第21話 松田屋新装開店

「改めまして、シュウといいます。」

「あ、コウノスケです。よろしくお願いします。」


お互い自己紹介が済んだところで、オレはコウノスケさんに策の内容を話し始める。まず肉。これは今の高級肉じゃなくて、もっと安いばら肉で十分だ。それを牛鍋よりももっと薄切りにする。そして同じくクロヤナギも薄切りにして一緒にツユで煮込む。そのツユもいまよりももっと薄くていい。


そう、答えは単純だ。オレは牛丼の作り方を教えただけなのだ。


始めはクロヤナギを食べることに抵抗を見せたコウノスケさんであったが、実際食べてみると


「あ、コレうまいですね」


とあっさり納得した。これをどんぶりによそったあったかご飯にかけるだけ。これなら牛丼の具とご飯を大量に用意するだけで提供時間は劇的に短縮される。


そもそも江戸っ子は、ファーストフードを好んだそうだ。すしやそばなんかも屋台で売られていたそうだし。つまり、ファーストフードの王様である牛丼は絶対にウケるハズ。


「よし、コウノスケさん裏の畑に案内して貰えますか?」

「あ、はい」


裏の畑は本当に裏にあった。店の勝手口を開けたら、すぐだ。そこに大量のクロヤナギが栽培されていた。しかも、使っていない土地もまだ結構ある。


「これは、何から何まで丁度いいぞー」

「うちは、土地だけは沢山あるんで」


オレはアイテムボックスから巣箱を取り出した。そう、ベースキャンプで一緒に暮らしていた森レグホンのメンドリーの住処だ。



「コッコッコッコッコ」

「コケーッコッコッコッコッコ」


「あ、森レグホンじゃないですか?高級地鶏の」

「この森レグホンの親子をここで飼ってください。」


実は、ベースキャンプに戻って巣箱を回収しようとした時にいつの間にかオスが住み着いていたのだ。オレ達がちょっと留守していた間に、メンドリーはオスを連れ込んでいたということだ。まあ、寂しくさせたのはオレ達だし。と思いながら一緒に連れてくることにした。名前はモチロン、オンドリーだ。


更にメンドリーの卵からは沢山のヒナが孵っていた。オンドリーはかなりやるヤツのようだ。



「牛丼を提供する時にサイドメニューとしてこの森レグホンの生卵を勧めてみてください。」


と言って出来上がった牛丼に卵を割りいれてかき混ぜる。食べたコウノスケさんは


「あ、卵入れた方が味がまろやかになりますね」


そりゃーそうだろう。信頼と実績があるんだもの。



「価格設定ですが、


どんぶりにご飯1膳分と牛丼の具をおたま一杯分が基本で並盛400イェン

ご飯の量を1.5倍、具を同じで大盛り600イェン

ご飯の量と牛丼の具を3倍にした特盛を900イェン

そして生卵を1つ100イェン


で売り出してみて下さい。」


「おお、なかなか安い値段設定ですね」

「その分、原価率は抑えてくださいよ」


原価率の計算を説明する。すると驚いたことにコウノスケさんは、すぐに理解した。どうやら数字には強いようだ。


「そしてのぼりを立てましょう」

「のぼりとは?」


のぼりについても説明し、白い布と竹竿を持ってきてもらう。そしてその布に


“安い 早い うまい”と書いた。


「いいですか?この店のウリは“安くて早くてうまい”です。このイメージをお客様に浸透させるよう心掛けてください」


「なるほど、わかりました」


よしっと店の外に出てのぼりを立てる。そして何の気なしに店にかかっている看板を見ると「松田屋」と書いてある。


「コウノスケさんは松田さんってお名前なんですね?」

「あ、家名はそうなんですよー」


何から何まで丁度いい人だ。




「なにからなにまでスミマセン。それでお礼なのですが…」


とコウノスケさんが言い出す。もちろんオレもそこまで善人じゃないし、お金がいるので金は取るつもりだ。


「コウノスケさんのお店の純利益2割をください」

「はい?純利益とは?」


またまた説明をする。


「まずお店の売り上げがひと月100万イェンだとしますよね?」

「はい」


「そして仕入に肉やお米の代金やクロヤナギの栽培費用、森レグホンの飼育費などがかかります。これが30万だとすれば残りは70万イェン」

「はい」


「丼や大きな鍋も買わないといけませんし、これからお客さんが増えれば人も雇わなきゃならない」

「そうですね。人を雇うくらい繁盛させたいです」


「また、それ以外にもご飯を炊いたり牛丼の具を煮込むのにマキなどの燃料を買わないとならない」

「はい」


「そういった諸々が20万イェンだとすれば差し引いた残り50万イェンががコウノスケさんの儲けになりますね」

「はい」


「その儲けを純利益と言います。その2割の10万イェンを私にください」

「え?こんなにして貰ったのに私の取り分の2割でいいんですか?なんていい人だ」


とコウノスケさんは感激するが、コンサル料金として純利益の2割はかなり法外な金額だよなあ。と思うオレであった。




ところが、この出会いが意外と運命的だったのは後で分かる話である。

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