいつ目覚めるんじゃろうのう?」

「いつか目覚めるさ、魔法の強い匂いを感じるんだ。俺の嗅覚は確かさ」

「本当か?」

「確かだろうな」

「ああ、確かだ。いつか目が覚める」

「だけどなぁ。今、目が覚めてほしいよなぁ。伝説のラーメン、食べてみたい!」

「俺も」

「俺も」


 やがて、誰かが出てくる気配がしました。白雪姫は慌てて身を隠そうとしました。しかし、隠れる所がありません。白雪姫は覚悟を決めました。

 出て来たのは、小人達でした。

 小人達もまた、白雪姫を見て驚きました。


「おや、これはこれは、可愛い女の子だ」

「女の子がこんな所で何をしているんだい?」


 小人達はバラバラと白雪姫を取り囲みました。


「おやおや、この子はワシらを怖がっているぞ」

「怖がってるぞ」


 小人達はゲラゲラと笑いました。


「こ、怖がってなんていないわよ。私は白雪姫。森には遠乗りに来たの。私の故郷に似ているから、私は森に来るのが好きなの。お前達こそ、何者?」


 白雪姫は叫んでいました。

 小人達は笑うのをやめて言いました。


「俺達は鉱夫さ。七人でチームを組んで、この先の坑道から金や宝石を掘ってるんだ。そうだ! うちに遊びにおいでよ。お茶をご馳走するよ。今日は特別美味しいキイチゴのパイの日なんだ。いつも七つに切り分けるのに苦労してね。あんたがいたら八等分に分けられる」

「そうだ。八等分にできるぞ」

「そしたら、喧嘩しなくてすむぞ」

「そうだ。そうだ。喧嘩がなくなるぞ」


 小人達はとてもフレンドリーで悪い人には見えなかったし、小人達に喧嘩をして欲しくなかったので、白雪姫は小人達の家に行くことにしました。

 小人達の家は原っぱを抜けた森の奥にありました。家の裏には小川が流れているのか、サラサラという音が樹々の中に響きます。小人達はガーデンテーブルにティーカップを並べ、キイチゴのパイを出して来て八等分にカットしました。嬉しそうです。だって、そうでしょ。七等分なんてどうやって切り分けろって言うんです。

 あたりにお茶の良い香りが漂い始めました。小人が白雪姫のカップにお茶を注ぎます。


「さあ、召し上がれ。キイチゴのパイだよ」


 パイはキイチゴの酸味と甘みのバランスがなんとも絶妙な一品でした。白雪姫はあまりの美味しさにうっとりしました。

 ケーキの美味しさに何もかも忘れてしまいそうでしたが、白雪姫の旺盛な好奇心はケーキの美味しさにまさったようです。


「あの洞穴はなーに?」


 白雪姫は尋ねました。


「あそこで何をしていたの?」


 小人達は顔を見合わせました。デルサム・トップが話します。


「あそこには、とても美味いラーメンを作る男が眠っているんだ。ガラスの棺の中でな」

「ラーメン? ガラスの棺?」

「ラーメンっていうのはだな、麺料理さ。俺たちもまだ食べた事がないんだ。なんでもとてつもなくうまいって話だ。で、ガラスの棺ってのはな、蓋がガラスで出来た棺なんだ。俺たちは、毎日見に行って目覚めてないか確かめているんだ」


 トップは白雪姫に事情を説明しました。


「あのガラスの棺はね、地下深くから見つけたんだ。魔法の匂いがプンプンしてさ」

「へえ、誰でも生き返るの?」と白雪姫。

「そいつはわからないが、恐らく違うんじゃないかな」

「死んだ猫をあの中に入れてみたんだがな、蓋が閉まらなかった」

「そう、寿命が尽きた者が入っても蓋は閉まらない」

「運命さ。運命には逆らえないんだ」


 小人達が口々に言います。


「私も会いに行っていいかしら?」


 小人達は顔を見合わせました。


「いいとも、見舞ってやってくれ」


 小人達と白雪姫は原っぱに戻りました。小人達に導かれ白雪姫は洞穴に入って行きました。奥に灯りが見えます。灯りの見える方へ、奥へ奥へと進んでいくと広い部屋に出ました。真ん中に何かあります。それは、ガラスで出来た棺(ひつぎ)でした。中に人が横たわっています。

 白雪姫は横たわっている人をしげしげと眺めました。丸い穏やかな顔をした壮年の男です。変わった服を着ています。

 白雪姫はガラスの棺の前に膝をついて祈りました。


「神様、私は白雪姫といいます。どうかお願いです。一郎さんを目覚めさせて上げてください。ずっと寝たままなんて、可哀想です。どうか、目覚めさせて上げて下さい」


 小人達も祈りました。


「一郎さんが目覚めますように」


 しかし、一郎はピクリともしません。デルサム・トップは(まだ、目覚める時期ではないのだろう)と思いましたが、口には出しませんでした。可愛らしい少女の無垢な祈りにケチをつけたくなかったのです。


「お姫さん、一郎さんの為に祈ってくれてありがとうよ。さあ、もうすぐ日が暮れる。そろそろ、お城に帰った方がいい」


 デルサム・トップに促されて、白雪姫はお城に戻りました。

 それから、白雪姫は時々小人達の元に遊びに行きました。小人達が仕事で忙しい時は、森を散歩しました。そして、洞窟に行き一郎の為に祈るのでした。

 

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