第2話 『うしおととら』


 さて、前回とは打って変わって、今度は長編少年漫画『うしおととら』について書きたいと思います。


 この漫画との出会いは、前回でもお話した通り、まだ本屋さんで本にシュリンク包装をしていなかった時代に、立ち読みしまくった中の一つでした。

 結論から言うと、私はこの漫画を全巻今でも持っていて、ラストを読んでは泣いています。

感動巨編なのか、と言われたら、違う、と答えます。

 これはものすごく熱い心を描いた、まさにザ・少年漫画です。


 実はこの物語は、つい先月、2019年6月28日に最終回が放送されたアニメ、『からくりサーカス』の作者、藤田和日郎先生が、『からくりサーカス』の前に描いた長編です。ですので、アニメ『からくりサーカス』から入った、という人も是非、興味を持ってくださると嬉しいです。


 あらすじを大まかにいいますと、寺の住職の息子、蒼月潮(あおつきうしお)は、ひょんなことから、妖怪退治の槍、「獣の槍」を引き抜いてしまい、妖怪たちと戦う日々に身を投じることになります。その槍にはりつけにされていた、妖怪を解き放ち、彼にとらと名付けて、共に暮らしながら。


 ……と、あらすじを言うと、「なんじゃテンプレの勇者物語かい」ってお思いになる方もいらっしゃるかと思います。しかし、この物語、本当にすんなり入っていくことができ、その内に自分の中に熱いものがこみ上げてきて、ちょっと中だるみすることはあるけれども、気が付いたら最後まで読んでいる、というお話なんです。

 その魅力をこれからご紹介していきます。


 まず、なんといってもキャラクターです。

 タイトルにもなっている潮(うしお)と、とら。

この両名とも、一言で言うなら明るい阿呆です。どっちも間抜けなところがあり、潮は成績もよくありません。ですが底抜けに明るい中に、熱い熱い魂を二人共持っているのです。

 この二人、とらは潮を食べてやる、潮はいつか退治してやる、の関係から入ります。なのでその関係のドタバタギャグも繰り広げられたりするのですが、そこがまたキャラクターがより魅力的に感じる要素でもあります。

 次に、最初の回にでてくるのが、幼馴染の麻子と真由子。

麻子がメインヒロインなのですが、私は実は麻子が苦手です。何故なら、一言で言うならば、正義感が強く、困っている人を見過ごせず、でも解決方法は力、そして皆の人気者…というキャラだからです。麻子は父親の影響で手や足が出ることが多く、あるエピソードでは、真由子が「麻子って凄いんだよ、横入りしてきた男子なんてポンポンポーンって」っていいます。これ、私には「暴力で解決してる人がなんで人気なのさ」っていうツッコミが心に浮かんでしまうんです。

 他にも、素直じゃないところから、潮につんけんな態度を取るところがあります。そこがどうしても引っ掛かる。引っ掛かる。しかし、彼女も、それがよくクラスにいた「人気者」という形をとっていて、愛されるべきキャラクターの一人であり、また彼女が終盤見せる心根のちょっとした弱さや、強さが、彼女を本当の人間のように感じさせてくれます。これを描ききる藤田先生は凄いと思いました。

 真由子は、ちょっと不思議な女の子ですが、物語の終盤に大きく関わってきます。私、そういうキャラ大好きなので、真由子びいきでもあります。なのでちょっと、麻子に厳しいのかも知れません。


 この他にも、明るいメインキャラクターに相反するかのように、死にたがりの羽生礼子、辛い過去を背負って妖怪退治をしてきた中国人のヒョウ(金片に票:漢字がいくら頑張っても出なかった)、そして潮ととらが出会うことになる数々の妖怪たちが、まさしく色とりどりに、物語を彩っているのです。

この魅力は本当に計り知れないところがあります。

 ちなみに私が一番好きなのは、とらです。そこも長々語りたいんですが、物語のネタバレになってしまうのでぐっと我慢。


 そして次に、なんと言ってもストーリーです。

 1話1話が見応えがあるのですが、その中で一番藤田先生が描かれてるのは、「人間の弱さと、そして強さ」だと思います。ある1話では、底抜けに明るく、そして強く熱い魂をもった潮たちをみて、人の顔色ばかりうかがって、いじめられっ子になってしまった少年が、一歩踏み出します。

 この文だけだと、どこにでもあるストーリーじゃないか、なんて思われるかもしれませんが、心理描写がとても巧みなんです。特に、少年が潮たちをみて、「いいなぁ、いいなぁ」って思う場面があります。これがとてもリアルに感じられるのです。そこで少年が、一歩踏み出せるだけ理由を潮ととらが持っている、というのをそこまでエピソードで描いている、藤田先生の熱さ、半端ないです。

 ストーリーに入り込んでいく中で、段々と潮ととらも、読者にとって欠かせない存在になっていく、そのストーリーを完璧に描いている、そこがうしおととらの大きな魅力です。


 そして一番上げたいのは、物語のラストです。

 これについては、ツイッターで藤田先生がおっしゃってました。「『うしおととら』は、描ききったから、もうなにも言うことがないのです」と。

 正直な話、私はもっと潮ととらに会いたい!!って思ってしまうのですが、うん、このラストでいいよなって納得する面もあります。でもなんでえええええって今でも叫びたくなる。そんなラストです。

散々熱い魂こっちにぶつけといて最後にくるのがコレかい!!もうわかった殺してくれ!!!!って叫びたくなりました。

そして冒頭で描いた通り泣くのです。

暫く間をおいて、もう大丈夫だろ泣かねーぞって思いながら読んでも泣くんだから、藤田先生ほんと怖い。


 とにかく露骨な人間像と、そして熱い魂をぶつけられたいなら、是非うしおととら、読んでみてください。

ちなみに『うしおととら』はアニメにもなっているのですが、見た友人曰く「抜粋集」になっていたとのことだったので、未視聴です。ですのでアニメについては語れません。


 ちょっと独特な絵柄なので、手にとってなかった、という人も是非、『うしおととら』を宜しくお願いします。

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