第18話 初クエストを受けてみた

「あとで友人申請しとくから許可していてくれ」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


ハチベエさんと約束を取り交わす。さて、楽しかった飲み会もお開きだ


「おーいママ。勘定だ。」



と言いながらカクさんが冒険者カードを取り出す。

それを受け取って、「ピッ」と機械に通すアヤ姉。


「?」と見ていると、


「ああ冒険者カードには報酬をチャージする機能があって、お店の支払いも出来るのよ」と教えてくれる。


「おお、便利ですねえ。でも人に盗まれたりしないんですか?」

「それは大丈夫よ。カードは本人しか使えないようにセキュリティが施されているから」


なるほど、意外とハイテクなんだな。


「カクさんごちそう様でした。」

「いいってことよ。オレ達も楽しい酒が飲めたからな。また、飲もうぜ」


スケさんとハチベエさんも


「じゃあな」

「またな」


と出て行く。



3人を見送った後、一人になったオレは

「さてと…コタロウ行くぞ」


とギルドの2階に向かうことにする。クエストを受注しなきゃな。



2階に上がると人っ子一人いない。そう言えば、アヤ姉が「新しい依頼書は毎日、夕方に張り出すから冒険者が殺到するのよねえ。それまでは暇だけど」って言ってたな。


今はまだちょっと早いから人がいないんだな。


「あったあれが掲示板だな」

掲示板を見ていると、


(ブゥン)


と音がしてウインドウが開いた。


『シュウさんこんにちは』

「こんにちは。アイ」


ああそうか、ギルド内はWiFiエリアだったな。


『推奨クエストを教えましょうか?』

「おお、それは助かる。」


掲示板には、様々な依頼書が張り出されている。


例えばこうだ。


「報酬額5,000イェン。庭の雑草を刈ってくれる人求む」

「報酬額7,000イェン。引っ越しの手伝い」


「こりゃーアルバイトじゃねーか。」


などど言ってたら、いつの間にか周りに人がいる。

ああ、もう夕方だからな。

と思っていたら、どんどん人が増えていく。

30人くらいになっただろうか?

みんな冒険者のようだが、年齢は下は10代後半くらいから、上は60代といったところだろうか。意外と女性も多い。4割くらいいるだろうか。


「最近、あんましいい依頼ないねー」

「新しい依頼楽しみだね」


という会話が聞こえる。




その時、


「はい。お待たせー」

アヤ姉がやってきた。


「遅いよママ」

「待ってたぜアヤ姉」


待っている人達が口を開く。アヤ姉は、


「はいはい」


と言いながら掲示板に依頼書を張り出す。


次の瞬間、まるでカルタ大会のような壮絶な依頼書の奪い合いが始まった。


アヤ姉が張り出したそばから誰かがすぐにそれを取る。取れなかった人達は


「あー取れなかったー」

「次々ー」


と言う感じだ。


早い者勝ちで一旦依頼書を取った後に争いが起きる事はないようだ。

だが、オレはこのシステムについて行けずにオロオロするだけである。

とその時、


『シュウさん、次の依頼書を取ってください』


アイから指示が飛んだ。


(オッケー次の依頼書だな)オレは身構える。


するとアヤ姉が次の依頼書を張り出した。

みんなの視線が注がれ、一瞬手が止まる。


(チャンス)


とばかりにオレは、その依頼書を「ベリッ」と勢いよく剥がした。そのまま隅の方に移動する。よっしゃ依頼書ゲットしたぜ。と思っていたら



(・・・・ざわ

   ・・・・・ざわ

     ・・・・・・ざわ  )



なぜか周りがざわつきだす。


「え?」と思っていると


周りの人がヒソヒソ声で


「あの人あれ取っちゃったね。大丈夫なのかな?見かけない顔だけど」

「イヤイヤイヤ。ゴールドランカーがパーティ攻略する難易度だろ?ソロはムリだって」

「それとも、今からメンバー募集するのかなあ」


と話しているのが聞こえる。


(あれ?まさか、やばいの取っちゃった?)


依頼書を見ると、


「報酬額200万イェン 女郎グモの討伐依頼」と書いている。


(おいアイ。これって大丈夫なのか?)



『ハイ。コタロウさんの戦闘力なら依頼成功率99.9%です。』


(そうか。そりゃ良かった。コタロウメインで戦う前提なのが情けないがな。)



こっそりアイとそんなやり取りをしていると、



「オイオイオイオイ、にいちゃんよお。ちょっと調子に乗り過ぎじゃないかい?

依頼失敗したら、罰金払えんのかあ?」


どうみてもオレより年下の3人組から絡まれる。


真ん中がアニキ分なのだろうか。横にいるチンピラ風な男が「アニキいかしやす」とか言ってやがる。


「オレの名前はタクヤだ。あと2年もすればシルバーランクに上がれるかもしれないという逸材だ。」


うわー面倒くさいヤツだー。


オレは「スミマセン、ちょっと急いでるので失礼します」と言って立ち去ろうとすると


「ちょ待てよ」と肩を掴まれる。



どうやってこの状況を切り抜けようと思ってたら、アイから報告があった。



『ハチベエさんから友人申請きました。許可しますか?』

(もち許可)



その途端、ハチベエさんの声が聞こえる


『おい、シュウ。お疲れさん。今どこだ?』

『あ、ハチベエさんまだギルドです。今、依頼をゲットしたんですが何か絡まれちゃって』


と今の状況を説明する。


『そりゃ面倒くさいな。ちょっと待ってろ』


と次の瞬間、近くにいたゴツイおっさんが急に直立不動になり


「あ、ハチベエさんちわっす。」と言って90度のお辞儀をする。そして

「あ、はい。はい。え?そうなんですか?」ペコペコしながら話す。


前世でよくみた光景だが、取引先の社長と携帯で話す上司の事を思い出した。


「はい。はい。もちろんです。はい。はい。失礼します」


と言ってまた90度のお辞儀をした。


そして「おい!!!お前、その人はな。カクさん達のツレなんだと。粗相すんなよ」


それを聞いてまた、周りの人達がザワつきだす。



「あのプラチナランクの人達の?」

「そりゃーあの依頼取るわけだよね」


オレの肩を掴んでいたタクヤは、その手をどうすべきか分からずオレの顔と自分の手を交互に見比べていた。そして目が合った瞬間、


「スミマセンでしたーー」ととてもきれいな土下座をした。それを見た取り巻きの2人も同じく隣で土下座する。


オレはいたたまれなくなって「もういいから」と言うが、ブルブル震えるだけで頑なに姿勢を崩さない。


居心地が悪くなったオレは、そそくさとギルドを後にした。






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