1-9



 ガーゴイルの炎はあっという間にウタタの身体を乾かしてくれた。もう十分乾いたから、と掴まれていた尻尾をようやく離してもらって、ガーゴイルはすごすごと逃げていった。


「ありがとう。助かったよ」


 ウタタに礼を言われて、アマネは笑った。


「お礼ならあのガーゴイルに……なのかな。風邪引くことにならなくてよかったよ」


「あったかかったねぇ」


 ウタタの横で温風のおこぼれをもらっていたユキもご機嫌である。


「うん、そうだね。いい迷惑だったかも知れないけど」


 ガーゴイルに心情なんてものがあれば間違いなく迷惑だったろうが、でもまあガーゴイルである。


 逃げていくガーゴイルを見送って、三人はロビーに戻った。


 それぞれ無人受付機で退館処理を済ませる。今回のアマネのレベルは来た時のままだった。


「私、門限あるから先行くね。ウタタ、ばいばい! スナイパーくんも、また遊ぼうね」


 そう言ってユキは元気に走り去ってしまい、ロビーにはアマネとウタタが残された。


「僕も帰るね。今日は本当に助かったよ。ありがとう。またね、」


 そう言ってウタタも帰ろうとしたので、アマネは慌ててウタタを引き止めた。


 ウタタに会えたら確認したいと思っていたことがあった。


「先週末の防衛戦、なにか変じゃなかった?」


 アマネの一言でウタタの顔色が変わった。


「変って、なにが」


「なんて言えばいいのかな。最後の方でウタタがバランス崩したよね? あのときに、ウタタが橋でジャンプして落ちた時みたいな、そんな感じの違和感があったんだけど」


 なんとなく、ユキもいる時には話さない方がいいかと思って口にしないでいたことだった。アマネの勘違いなら、単にウタタがバランスを崩してしまっただけである。それをわざわざパートナーの前で言及すれば、ミスを責めているようで嫌な気分になるのではないか、と思ってのことだった。


「…………」


 ウタタが顔を引きつらせて黙ってしまったので、慌ててアマネは続きを言った。


「ごめん。おれの勘違いかも知れないけど、もしバグなら運営に報告したほうがいいんじゃないかと思って」


 少しだけ考えるように視線をさまよわせたウタタは、やがて爽やかな笑顔をつくって答えた。


「ああ、そういうこと。あれは、ただ僕がバランスを崩しちゃっただけだよ」


 ウタタが苦そうに笑って、恥ずかしいところを見られたな、と頬をかいた。


「そっか。ごめんね、変なこと言って。……ウタタがバランスを崩しちゃうなんてさ、おれじゃあるまいし、って意外だったから」


 レベル一四八でも、中身は生身の人間なんだからそういうこともあるのだろう、とアマネは納得した。


「アマネ。連絡先、交換しない?」


 ウタタからの唐突な提案に、アマネは驚く。


「えっ、うん。いいよ」


 とりあえず断る理由がなかったので、アマネはウタタに促されるまま携帯端末をコートから取り出す。


「将来有望なスナイパーで、ガーゴイルの意外な活用法に気付く人材だからね。あ

あ、それに探し物も上手。だから、またアマネと別のダンジョンにも一緒に行けたらいいなって」


 ウタタに良いところを並べられて、アマネは嬉しくなった。舞い上がったと言ってもよい。


「おれでいいなら喜んで一緒に行くよ。ほんとスナイパーのソロプレイってどうしたらいいか分かんなくて困ってたんだ」


 今日も馬の石像にズタボロにされたばかりである。連絡先を交換しながら、アマネは馬にボロ負けした話をした。


 連絡先の交換を終えて、ウタタは去り際にひとことボス攻略のヒントをくれた。


「あの馬の石像は、額の飾り石を壊すと動きが遅くなるよ」


 本当にゲームが好きなんだな、とアマネは半ば呆れつつ関心した。



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