第17話 それぞれの能力と戦い方
「ところで、山グリズリーと戦った時のことを詳しく話してはくれないか?」
とスケさんが言うので、
「ああ、いいですよー。」
と話しだそうとするとアヤ姉が、
「チョット。戦闘方法については、個人で秘匿すべき財産でしょ?」
と言い出す。すると、カクさんが
「めんどくせーなー。個人情報のなんとかって決まりのことだろ?昔はそれぞれ自分の得意技から何から、ぜーんぶ話してそれを肴に酒飲んでたけどな」
この世界でも個人情報の保護法があるとは…
スケさんは、
「シュウ殿が良ければだが。もちろん我々の戦闘方法についても、なんでも話すぞ」
と言う。アヤ姉も
「うーん。スケさんなら信用できるから、シュウ君が決めれば?でも言っとくけど誰にでも気軽に話しちゃダメだからね。」
オレは酔って気分が良くなってたのもあり、
「全然大丈夫ですよー。」
と話を始める。
山グリズリーに遭遇し、いきなり戦闘になったこと。
ファイアーボールを避けられたこと。
ウインドカッターが、効かなかったこと。
「そうそう。ある程度のレベルの獣は、闘気を纏っているから初級魔法だと攻撃が通らないんだよなー」
ふんふんとカクさんが、相槌を打つ。
それで、ファイアーボールを空中に留めて一気に全方向から同時攻撃を行ったことを話したら
「おおー。そんなやり方が…」と感心された。
だが、そんなオレの渾身の攻撃も留めを刺すに至らなかったために大ピンチに陥ってしまう。ソコをコタロウの捨身の体当たりで助かったと話したら、
「うんうん。コタロウ君はええ子や」
とハチベエさんが涙ぐむ。やはり見た目通りのいい人だ。
魔力も尽き2人とも満身創痍で万策尽きたと思ったが、一か八かの攻撃で大逆転勝利を収めた。と言ったところで3人が
「うん?水蒸気爆発?なんだソレ?」
ピンと来てなかったので
「ファイアーボールで高温になったところに魔力で水の塊をぶつけて一気に膨張させて爆発を誘引したんですよ」
すると、カクさんが
「ファイアーボール?ああ、最近の若者は横文字で言うんだな。コレも異国のヤツらの影響かのう」
と言い出す。
「え?異国?他の国のことですか?」
「え?そうに決まってるだろ?」
何を当たり前のことを?って顔をしてカクさんが答える。オレはハっとなった。(ヤベ。オレが異世界の人間ってバレる)と咄嗟に話題を変える。
「じゃあ、カクさんは火魔法を使う時なんて叫ぶんですか?」
すると
「オレか?オレは、焔!!って言うな。あんまし使わないけど。」
焔かあ。そっちの方がかっこいいかも。他の2人にも聞いてみたが、火魔法を使えるのはカクさんだけなんだと。
「最後の水蒸気爆発はよく分からなかったが、火魔法と水魔法を組み合わせてより威力を大きくする発想はなかった。ありがとう、礼を言う」
とスケさんが喜んでくれた。
「じゃあ、次はオレ達の番だな、まずはオレから話すか」
とカクさんが切り出した。
カクさんのジョブクラスは剣士だそうだ。ヒノモト国では花形のジョブで文字通り剣を使って戦闘を行う職業だ。魔法は、中級の火魔法と風魔法を使えるそうだ。剣に炎を纏わせて攻撃力を上げ、風魔法で自分の防御力を高めたり移動に使ったりする。
「へえ、剣を見せて貰ってもいいですか?」
とオレが聞くと、カクさんは快く「おう」と言いながらアイテムボックスを開く。中から、美しい細工を施した鞘に納められた刀が出てくる。鞘を抜くと鈍く輝く銀色の美しい刀が出てきた。まんま日本刀のようだ。片刃で刀身は反り返っていて光に反射させると見事な刀文が浮かび上がる。
「ほほー」
とオレが感心していると、カクさんはドヤ顔で
「分かるか?玉鋼にミスリル鋼を重ね鍛えたものだ。かのナリヒラの業物だよ。」
ナリヒラは知らないが、多分有名な刀工なのだろう。なんでも、ミスリル鋼は魔法伝導率が高く、それを腕のいい刀工が鍛えることにより強力な魔法剣になるとの事だ。
「やはり、刀はヒノモト刀が一番ね。舶来モノの剣とは全然違うわ」
とアヤ姉も言うので、カクさんはますます得意になって
「シュウもソロ活動をするならヒノモト刀の一本も持つことだな」
とアドバイスをくれた。オレは竹刀すら持ったことがない人間だが、このヒノモト刀は凄い。男なら誰でも憧れる美しさだ。思わず、うんうんと頷く。
「じゃあ、次はオレの話だな」とスケさんが続く。
スケさんのジョブクラスは治癒士。パーティに一人は欲しい引っ張りだこのジョブだ。使える魔法は中級の水魔法で、体力回復に毒や混乱などの状態異常の回復。魔力は使うが、瀕死状態の蘇生も可能だそうだ。水魔法ってこんな事できるんだ。コレは是非、覚えたい。
「あのー、スケさん。オレも回復魔法覚えたいんですけど」
スケさんは、短く頷くと
「人体の7割は水分で出来ているって話は知っているかね?」
と聞いてくる。オレが頷くと
「その水分を体内で循環させることにより、生物は活動することができる」
と続く。
「その循環がうまくいかない時が状態異常だ。例えば毒が体内に入った場合を思い浮かべればいい。毒が体内を巡るから状態が悪くなる。じゃあどうすればいいのか?体内の循環を促してやり、毒素を体内から追い出すんだ。じゃあ、体力回復は?コレは単純にエネルギーを液体の状態にて体内に送り込み循環させれば良い。生物は液体の状態が一番エネルギーを取り込みやすいからな」
なるほど、なるほど。
「次に、ケガした時などの治癒だな。これは自然治癒を手助けするイメージだ。細胞分裂って分かるか?」
「はい」
「ちょっとした擦り傷なら何日かで、骨折した場合でも数か月で元に戻るな。それは人間の体がケガをした部分を再生するからだ。それを魔法によって何倍も何100倍にも速度を速める。具体的にいうと細胞分裂に必要なエネルギーを液体の状態で送り込み分裂を促進させるんだ。」
「はい」
「瀕死状態の蘇生だが、これはケースバイケースだ。例えば出血により死にかけている場合、血液を作成し体内に流す。と同時に、傷ついた部分の細胞分裂を促す。そして瀕死状態の場合もう一つ注意して欲しいのだが、体全体を蘇生液で守ってやってくれ。」
「蘇生液とは?」と聞いた瞬間、オレの周りを水の球が包む。
「うわ。」と思ったが、なんともないし、呼吸も普通に出来る。それどころかとても気持ちがいい。
「それが蘇生液だ。人間の体液と同じ成分で出来ている。」
なるほど、ヤサイの星の人たちが使ってた生命維持装置の中に入っていた液体だな。確かに、これなら瀕死の時でもしばらくは生命維持できそうだ。
「分かったか?基本は人間の体内を水分が循環しているイメージを持つことだ。そして、それを魔力でよりスムーズにさせるのが練習方法となる。」
「はい。よくわかりました。」
これはためになったなあ。
と横で聞いてたハチベエさんが、
「スケはすげえなあ。オレなんて何言ってるのかチンプンカンプンだぜ」
と羨望の眼差しを向ける。
「最後、オレの話も聞くかい?」
とハチベエさんが言うので
「モチロン」と頷くと嬉しそうに話し始める。
ハチベエさんは斥候だ。敵の戦力を偵察し2人に報告する。魔法は使えないが、
特殊スキルの気配探知と念話が使える。
気配探知ってコタロウの感知と同系統のスキルだろうな。と思いながら聞いていると、
「以上だ。」
「はあ?あの他には?」
「もう話すことないよ」と自信満々に言う。こりゃーこちらから会話を誘導しなきゃなと思い、サラリーマン時代に培った話術を使ってみる。
「じゃあ、“気配探知”ってどんな能力なんですか?」
「気配探知は、半径10~30mくらいの範囲にいる生物の気配を察知できる能力だよ」と答えてくれた。地形や天候、その日の体調などによりその範囲が上下するそうだ。
「ほほう、なかなか役に立つ能力ですね。じゃあ“念話”はどんな能力なんですか?」
「パーティを組んでいる仲間と離れた場所でも会話ができるんだ。どんなに離れていても使えるんだぜ」
オレの拙い話術ですっかり気をよくしたハチベエさんは得意満面だ。
「それはいいですね。でも仲間以外とは会話できないんですか?」
念話はいいな。コタロウ以外とでも使えればかなり便利だ。
「条件があるんだ。」
「条件?」
通信料でもかかるのだろうか?
「まず、通信系のスキルを持った相手としか通話はできない。次にそのスキル持ちの相手に友人申請をして相手が許可しないと通じないんだ。」
「あ、オレ“鑑定”持ってます。」
するとアヤ姉が「へえ。シュウ君いいスキル持ってるね。結構レアだよソレ」
カクさんも「鑑定はいいよな。オレ達この前、高級キノコのマツタケ採取のクエスト受けたんだけど、ハチベエのやつが間違えてワライタケ取ってきやがって。」
と言う。スケさんも
「あの時は、オレも笑い過ぎて死ぬ思いした」とつぶやく。
笑い死にそうなスケさん、想像できねえな。
それにしても、この世界のハチベエさんもうっかり屋さんなんだな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます