たった一つの手違いとすれ違い/星灯楓花
ここは、ひとつ、主の居ない世界。いくつもの世界設定を共有する不可解な世界。
わたしはそんなことをぼんやりと考えながら彼らの日々にちょこっとおじゃますることにした。世界の中に入った以上わたしだって知ることと知られることの例外にはならないことをわたしは全く失念していた。
彼らは一つのシナリオにたどり着く。たどり着かれる。いえ、絡め取られると言ったほうが正確かもしれませんね。
物語はクライマックスへ至る。知識は十全。用意された物は完全。
そして、阻止されなければ当然に履行されてしまう。目覚める。不完全だけれど十分に破滅足り得える狂気の主が。空気が震えて街の空が悲鳴をあげる。それは“完全な姿”で目覚めた。死すらを超越し、永劫の眠りより目覚めて、伸びをするみたいに気だるげに雲を引き裂いた。
「どう……して……。」
違う。そんなはずがない。完全な復活なんてありえない。だってこんなのは、“
「わたしの……知っている……。知っている……?」
物語の世界はいつも酷く曖昧で、それぞれの認識によって如何様にも変化しうる。主さんのよく言っていたこと。だとすればあの大いなるものはわたしの知識と認識によって真なるものに近づいたということになる。
わたしに流れ込むわたしと根本を同じくする彼らたちの痛みも絶望も死の断絶も、正常な世界の中での道理なら受け止めよう。だけれど、これは違う。これはわたしのせいで起きた埒外の異常だ。このけじめは私がつけないといけない。ぜんぶおしまいにしよう。ぜんぶ。
そうして刹那の内にわたしは星空の中に浮いている。手の中に在るのは世界の結晶。物語の雫。それは他の物語たちのような光を失い、灰ががった青色の触手に侵されてぐずぐずに崩れ去ろうとしている。手の中で包み込んで見えなくする。手の中にはなにもない。認識を失った世界は存在しないと同義だ。忘れる。忘れた。何もなかった。これでいい。
次の瞬間には、赤みがかったメッシュの目立つ白衣の青年がわたしの前に立っていた。世界がぐるりと塗り替わる。むき出しのコンクリートに、質素な机と椅子。どうしてか、さっき消したはずのすべてを、まだ覚えている。
観測記録:No.■■■■■■■■■■■■の断片的な復元に成功。
再構築は指示在るまで中止。
妖星観測局局長:■■■■
星灯楓花 星空の鍵 @hosikagi
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