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本名と思われる〝梨木転〟では、さすがに検索に引っ掛からなかった。
アマネは自室のベッドに寝転がって、ウタタについて調べていた。
名前の代わりに、いくつか特徴を検索ボックスに放り込む。翼、モンク、ショートカット……ネット上でウタタを見つけるのに、たいした時間はかからなかった。
プレイヤー名、リラで登録されている。
「フィールドマスターじゃん……」
出てきた情報によれば、去年の一月に新たに解放された「カペラ吊り橋」と呼ばれるバトルフィールドで、トーナメントを勝ち抜いて優勝し、フィールドマスターの座にいることが分かった。
マスターになってからは何度もマスター権をかけた挑戦を多くのプレイヤーから受けているが、悉く返り討ちにしてマスターの座を守っているという。そのプレイヤーもまた、挑戦権を獲得するためにトーナメントを勝ち抜いたプレイヤーであるにもかかわらず、である。
〝カペラ吊り橋〟は二対二を条件とするバトルフィールド、つまりプレイヤー同士の対戦を目的とする場であるため、ウタタにはパートナーがいることもわかった。プレイヤー名、ライラ。アマネやウタタと同年代と思われる、明るい髪色の少女だった。
リラとライラで、ダブルクインと呼ばれているらしい。
アマネは調べていたデバイスを放り投げて、ため息をついた。たまたま出会えてラッキーだっただけで、自分とは違う世界の住人だった。できればもう一度一緒にダンジョンに行けないかと思っていたのだが、連絡先も知らないし、ウタタの方は一緒にダンジョンに潜る仲間などいくらでもいるだろう。
それに、ダンジョンをコンプリートするために紐なしバンジーを敢行するような熱狂的プレイヤーに、アマネ自身、着いていく自信もなかった。
――ああでも、今週末のマスター権防衛戦は見に行ってみようかな。
それだけ決めて、アマネはパーカーのポケットからジグリアのプレイヤーカードを取り出した。
右下の丸い窪みで指紋を認証すると、カードにコントロールパネルが浮き上がり、カードの上の側面から光が出て、空中にA4サイズほどのモニターが投影された。
アマネのレベルが跳ね上がった理由は分からずじまいだったが、それはそれとして、レベルに応じて解禁される装備変更は楽しむべきだろう。
モニターには、変更可能な装備がいくつか表示されている。ヘッドギア、武器、防具、攻撃力を高めたり特殊効果を付与するアクセサリーの類、それから単純にゲーム世界を楽しむための装飾品。
アマネはまずヘッドギアのカスタマイズにとりかかった。
モチーフの系統だけでも、動物、昆虫、水生生物、植物、メカ、服飾、スチームパンク、ゴースト、架空の生物、天使と悪魔、鉱物――などと多岐にわたる。アマネは一通りタブを選択してみたが、系統ごとに五〇は下らない選択肢が用意されていた。多いものだと一〇〇以上あるのではなかろうか。
とりあえず動物系のタブに戻り、最初に目についた鹿の角を選択すると、色、質感、サイズ、オプション、と更なる選択肢が表示された。
試しに白、ザラザラ、基本サイズ、オプションなし……と選択してみる。
「おわっ」
選び終わった瞬間に、首にひっかけたままにしていたヘッドギアが変形した。ヘッドギアから生えてきた角に首を押し上げられて、クッションから頭が浮かぶ。アマネは慌ててヘッドギアを外して、おでこに装着した。見た目はよろしくないが、見られる相手もいないのでよしとする。
「…………さて、」
とんでもない時間泥棒になる未来がくっきりと脳裏に浮かんで、アマネは気が遠くなった。
「……時間を決めてやります」
アマネはそう自分自身に宣言して時計を確認した。夜の八時半。一〇時まで、と決めた。一時間半の一本勝負である。
決めたからには早々に取り掛からなければなるまい。気合を入れて、アマネはカスタマイズに取り掛かった。
結局、最初に目についた鹿の角に戻ってきてしまうのがなんとも自分らしい、とアマネは思う。色は緑がかった水色で、質感は透明感のあるぷにぷに。サイズは、ヘッドギアを首にかけている際に邪魔にならないよう最小にした。オプションはない。
頭に装着してみると、ちいさな丸っこい角がちょこんと見えて、なかなかかわいくできた、とアマネは満足した。
武器もカスタマイズした。初期形状ではシンプルな銀色のリングだった射出装置を、角にあわせて透明感のある質感に変更してある。いくつか防具とアクセサリーも装備に加えて耐久力を上げたので、次にダンジョンに潜ったときには探索が楽になるだろう。
一〇時を七、八分ほどオーバーして、アマネはカスタマイズを終えた。
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