第25話 旬な人とそうでない人

松田屋の行列に並ぶこと約1時間、ようやくオレ達に順番が廻ってきた。するとオレに気付いたコウノスケさんが、


「あ、シュウさんお陰様で大繁盛です。もう、なんてお礼を言っていいのやら」


とペコペコ頭を下げる。3人の舎弟は、それを見てまたまた騒ぎ出した。


「え?アニキ、この繁盛店の店主とお知り合いなのですか?」

「と言うか、恩人?」

「まさか牛丼を考えたのは?」


やばいなあ。混んでいる店内でこいつらが騒ぐと迷惑だろうなあ。と思ったオレは、


「その話は内緒にしてね」


と真剣な顔で言う。すると3人は、黙って首をブンブンと縦に振る。


「ご注文は?」

「あ、並2つと特盛を3つで。あと卵を5個ください。」


コタロウとオレは並だが、こいつら食いそうだから特盛がいいだろうと思い注文する。

すると、コウノスケさんが申し訳なさそうに、


「スミマセン。卵が売り切れてしまったんですよー」


まあそうか、メンドリーの卵も数に限りあるからな。じゃあ、ご飯と牛丼の具もなくなるんじゃないかと思うだろうが、実は大丈夫だ。


昨日の試作でかなりの量、仕込みをしたのだが、その大量の具は全てコウノスケさんのアイテムボックスに収納している。この世界の住民は全てアイテムボックス持ちだそうで、その点は非常に便利だ。


「お待たせしました。並2つと特盛3つです。」


すぐに注文された品が運ばれてきた。何度もシミュレーションした成果が出てるな。


「では、頂きます」

「にゃあ」

「いただきやす」

「やす」

「やす」


手を合わせてみんなで牛丼を食べ始める。うん美味い。現世で何度も食べた味と同じだ。と、タクヤ達の方を見ると


「うめー」

「最高っす」

「こりゃクセになるわー」


と夢中で食べている。コタロウも普通にムシャムシャ食べていた。そこで周りの様子も見てみると、同じくみんなガツガツ食べている。そして食べ終わったら、「はあ、美味かったなあ。ごちそうさん」と言いながらすぐに席を立つ。こりゃ回転率いいな。


コウノスケさんも「はーい。ただ今」と言いながらすぐに会計を済ませている。手際が良くなったなあ。こりゃ、安心できるな。と思いながら「お勘定お願いしまーす」と声を掛けた。


「お代は頂けません」というコウノスケさんに無理やりお金を渡し、店を出る。3人組もついてきて口を揃えてお礼を言う。


「アニキ、ごちになりやりやした」

「どういたしまして」


そのまま、街をブラブラと探索する。EDOの街は昼下がりだというのに、そこそこ人通りが多い。買い物をしている女性やオレ達みたいにあてもなく歩いている人もいる。その中に真っ青なハッピのようなものを着た人達がいた。


2,3人で固まって颯爽と街中を歩いているその姿を若い女性達が遠巻きに見ながら、ヒソヒソと噂話をしている。


「キャー。オキタ様だわ。恰好いいわねえ。」

「コンドウ様も渋いわよ」


ハッピを着ている人達はどの人も20才前後くらいに見えるが、確かにイケメン揃いだった。そんな彼らを見て女の子たちが、「キャッキャウフフ」している。


まあ現世でもよく見た光景だったが、どこの世界でも女の子はイケメンが好きなんだな。

そこで、タクヤに何者か聞いてみる


「ああ、フレッシュ組っすよ」

「フレッシュ組?」


なんでもフレッシュ組はある道場の門下生達が立ち上げた組織で、治安の悪いEDOの街を守るための自警団だと言う。若くてイケメンな上に、腕も立つのであっという間に大人気となったそうだ。


「なるほどな。うん?」


そこでオレはフレッシュ組を見つめるのが、若い女の子だけではないことに気が付く。ちょっとうらぶれた感じの中年オヤジ達だ。それも2人や3人ではない、結構な数のオヤジ達が物陰から恨めしそうな顔をして見ている。



「ああ、あのオッサン達っすね」


タクヤの話によるとあのオッサン達は、もともと用心棒として色んなところで雇われていたとの事。ところがフレッシュ組の活躍により、すっかり治安が良くなったために用心棒がいらなくなり、解雇されたそうだ。実力行使に出ようにも到底敵わないため、ああやってジトーっと見ているだけらしい。


「じゃあ、冒険者になればいいのに」


ところが、用心棒は元々人間を相手にする職業であり、手ごわい獣や妖怪などを討伐する冒険者には今更なれないそうだ。


「なるほどなあ。」


オレは現世で、リストラされたオッチャンの事を思い出した。クビを言い渡されたそのオッチャンは、絶望感に打ちひしがれた様子でトボトボとその場を立ち去っていった。


少し感傷的になりながら、その光景を見ていたオレはある事を思い出す。



「あ、そろそろ冒険者ギルドに行こうか?クエスト依頼が張り出される時間だ」


すると、タクヤ達が


「何言ってるんですかアニキ、今日は週末ですぜ。週明けまで新しい依頼は来ませんよ」


え?この世界も週休2日制なのー?






翌日、オレは営業終了後の松田屋にいた。何をしに来たかと言うと新しい従業員の面接をするためだ。冒険者業は週明けまで休みで、することもなかったので丁度いい。


コウノスケさんにその話をすると大賛成で、「助かります。本当にもう、何から何まで」とまた感謝された。


だがオレはコウノスケさんの負担を減らすためだけに従業員を雇う訳ではない。その先を見据えての事だ。まあ、その話はまだ後で話すが。




面接には7名が来ていた。昨日、あれから例の元用心棒達に声を掛けたのだ。


「みなさんこんばんは。」


と声を掛ける。7名の顔を見ると皆、すがる様な目つきでオレを見ている。

リストラされて仕事がなくなった自分たちに、再び仕事がもらえるかもしれないチャンスだもんな。そりゃ必死だろう。


オレは少しの期待を込めながら、松田屋での仕事の説明を始めた。彼らにやって欲しい仕事は、接客と洗い物だ。接客は注文を取ってそれをコウノスケさんに伝える。そして注文の品をそのお客の元へ届ける。洗い物は、使用済みの食器を下げて洗い場に持っていき、それを洗う。



それを彼らにして貰うだけで、また回転率は劇的に上がるハズだ。


「というような事をして貰うつもりですが?いかがでしょうか?出来そうですか?」


オレの説明を真剣に聞いていたが、その問いかけに皆一瞬首をひねった後うなずく。


「多分、出来ると思います。」そのうちの一人がそう言った。

「じゃあ、早速シミュレーションしてみましょう」


オレは7人を客役と店員役に分け実際にシミュレーションして貰った。すると最初はぎこちなかったが、すぐに接客の方は問題なく出来るようになった。そして洗い物の方であるが、


「すごい、皆さんすごくお上手じゃないですか?」


実は、彼らは日ごろから家事をしているそうだ。そのため、皿洗いはお手の物だと言う。オレは手応えを感じながら、話を進めて行く。


「みなさんには明日から実際に、お店に立って働いてもらいます。仕事は他にも色々ありますので、徐々に覚えて行ってください。最終的には、調理意外は全てやって頂きます。」


ふんふんと皆、頷いている。やる気に満ちた顔をしているな。よし、じゃあ次の話をしてもいいだろう。


「こちらで、みなさんが一人前になったと判断した場合、希望者には独立をしてもらおうと思っております。つまり別に店を持っていただいて、そこを一人で切り盛りしてください。」


するとどよめきが起こった。そして一人が発言する。


「あの、私にはこの牛丼を作るのはムリなのですが…」

「いい質問です。皆様は、この牛丼を作る必要はありません。そもそも調理さえ不要です。接客と洗い物、食事後の会計の他には出来あいの牛丼とご飯を丼に盛るだけで結構です」


つまりこうだ。オレはこの“松田屋”をFC展開していこうと思っている。この今の松田屋を本部としここで研修を行う。必要なスキルを習得した人は、別の店舗に移ってもらう。その中でも希望者には、店長をさせるのだ。


調理については、こちらで一括して行うセントラルキッチン方式にする。コウノスケさんが、全ての具材を調理し鍋に移す。またご飯についても炊き立てのご飯をおひつに移してそれぞれアイテムボックスに収納する。


各店舗の店長は、それぞれ毎朝ここに来て調理済みの料理を受け取りそれぞれのアイテムボックスにてそれを運ぶのだ。この世界の住民だからこそできる方法だろう。



最終的には調理についてもそれを任せる人材を育成し、コウノスケさんはタレの調合以外関わらないようにさせたい。それよりも、食材の仕入れルートの確保や本部運営の金勘定に専任してもらいたい。


「と言うことですが、どうでしょうか?」とオレが問いかけると皆、物凄く目を輝かせている。

そのうちの一人が叫んだ「よっしゃー。自分で店を持てるチャンスだ。メチャメチャ頑張るぜ、なあみんな?」


皆、うんうんと力強く頷いている。



よし。掴みはオッケーだな。




(誠に申し訳ありませんが、カクヨムでの投稿は一旦終了させて頂きます。もし続きが気になる方がいらっしゃいましたらお手数ですが「なろう」の方をご覧頂けたら幸いです)

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飼い猫たちと一緒に異世界へ ~チートスキルを持ったネコと平凡な勇者のオレが世界を救う~ @syusyusyusyu

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