第7話 異世界での日常
それから更に2週間ほどが過ぎた。
こちらの生活にも慣れてきて、一日のルーティーンがほぼ確定しつつある。
まずは朝、森レグホンのメンドリーに起こされる。
めんどりなのでさすがに「コケコッコー」とは鳴かないが、メンドリーは日の出とともに起き出し「コッコッコッコー」とその辺を駆け回り虫やミミズなどを見つけてついばんでいる。
「おはようメンドリー」
とあいさつしつつ、メンドリーの巣箱の中を覗く。こちらに連れてきた時にその辺に落ちてた木材をつなぎ合わせて簡易的な巣箱を作ってあげたのだ。中には枯草を敷いて居心地をよくしている。メンドリーもこの巣箱が気に入ったようで、日が暮れると中に入りそのまま日の出までそこで就寝する。
「お、今日は3個か。いつもありがとうな。」
といいつつ、メンドリーが産んでくれた卵を貰う。
メンドリーはいつも卵を2個か3個産んでくれるので本当に助かっている。
「では、朝飯にするか」
朝のメニューはベーコンエッグとバナナナだ。
たき火を起こして固定している岩盤を温める。
十分に熱したら森ブタで作った厚切りベーコンを乗せる。
「ジュウー」
焼けてきたら、卵を割りいれる。オレは黄身は半熟が好きなので白身が固まってきたらすぐにこれまた石で作った包丁兼フライ返しを使って皿替わりのバナナナの葉に乗せる。
そうこうするうちに
「ニャー」
コタロウが起きてくる。
「お、起きたか?コタロウおはよう」
そしてオレはベーコンエッグとバナナナをコタロウはベーコンを食べる。
このベーコンであるが、森ブタを使ったなんちゃってベーコンだ。
作り方は適当だったが、割とうまく出来てると思う。
まず、森ブタのブロック肉に塩をすり込みなじませる。
肉から水分が出てくるのでこまめにふき取る。
ある程度乾燥するまで、そのまましばらく放置。
乾燥した肉を近くの沢まで持っていきよく洗って塩抜きをする。
その後、また放置して乾燥させる。
最後に一晩、スモーク材で燻す
で完成だ。
スモーク材は、ヒッコリーやくるみやなどが適していると聞いたことがあるので探してみたら、それらしい木があった。それらのある程度太い幹を伐採して乾燥させて粉々にしてチップにして使った。
それと湯呑も作成した。沢の辺りの土を掘り起こして粘土質の土を確保しそれで器を作る。粘土細工など小学生以来だから、不細工なものしか出来なかったが使えればいいのだ。
それを2,3日乾燥させてこれまた自家製の石釜の中で燃やす。
石釜といっても大きな石を沢山拾ってきて適当に組み合わせただけだ。隙間を粘土で埋めてできるだけ保温性能をよくしたつもりだが。
出来上がった湯呑はお世辞にもよく出来てるとは言い難いが、水を入れる分には全く問題ない。湯呑だけでなくデカンタも作成した。
オレはそのいびつな湯呑でコタロウは皿に入った水をそれぞれ飲み干したら出発だ。
まずは近くの沢に行き、飲料水を確保だ。デカンタに水を入れアイテムボックスに収納する。デカンタは全部で10個作った。コレでオレ達の一日の飲料水と料理に使う水はほぼ確保できる。実はオレの水魔法でも飲料水は作れるのだが、沢の水の方が圧倒的にうまいので基本、こちらの方を飲んでいる。それと沢に来たのは、飲料水目的だけではない。
そこには様々な動物が来る。以前遭遇した森ブタ以外にも猿みたいな動物やリスみたいな動物。もちろん、森ネズミも。
そしてオレ達の狙いは森ブタなのだが…
「ダメだ。今日もいないな。コタロウ、行くぞ」
最初のうちは毎日2,3頭は捕れてた森ブタであるが、次第に遭遇しなくなりここ最近ではばったり見なくなっていた。食糧としては、十分すぎるほどのストックがアイテムボックスに収納してあるが、オレのレベルは全く上がらなくなっていた。
ちなみに今のレベルはこうだ。
シュウ
勇者Lv14
種別:人族
HP92(20up)
MP135(23up)
使用可能な魔法:初級火魔法、初級風魔法、初級水魔法
コタロウ
種別:飼い猫
HP144(36up)
MP0
それから昼までは、探索を兼ねた狩りを行う。
まずは、昨日探索したポイントまで移動する。
沢から小一時間ほど歩いてソコまでたどり着く。
ちょっとした小高い丘になっていてそこを登るのは正直、結構キツイ。
だが、高いところからだと周りを見渡せる。
オレは丘の頂上に生えている中でも一番大きな木によじ登って辺りを見渡してみた。
うーん。特に獲物は見えないなあ。あれ?向こうにもっと大きな丘が見える。ココから更に進んだところにかなり大きな丘、というか山がある。
「コタロウ、明日はあっちに行ってみるぞ」
「にゃあ」
コタロウは木の根元でお昼寝してる。だが、完全に寝てるわけではなくオレが話しかけるとこうやって答えてくれる。
「よーし。明日の目標が決まったな。そろそろお昼にするか?」
木から降りてたき火を起こす。
アイテムボックスからデカンタの水と卵、森ブタのベーコンを取り出す。
さらに土で作った鍋を出してそこに水を注ぎ、卵を入れる。
ベーコンは分厚く切ってその辺の枝に刺してかるく炙って食べる。
「コタロウ、焼けたぞ」
「ウニャ」
コタロウは猫舌だから少しだけ炙って渡す。
オレはこんがり焼けた方が好きなのでもう少し炙る。
そうこうしているうちに土鍋でゆで卵が出来上がる。
コレも軽く塩をかけて食べる。
「それにしても、調味料が塩だけなのはちょっと寂しいなあ。まあ贅沢は言えないけど。」
昼ごはんを食べたら少しだけ、休憩して今度は魔法の特訓をすることにしている。
レベルは上がらないのに、いつ強敵と対峙するかも分からない。その為に魔法の練度を上げることにした。苦肉の策ではあるが、あながち的外れな事をしている訳ではないだろう。
コタロウは、オレが特訓中はいつも木陰で昼寝をしている。
「コタロウも鍛えたら?」
と声を掛けるが、聞いてるのか聞いてないのか?
そう言えば、昔の有名な武将が
「虎が修練をするのか?虎は生まれつき強いから虎だろ?」
というような事言ってたな。
「つうか、コタロウはネコだし」
ただ、今やコタロウは体力だけならオレを上回ってるんだよな。なんか実感沸かないけど。
「まあ、気を取り直して」
まずは、動きまわりやすいように周りの木々や草などを火魔法で焼き払う。
十分なスペースが出来たら、特訓開始だ。
「ファイアーボール」
魔法は全て初級のままだが魔力はそこそこ増え、今ではファイアーボールなら100発以上は撃てるようになった。
ファイアーボールを的に正確に当てる練習をする。30メートルほど離れた木に当たりそのまま火がつく。
「よし。ファイアーボール」
オレは、更に連続でファイアーボールを放出する。それらも全て同じ的に当たる。
「まだまだまだまだ」
今度は、ファイアーボールの軌道を変える。右に曲げたり左に曲げたりホップさせたり急降下させたり。それらの球も全て狙った的に着弾した。
「ふう。大分上達したな。」
最初に比べたらかなりコントロールも定まってきたし、ファイアーボールを連続で放出する間隔も短くなった。
オレの今のスキルで一番戦闘に適しているものは、ファイアーボールだ。技の性質上、対象物を燃やし尽くすまでキャンセルされないんだからな。
よほど火に耐性があるかまたは跳ね返せる動物がいればまた別だろうが、相手が有機物である限りこの事実は覆らないハズだ。
つまり今の段階で戦闘になった場合、いかに相手にファイアーボールを当てるかが最重要課題となるのだ。
「さてと」
ファイアーボールの練習で魔力がすっからかんになったオレは、バナナナを取り出して食べる。そのまま少し休憩だ。
暫らくたって、「ふう。魔力が戻ってきたな」
次は、風魔法の練習だ。
「ウインドカッター」
これも、戦闘には適した武器だ。ファイアーボールに比べると殺傷力は落ちるが、真空の刃なので目には見えない。ファイアーボールだと避けられる心配があるが、これはその心配が随分減るハズだ。
ただし、ウインドカッターはあくまでも戦闘では補助に徹して使うつもりだ。
なので、ファイアーボールに比べてさらに精密さに磨きをかける訓練をしている。
具体的な特訓方法だが、まずは杉ちゃんをスパっと切り取る。枝を伐採して丸太となったら今度はソレを加工する。
以前、テレビでみた職人さんがチェーンソーで木彫りのクマを器用に彫っていた。それを再現するべく日々悪戦苦闘するのであるが、なかなかそこまでのクオリティには達していない。これは、時間がかかるだろう。
「よし。そろそろ終わるか。今日も疲れたな」
水魔法であるが、コレはいまだ運用方法を模索中だ。戦闘に水をどうやって使ったらいいのか分からない。そもそも戦闘には不向きな能力な気がする。
「コタロウ。帰るよー」
「にゃあ」
昼寝してたコタロウは、オレが呼ぶと大きく伸びをしてこっちに駆け寄ってくる。
もともとネコは1日の3分の2は寝ている。こちらに来てからもそれはあまり変わらない。今まではオレが仕事などで留守にしている時は、わからなかったが今はずっと一緒だ。なんて事を考えながら、家路につく。
「コタロウ、明日はあの山に登るから朝一で出発するぞ」
「にゃあ」
日が暮れるころ、ベースキャンプに到着する。メンドリーはすでに就寝していた。
明日も早いしすぐに晩飯にするか
「今日は簡単に森ブタを焼くだけにするか」
とカットされた森ブタを容器から取り出す。実はコレ、塩麹に漬け込んでいるのだ。
この塩麹であるが、適当に作ったのに奇跡的にうまくできた。
まずは、近くに麦っぽい植物が生えていたのでそれから麹菌を培養し麦麹を作る。
麦麹を乾燥させて岩塩と水に混ぜてしばらく放置していたら発酵していた。
そもそも麹菌というものは、日本にしか存在しないと聞いたことがある。ということは、この世界は、オレがもといた世界と環境が似ているのではないだろうか?
と、少し期待をしている…
「塩麹に漬け込んだ、森ブタの肉ウメー」
「ウ、ウミャー」
信じられないくらい柔らかいし味に深みもある。それと一緒にスープも作った。
森ブタのベーコンとその辺に生えてたキノコを一緒に煮込んで塩で味をつけただけであるが、ベーコンとキノコから旨みが出てコレもうまい。
「腹いっぱいになったな、コタロウ?じゃあごちそう様な」
「にゃあ」
お腹いっぱいになったコタロウは先にうろに入っていった。
オレは後片づけをしながら、思案にくれる。
この世界に来てから1か月近くなる。だが、いまだに疑問と不安が尽きない。
いままで人と一度も接していない。それどころか、文明の痕跡さえ見つからない。
ひょっとしてこの世界には、人は存在しないのではないか?
夜になるといつも考えてしまう。
「明日、あの山に登ってその疑問が解決することを祈ろう。」
オレは悶々としながら、床に就いた。
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