第16話 おっちゃんたちとの飲み会

「おい、コタロウお呼ばれするか?」

『ニャ』


コタロウはすみっこの椅子の上で丸くなって寝ていたが、オレが呼んだら伸びをしつつこっちにくる。


「おいニイチャンまずはカンパイだ」


とオッチャンからコップを渡される。中には、透明な液体が入っていた。


「コレは?」


「ああ?知らないのか?殿様へも献上されるヒノモト酒でも最高級のダッサいを!」


なんかオシャレな酒ではなさそうだが…


つまり日本酒ってことか?オレは現世では日本酒って苦手だったんだよなあ。

飲み会でも専らチューハイ派で、そもそも酒が弱いのに日本酒ってなんか甘ったるくて悪酔いするってイメージがあって。と躊躇しつつも口を近づけると



「ふわー。いい香りがしますねー」


「そうだろそうだろ。さあニイチャン、ぐっといけよ」


飲んでみると今までの日本酒の概念が吹き飛ぶほど凄くうまい。まずフルーティな香りが鼻腔を抜ける。その味であるが、適度な甘さの中に酸味もありそのバランスが絶妙だ。ところが飲み干した後の舌に残る余韻をいつまでも味わっていたいと思うが、潔くスッと消える。


オレは急いでまた口にする。そうして、あっと言う間にコップ一杯の酒を飲み干してしまった。


「なかなかいい飲みっぷりじゃねーかニイチャン。」


とオッチャン達はうれしそうだ。


「すごく美味しいお酒ですね。こんなに美味しいもの初めて飲みましたよ」


と言うとますます嬉しそうな顔をする。


「おっと自己紹介がまだだったな。オレはカクでこいつらがスケとハチベエだ。」


カクさんは、精悍な顔つきでよく見るとかなり筋肉質だ。スケさんは、ちょっとクールな感じでハチベエさんは人の良さそうな顔をしている。


「よろしく」と言いながら、2人が冒険者カードを取り出す。


カクさんとスケさんは、ちょっと鈍い感じの銀色の光沢を持ったカードでハチベエさんのは、金色だ。


「オレとスケはプラチナランクでハチベエがゴールドランクの冒険者なんだよ」


と説明をされる。なるほど、ランクによってカードの色が変わるのか。


「え?プラチナって何ポイントでなれるんですか?」


「ああ、20,000ポイントだよ。」


とカクさんが答える。


この人たち、見た目は人の好いガテン系にしか見えないが結構稼いでいらっしゃるんだな。

ちなみにダイヤモンドが50,000ポイントでブラックは200,000ポイントらしい。


「ふえー。ブラックランクの人っていらっしゃるんですか?」


「オレも会ったことはないんだが、以前はいたらしいんだよな。今活躍している冒険者で最高ランクはダイヤモンドランクだよ。」


そうかー。プラチナでも日本円で2億。サラリーマンの生涯年収か…


そんな事を思っていると、


「ほらほら、料理も食べろよ」


と言って勧めてくれる。テーブルの上には、和食っぽい料理が並べてある。


「コレは、“イソノのたたき”だ。イソノっていう魚を炙って皮一枚だけを焼き、それを刺身にして薬味とこのポン酢で食べるんだ。」とカツオのたたきを勧められる。


大皿に盛りつけてあって、見た目も豪華な感じだ。


「これはアングラーのキモの酒蒸し。通称“アンキモ”だ。」


珍味の代名詞。酒のアテに最高なヤツだな。


「これは“ジャガタラの煮っ転がし”。ヒノモト国の代表的な家庭料理だからお前も知ってるだろ?」


もちろん知ってますとも、おふくろの味です。


「頂きます。コタロウも頂いていいですか?」


「おう、モチロンだ。食べな食べな。」


コタロウはたたきを大喜びでムシャムシャ食べている。


オレもそれぞれ食べてみたが、どれもすごく美味い。


「こりゃー美味いですねえ。」


と言うとハチベエさんが


「この料理は全部、ママが作ってるんだぜ」


と教えてくれた。なんでも、冒険者ギルドってのは酒場も兼ねているためにギルドマスターは料理も得意でなければならないそうだ。そしてそんなギルマスの中でもアヤ姉は、料理上手で有名らしい。


そんな美味い酒を最高の肴で頂いているウチに、オレはあっという間に酔っぱらってしまった。


「あらー。みんな楽しそうね。シュウ君、鑑定終わったわよ」


とそこへ鑑定を終わらせたアヤ姉がやってくる。


「アヤさあああああん。料理とってもおいしいですうううう。」


オレは、酔っぱらってしまってアヤ姉に絡んでしまう。


酔っぱらいの相手はお手の物なのだろう、アヤ姉はニッコリ笑って


「お口に合って良かったわ、ところで鑑定結果だけど全部で70万イェンね。」


と軽くいなされる。


それを聞いた3人のオッチャン達が顔を見合わせて


「ほう、なかなかの金額じゃないか大したものだ」


と褒めてくれる。それに対してアヤ姉が


「山グリズリーのドロップ品が大きかったわね。毛皮が35万と肉が15万、合計で50万よ。」


すると今まで黙っていたスケさんが、


「お主なかなかやりおるな。山グリズリーをソロで討伐するとは」


と褒めてくれる。


「あ、でもコタロウも共に戦ってくれましたので」


「そうかそうか、コタロウ殿もなかなかやるのか」


と話していると、ハチベエさんが


「そう言えば、赤木が原には聖獣白虎様の伝承があったな。」


と言うと、カクさんが


「ああ、何千年かに一度、降臨されるって話だな。本当にいたら大騒ぎになるよ」


と言い出したので、酔っぱらっていたオレは


「はい。コタロウはその白虎ですよ」


と言ってしまう。


「え?」


その場にいた全員が、コタロウを見る


『ウニャ?』


イソノのたたきを夢中で食べていたコタロウは、みんなの視線を感じて振り返る。口の周りに薬味をたっぷりとつけながら。


アヤ姉は、「ぷっ」と吹き出した。


「カワイイ聖獣様ね。こんな白虎なら、私も飼いたいなー」


オッチャン達3人も「違いねえ」と口を揃えた。


そう言えば、コタロウが白虎なのは秘密だったな。危なかった。冗談だと受け取ってもらえたようで良かった良かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る