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黒髪のショートカットから、ヘッドギアの白い翼の装飾が垂れ下がっている。背が高く、黒いウィンドブレーカーの下に覗く細い脚にスキニージーンズが似合っていた。肌は白くて、大人びた顔立ちだ。
「僕は転ぶって書いてウタタ。
投げナイフのプレイヤーは、アマネと同い年の女子高生だった。アマネはウタタが居た部屋に招かれて、椅子に腰かけた。
「……あの、助けてくれて本当にありがとう。ゲームだけど死ぬかと思った」
「お安い御用だよ。新規プレイヤーをサポートするのは古参の務めだからね」
やはり、アマネとは比べ物にならない高レベルプレイヤーと思われた。
「なんでこんな初心者向けのダンジョンに?」
冬のナンバーワン不人気スポットなのに、とは言わず、アマネは尋ねた。
「探し物があってね。――はい」
差し出された小瓶の回復薬をアマネは受け取って、「なにからなにまですみません」と頭を下げた。口に含むと小瓶の中の液体は空気のように消え、かすめた炎と転んだ際のダメージが、ぴろん、と音をたてて回復した。
ウタタは壁際の本棚まで歩いていって、隙間なく並べられた本を指す。
「この部屋のどこかに、このお城の地図があるんだって」
「そうなんだ」
なるほど、とアマネは頷いた。この部屋に入ったときに他の部屋とは雰囲気が違うと思ったが、地図が隠された書斎らしい。部屋の中央にこそ小さなテーブルと椅子が置かれているが、壁は一面本棚に覆われている。
「前にここに来たときは探すのが面倒になって諦めたんだけど、ちょっと欲しくなって」
アマネは椅子から立ち上がると、
「一緒に探すよ。助けてもらったお礼」
と笑った。
「ほんとう? 助かるよ!」
探し物は苦手だというウタタに、アマネは「二人ならきっと見つかるよ」と答える。アマネは探し物が得意な方だ。それにスナイパースキルのひとつ、テレスコープ――照準機能を持ったカメラも役立つだろう。
喜ぶウタタと探す範囲の分担を決め、アマネは本棚に向かった。
「これじゃないかな」
ご丁寧に背表紙に「Map of the castle」と書かれた本をアマネは掲げた。ウタタはよじ登っていた本棚から飛び降りて、アマネに駆け寄った。
「すごい」
言葉は短かったが、ウタタは本当に感動しているようで、目を輝かせている。アマネから地図を受け取るとすぐさまテーブルの上で開く。羊皮紙を再現しているのか、一枚一枚が分厚い紙をめくっていくと、ウタタがあるページで手を止めた。
「これ、ここ」
ウタタが指さしたのは、丸い小部屋だ。城のメイン部分から少し離れたところにあり、橋と思しき線で繋がれている。――のだが、小部屋以外は緑の線で描かれているのに対してその小部屋だけが黒い線で描かれていた。
「……これがどうしたの?」
よくわからずにアマネは首を捻る。
「地図の中で、緑の線で描かれているエリアは地図を持っている人が行ったことのある場所で、黒の線はまだ行ったことがない場所を示してる。アマネが持ってみて」
促されるままにアマネが地図を手に持つと、ウタタが触れていた間は緑で表示されていた部分――つまり丸い小部屋以外――がすべて黒の線に変わった。
「つまり、この丸い部屋だけ、ウタタが行ったことがないってこと?」
そう、とウタタは頷いた。
「何ヶ月か前にネットで話題になってね。カノープスの居城には絶対に到達できない場所があるって」
「この橋みたいなのは?」
「それだけが唯一のルートのはずなんだけど、崩落してるんだって」
ふうん、とアマネは頷いた。アマネにとって居城は初めてのダンジョンで、コンプリートなど考えてもいなかったが、ウタタはダンジョンのすべての道に行ってみなければ気が済まないタイプなのかもしれない。
「一緒に行く?」
ウタタからの思ってもみなかった提案に、アマネは少し驚いた。
「いいの?」
「僕はどのみち、本当に到達できないのか確かめに行くつもりだし、アマネは……その、この先はガーゴイル以外のモンスターも出てくるし、たぶん低レベルのスナイパー一人だとすぐに死んじゃうと思うから」
ありがたい提案に、アマネはもちろん頷いた。
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