第22話 初クエスト
その日は遅くまで、牛丼の試作と接客のシミュレーションを繰り返した。
「コウノスケさん、注文を受けてから提供まで30秒以内に収めてくださいよ」
「了解しました」
「コウノスケさん、ツユの濃度を気持ち薄くしましょうか」
「はい。こうでしょうか?」
意外だったが、コウノスケさんは飲み込みがとても早かった。しかも調理技術は高く、計算も早い。これなら立派に繁盛店を切り盛りできるだろう。
「コウノスケさん、こりゃいけますよ」
「そうでしょうか?」
「絶対です。明日が楽しみですね」
是非にと言われるので、そのまま夜は泊めさせてもらった。
そして朝、目が覚めるとなにやらいい匂いがする。
「おはようございます。」
「おはようございますシュウさん。昨日はよく眠れましたか?」
お陰様でといいながら、匂いの元を辿ると味噌汁を作っていた。
「あ、朝ご飯作りましたのでどうぞ」
味噌汁とご飯と漬物が出される。コレ見ただけで絶対うまいヤツだよね。
味噌汁を一口すすった後、オレはこう言った。
「コウノスケさん、この味噌汁もサイドメニューで出しましょうか?」
「ええ?」
まあ、それは店が軌道に乗ってからの話で後々また考えましょう。
「では、行ってきます」
「にゃあ」
「はい。いってらっしゃい」
そうして、オレとコタロウは“松田屋”を後にした。
およそ1時間後、オレ達は目標の女郎グモの巣に直面していた。
「ついたぞコタロウ」
『ついたニャア。ご主人サマ早かったニャ』
オレ達は、口臭街道のど真ん中に張っているでっかいクモの巣の前にいる。というか通常のクモの巣とサイズ感が全く違う。人間でも余裕でひっかかるだろコレ。
と思っていたら中からでっかいクモが出てきた。胴体部分だけでも2mはある。長い手足を入れれば5~6mくらいありそうだ。
『何しに来た人間どもよ』
驚いた事に、女郎グモは念話が使えた。
鑑定してみると
「鑑定結果」
女郎グモ:長く生きることにより妖力が増し妖怪化した個体。強力な粘着力と耐久力を持つ糸を獲物に巻き付け、猛毒を体内に注入する。毒が体内に入った場合、ほとんどの動物は即死する。
HP:560
特殊スキル:妖糸 猛毒 念話
うーーーん。まあ、コタロウの敵ではなさそうだな。
「えっとお前を討伐に来たんだけど」
『なにーーー。舐めやがって。お前たちやっておしまいなさい』
女郎グモは、ワナワナと震えながら8本の脚のうち前足であろう2本をグルグルと振り回す。
長生きしている割には切れやすい性格なんだなーと思ってたら、巣の中から数100匹の小さなクモがわらわらと湧いてくる。小さなクモとは言っても地球上のソレに比べたらかなり大きい。1匹が30センチくらいだろうか。そんなのが目の前にウジャウジャいる。
「キモッ。ムリムリムリムリ」
やべ、鳥肌が止まらない。どうしよう?よし、こんな時は発想の転換だ。あいつらをキモいクモだと思うからダメなんだ。もっと違うものだと思うことにしよう。
オレは想像力を働かせ、あるキャラになり切る。妄想力なら自信があるからな。
『にゃあ、あいつらやっつけるニャ?』
「ここはオレに任せてくれ」
身構えるコタロウを制止し、オレは前に出る。
体中に魔力を充満させて準備完了だ。
気持ちの上では、戦闘民族になりきっているオレは、
「ピーピーうるさいヒヨコたちにあいさつしてやるか」とつぶやき
右手人差し指と中指を突出し、そのまま下から上に「クンッ」と突き上げる。
その途端、地面から無数の火柱があがり辺りを炎が埋め尽くす。数100匹いた子グモは燃え上がり、炎が消えた後には跡形もなく消え失せていた。
決まったぜ。とオレはコタロウの方をみた。するとコタロウは首を傾げている。
『ニャア。ご主人サマあいつらってクモってやつじゃ?それにピーピーも言ってなかったニャ』
そ、その通りだ。
子分たちを全滅させられた女郎グモは激怒した。まあ、切れやすいヤツだからな。
更にわなわなと震え、8本の腕を狂ったようにグルグルと振り回す。
『お前たちいいいい、楽に死ねると思うなよおおおおおお』
あーあ。完全にフラグ立ってるよ。
「コタロウさん、お相手して差しあげなさい」
『ニャ』
オレの言葉と同時に、コタロウはツメを「ジャキーン」と伸ばし右前足を上から下にフルスイングする。するとその風圧とともに三日月状の刃がクモ目がけて一直線に飛んでいく。見た目はウインドカッターのようだが、刃の大きさと飛行速度は比べものにならない。
「斬ッ」
次の瞬間、女郎グモの胴体が真っ二つになっていた。
『え?』
何が起こったか分からないといった顔をした女郎グモは煙とともに消え、その場に宝箱が出現した。
「コタロウ、お疲れさーん」
『ニャ?全然疲れてないニャ』
そうだろうな。一撃だったからな。聖獣になったコタロウの初めての戦闘だったけど、強すぎだろ。
(でもよくやったな。コタロウ)オレは、コタロウに恒例のご褒美のネコネコスティックをあげるのであった。
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