八 小人達
トントン
玄関の戸を叩く音がします。門番の母親がドアを開けると、誰もいません。
「変ねぇ、確かドアを叩く音がしたと思ったのに」
母親がキョロキョロしていると、
「おい、どこ見てんだよ。ここだ、ここだ」と声がします。
足元を見ると小人がいます。長く白い髭、レンガ色の上着、カーキ色の帽子を被っています。
「あれまあ、小さい人だわ。いらっしゃい」
母親は腰を屈めて挨拶をしました。一方で小人が何の用だろうと思いました。
「庭先にある残骸はお前さんのかい?」
「いえいえ、それはね、うちで預かっている病人の物なんですよ」
「ふーん、そうかい。その病人ってのは何時頃良くなりそうなんだい?」
「それが……」
門番の母親は思わず涙ぐんでしまいました。一郎の様子が思わしくないのです。虫の息なのです。いつ死んでもおかしくない状態でした。小人は一郎の病状を察したのでしょう。
「そうかい、そんなに悪いのかい」と言って髭を引っ張りながら何やら考えこみました。
「俺は森に住んでいる七人の小人のリーダーでデルサム・トップってもんだ。会わせて貰ってもいいだろうか?」
門番の母親は、見舞いに来た人を断るいわれは無いだろうと思い、小人を一郎が寝ている寝室に通しました。一郎が来た日は屋根裏部屋に泊めていましたが、闇討ちにあってからは一階の息子の部屋に寝かせています。
母親は小人のデルサム・トップを一郎の枕元に通しました。
「一郎さん、一郎さん、小人のデルサム・トップさんがあんたと話したいって」
母親が一郎に話しかけますが、反応がありません。眠っているのかと母親が肩を揺すりました。一郎の頭ががっくりと落ちます。
「いけねえ! 医者だ。早く医者を呼ぶんだ、早くしろ!」
小人の大声に母親が慌てて通りへ走りでました。道で遊んでいた子供に呼びかけます。
「お医者様を早く! 早く連れてきて! 死にそうなの!」
子供はすぐに走って行きました。
しかし結局、医者は間に合わなかったのです。一郎は小人のデルサム・トップと門番の母親が見守る中、死んでしまいました。
デルサム・トップは母親に遺体と屋台の残骸を引き取るからと言って森に帰りました。
短い間でしたが、美味しいラーメンを食べさせてくれた一郎を皆慕っていました。門番と母親、門番の仲間達が一郎の死を悲しみました。
夜になってデルサム・トップが六人の仲間と共に門番の家に戻ってきました。
門番は小人たちを見て驚きました。そして、小人達が持ってきた物を見てさらに驚いたのです。
小人達はガラスの棺(ひつぎ)を携えていました。
「一郎さんといい屋台といい、強い魔法を感じるんでね。こういう時は運命の歯車が回るまでじっと待つのが一番。一郎さんのご遺体を預からせて貰いますよ」
門番は森の小人達の話を信じました。長く生きてきた彼らが言うのです。自分たちよりよほどこの世界に詳しいだろうと門番は思いました。
小人達は一郎の遺体をガラスの
小人達は森の奥の奥にある洞穴に一郎の遺体を安置しました。不思議な事に何日経っても一郎の身体は腐りませんでした。まるで眠っているようです。
小人達は屋台の残骸をキレイに掃除して組み立て直しました。屋台はやはり魔法の屋台でした。壊れた部材と部材が隣り合わせだったら、ぴったりと吸い付くようにくっついたのです。三次元ジグソーパズルのようでした。小人達は暇を見つけてはこのパズルに挑戦、数ヶ月後、とうとう元通りの屋台を完成させたのでした。完成した屋台には、驚いたことに、引き出し一杯にラーメンの材料が入っていたのです。
デルサム・トップは言いました。
「これは凄い。きっとこれを使って伝説のラーメンを作ったのだろうなあ。どうやって作ったんだろう。作り方がわかればなあ」
小人達は一郎が作ったと言う伝説のラーメン、すでに伝説となるほど美味しいラーメンを食べてみたかったのです。しかし、材料があっても、道具があっても作り方が分からなければ絵に書いた餅です。七人の小人達はガラスの棺をじっと見ました。
「一郎さんが目覚めてくれたらなあ」としみじみ思ったのでした。
一方、お城では……。
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