1-3
ウタタは「モンク」をメイン、「シーク」をサブのジョブとしている完全近接攻撃型だった。異常なまでに動きが早く、元来の運動能力が優れているのか、人間離れした軽業もやすやすとやってのけた。
近付いたモンスターはウタタがほぼ一撃ですべて処理できてしまうため、アマネの仕事は、テレスコープによる索敵と先制攻撃が主になった。モンスターと接近してからはウタタの陰に隠れて敵を撃った。
三層ほどモンスターを倒しながら進むと、中ボスエリアだという大広間に辿り着いた。
ウタタが広間の天井を指さして、
「あそこのシャンデリアに鳥のモンスターがいるはずなんだけど、撃てる?」
と首をかしげた。
アマネはシャンデリアをよくよく観察した。確かに薄い灰色の鳥が三羽止まっているのが見える。
「できると思う」
「よし。あの鳥は空からデバフばっかりかけてくる敵で、最初に倒しておけるかどうかで、このボスの難易度はけっこう変わるんだ。まかせたよ」
アマネは頷いて、射撃装置のリングを構えた。スナイパーの機能のテレスコープを通した映像が、まるで自分の視界のように直接脳に浮かぶ。
三羽を順に打ち落とす動きのイメージをしっかりと描き、射出した。
リングから風を切る音が三つ連続して鳴り、黒い針のような弾丸が順に三羽を撃ち抜く。アマネのイメージ通りだった。
「うまいね」
と、嘘か誠かウタタに褒められて、アマネは照れた。
「そうかな?」
「うん。前に他のスナイパーの人と一緒にダンジョンに潜ったことがあるけど、こんなに当たってなかったよ」
ウタタがそう言うなら、そうなのかも知れない、とアマネははにかんだ。
「おれはあんまり体を動かすのが得意じゃないから、こっちの才能があると嬉しいな」
「あると思う。少しレベルが上がったらもっといい防具が使えるようになるから、そうしたら低層でレベル上げをして、少しずつ階層を上げていくといいよ。きっといいスナイパーになる」
ウタタが言うなら本当にそうなる気がして、アマネは自信が湧くようだった。
「ありがとう。……ウタタは強いね。何レベルくらいあるの?」
「一四八」
帰ってきた答えが文字通りの桁違いで、アマネは慄いた。
ジグリアにおけるレベルはイコール強さ、ではないが、イコール練習量ではある。
いったいどれほどの時間をプレイに費やしているのか。中ボスエリアで呑気に会話ができているのだから、そのくらいのレベルがあって当然なのかもしれないが、アマネは気が遠くなるようだった。
しかしながら、それは廃プレイヤーなのではないか、とは言えず、アマネは素直に「すごい」とだけ返した。
少しだけ得意そうにウタタは笑って、「よし。ボス戦に行こう」と広間の中央へ進み出る。
慌ててアマネは後を追った。
中ボスは馬の石像だった。アマネたちが広間に入ってきたことに反応して、光輝いたかと思うと動き出した。馬の石像に呼応するように、広間の両端に整列していた全身鎧――プレートアーマーが動き出した。
「攻撃する余裕がなかったら、逃げ回って生き残ることに専念して。できそうなら、隙を作るから攻撃してみて」
アマネにアドバイスをするとウタタは走り出し、動くプレートアーマーのモンスターを壁まで蹴り飛ばしたかと思うと、続いて馬の石像のようなモンスターに数発蹴りを打ち込んだ。
プレートアーマーの方は消滅して、中ボスである馬の石像はクリティカルヒットを喰らって横倒しになる。さすがにボスキャラだけあって、HPが高く設定されているのだろう。ウタタの攻撃で即死しない。
ウタタがちらりとアマネに視線を投げる。ウタタが作ってくれたチャンスに感謝して、アマネは馬の石像に向かって打てる限りの連撃を打ち込んだ。
アマネが撃ち終わるのを待っていたように、ウタタが飛び上がって踵落としを喰らわせる。
実によく動く――とアマネがウタタに見惚れていると、別のプレートアーマーが襲い掛かってきてアマネは慌てて逃げた。
ガシャンガシャンと音を立ててプレートアーマーは追いかけてくる。止まってリングを構える時間があれば応戦できるのだけど――とアマネが思っていると、飛ぶように現れたウタタがプレートアーマーを蹴り飛ばして去った。
「……」
人間離れした動きにアマネは言葉をなくした。ジグリアの身体強化スキルを使いこなすとはどういうことか、見せつけられた気がした。
馬の石像のもとに戻ったウタタは、馬の頭を蹴り上げた。もう一度横倒しになるかと思ったが、ウタタが「あ、倒しちゃった」と呟くと同時に、馬の石像は一度強く光ったかと思うと、光の粒になって消えていった。中ボスとは思えないあっさりした終わりに、アマネは拍子抜けしてしまった。
「ごめんね。もう少し経験値を稼げるようにするつもりだったんだけど」
ウタタが手を合わせるポーズをとった。古参プレイヤーの鑑である。
もしかしたらここまでが実はチュートリアルで、彼女は初プレイをサポートするお助けキャラなのではないか。そんなことまでアマネは思ったが、目の前で困ったように笑うウタタはどう見ても生身の人間だった。
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