2-2
アマネとウタタはロビーに戻って退館処理を済ませ、建物を後にした。駅まで並んで歩く。アマネのレベルは相変わらず96のままだった。よくわからないな、とアマネは思った。
「アマネは、他のダンジョンやタウンには行ったことある?」
ウタタに尋ねられて、アマネは首を横に振った。
「いや、行ったことがあるのはカノープスの居城とカペラ吊り橋だけだよ」
東京にはカノープスの居城のような探検型ダンジョンが複数あり、サファリと呼ばれるモンスターを捕まえられるタイプのダンジョンや、プレイヤー同士の交流を目的としたタウン等が揃っていたが、アマネはまだ行ったことがなかった。
「そっか。機会があれば新宿のアルデバランに行ってみるといいよ。夕暮れの街。装備の変更の幅も広がるし、観光地としても面白いよ」
アマネは苦笑いした。
「……一人で行っても浮かない?」
ウタタはきょとんとした顔をした。
「考えたことなかったけど、気になるなら一緒に行く? 案内するよ」
「いいの? 助かる」
アマネは喜んでウタタの提案を受け入れた。ウタタには助けられっぱなしである。
「僕の行きつけのお店を紹介するよ。そうしたら僕、紹介特典もらえるし」
「特典?」
「ポイントとか。たまに、珍しいものを貰えることもあるんだ」
なるほどウィンウィンだ、アマネが納得していると、ウタタが突然歩みを止めた。
「ウタタ?」
ウタタは車道の反対側を凝視して、固まっていた。アマネはウタタの視線の先を辿って、その先のものに気付く。
ジグリアのマスコットキャラクターがいた。
大きな猫のような耳の、小型のモンスターである。胸の辺りがふさふさした白い毛に覆われていてかわいらしい。告知やプレイヤーカードの操作画面によく登場し、タウンに行くと触れ合えるという。サファリタイプのダンジョンで仲間にすると、プレイヤーカード内で飼うことも――
なぜこんなところにいるのか。
当然の疑問がアマネの頭に浮かんだ。「ねえ、あれ」とアマネが口を開きかけた瞬間、ウタタが弾かれたように走り出した。
「ウタタ!?」
アマネの呼びかけにウタタは答えない。猫のようなマスコットキャラクターが、ウタタを追うように走り出した。慌ててアマネも後を追う――が、
「うそでしょ……」
あまりのウタタの足の速さに、アマネは全く着いていけなかった。信じがたい速度で、ものの十数秒のうちに、ウタタの背中は小さくなってしまった。
いくらなんでも速すぎる。しかし猫のようなマスコットキャラクターはその速度に負けじと着いていっている。驚愕するアマネが遠くから見つめる中、ウタタは更に人間離れした動きをした。
何車線もあるような道路を跳躍して飛び超えたのだ。
「……そんなことある?」
唖然と立ち尽くすアマネを置き去りに、猫のようなマスコットキャラクターはウタタを追って消えていった。
それからウタタは「カノープスの居城」に来なくなった。定期的に訪れていた水曜日はもちろん、土日や祝日にもアマネは探しに来てみたのだが会うことはできなかった。せっかく交換した連絡先にメッセージを送ってみたものの、既読の表示が付いただけで返事はなかった。
アマネは、ウタタがこだわっていた小部屋があるはずの細い塔を見上げる。
あのバグのような違和感はなんだったのか。あの日に現れたジグリアのマスコットキャラクターは何だったのか。実のところアマネはある程度の予測はついていたが、確かめることにためらいがあった。
もうすぐ二月が終わる。最終土曜日には、防衛戦がある。
見に行ってみよう、とアマネは思う。ウタタと話ができなくても、遠目に見ることしかできなくても。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます