部活のお話 「先輩が高校の部活動で一番頑張ったのは後輩を虐める事ですね」
彼女は休み時間や昼休み、ちょくちょく私の元を訪れるようになりました。
どこの学校でもそうだと思いますが、下級生が上級生の教室の前の廊下をうろうろしていると目立ちます。
私は気にしなくても他の生徒にとっては目障りに映るでしょう。特に彼女の目当ては、はみ出し者の私なのですから。
しかも彼女はやたらと私に触れようとして来るので、その都度私は後輩の手を払い除けます。
「どうして私の手を握りたがるんですか?」
「先輩は私の憧れなんです」
「動物園の珍しい動物は面白いとか変わってると言うべきで、憧れにはならないと思います」
「部活の他の先輩が、先輩の事を酷い風に言っているのを耳にしました。でも先輩は歯牙にも掛けません。でもそれは酷い事を言っているから無視してるんじゃなくて、私が先輩を好き好きって言っても先輩はやっぱり何も気にしたりしません。先輩は自分が出来上がってるんですよ! 人に左右されず、自分が『こう』だから『こう』だって! 誰に対してもそれを曲げたりしないんです!」
人は見たいように相手を見るようです。
私は単純に空気読めないだけなのですが、彼女の評価方法ではそれが高得点を獲得するようでした。例えば普通の人は車の排気音は小さい方が良いと思うはずですが、暴走族はマフラー改造して爆音を出すと高評価です。後輩にとって私は深夜の爆走一人珍走団です。
「過大評価していただいて結構ですが、それと私に触るのとは関係無いのではないですか」
「いいえ、それだからこそ憧れの先輩と一緒にいたり手を繋ぐと、勇気が湧いて来るんです!」
先輩はなにやらキラキラした瞳で私を見つめます。
私は何時も通りの鉄面皮で見返したのですが、彼女は他の人々とは違い目を逸らしません。むしろ喜んでいる節があります。
中学生の頃出会った、衣食住の衣の部分にコート一枚しかお金を掛けることが出来ない中年男性が私の目前でそれすら取り払った時にも見つめていれば泣いて去る程の視線だったのですが、後輩にとっては私が彼女を見つめている事が歓迎するべき事であるようでした。
「せんぱ~い。えへへ」
視線が交差している事を何らかの肯定と解釈した後輩が、懲りずにまた伸ばして来た手をぱちんと叩きました。
私にとっては他の部員のやっかみ同様に、後輩も適当にあしらえば済む事でした。
しかし彼女にはそうやって望まない事をやり過ごす事が出来る強さは無さそうでした。
にも拘らず集団生活の中で嫌われている私に構ってしまう為、要らない災いを呼び込んでしまいました。
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