第3話
アイラ・ローズ、十六歳。高校に通う普通の女子高生。表向きはそうなっている。本当の私はM125の星を収める一族。
M125は地球とほとんど同じ質量と体積で、私たちの星では姉妹惑星と呼ばれている。地球からは12.5光年離れているけど、私たちの星の技術を用いればこの距離も一瞬で移動できる。
私は地球が好きだった。はるか遠くから見える地球が綺麗でとても好きだった。それは今も変わらない。
時折地球に遊びに来たことはあったけど、今回みたいに長く滞在するのは初めて。だから、今は毎日がとても楽しい。
私は星を収める一族の王女。姉が第一継承権を持っているから私はこうして自由ができる。これも姉が取り計らってくれたおかげ。
私たちの国はとても技術が進んでいる。環境の維持も破壊も私たちの意思一つで思いのまま。だから私たちは星を統一した。
今でこそ平和を手にしているけれど、昔は地球のように争いが絶えない時代があった。それでも私たちは平和を手に入れた。だから地球も、いつか平和になるって信じている。
日本は私たちの星に少しだけ近い。でもまだ本当の平和には遠い。私の目標は日本と地球が平和になること。そのために、今は下地を作る。いずれ地球との外交で問題が起きないように。
少しだけ、私が地球に来る前の話を聞いてほしい。
「アイリス様、それは真ですか!?」
「本当よ。アイラは旅に出す。あの子は常識を知らなすぎる」
「しかし、アイラ様を地球の学校に通わせるなんて……」
アイリスの後をついて歩くのは、アイラ専属の世話係レアルだ。レアルは銀の長髪を綺麗にまとめ、手には絹でできた真っ白な手袋をはめている。
「アイラは常識に欠けている。それにあの子が初めて自分の願いを言ったんだ。いつまでもここに閉じ込めておいては可哀想だろう」
「しかし……」
「そんなにアイラが心配ならお前がついていけばいいだろう」
「……かしこまりました」
「うん。その返事が聞きたかった。じゃ、アイラのことは頼んだぞ。出発は明日だ」
「え!? そんないきなり!?」
アイリスは言質はとったとしたり顔で笑う。レアルは、アイリスの無茶は今に始まったことではないと諦め、いつものようにため息をつく。
「アイラ様とは正反対ですよ」
「ふふ。全くだ。アイラにも少しは私を見習ってほしいものだ」
「そうですね」
アイラは頭がいい。姉であるアイリスを凌ぐほどに。だがその反面、アイリスよりも社交性や積極性がない。自分の意見を言うことはあまりなく、周りの大人に言われたことを素直に聞く。とてもいい子に育っているが、アイリスはアイラがもっと自分を出せるようになって欲しかった。
「アイラの初めての我儘だ。姉として力を尽くしたいと思うのは普通だろう?」
「承知しました。全力でアイラ様の生活をサポートしてみせます」
「うん。頼んだ!」
それからアイラとレアルは地球に向けて旅立った。12光年の距離を一瞬で移動しレアルはアイラが学校に通うための手配をした。
「レアル、私地球に来たの初めて」
「私もです」
二人は地球の新しい住居で荷解きをする。と言ってもその全てをレアルが行い、アイラは広いベランダから街を眺めていた。
「アイラ様は西華中学校を卒業して高校に入学、今年から一年生となります」
「うん」
「何か不便がございましたら私までお申し付けください。本国から物を届けてもらうこともできますので」
「分かった」
アイラは少し遠くに見える高校の校舎に目を向ける。
二人の家は西華中からほど近い丘の上の一軒家。二人で暮らすには大きすぎるが、王女が暮らすのだからと、レアルが張り切って用意した。
ベランダのすぐ下には青い芝生の綺麗な庭がある。噴水が眺められる場所に鋳物のガーデンチェアがあり、春には庭の外縁にある桜を見ながらお茶ができる。
「学校、楽しみ」
「ええ。アイリス様が、たくさん友達作ってと仰っていまし」
「友達。そうだね」
アイラには友達がいない。王女として生まれてから、ずっと家に引きこもっていたアイラは、同年代の知り合いと言えば親戚くらいのもので、その親戚とも滅多に会わない。そのためアイラは学校が楽しみだった。
「学校はいつから?」
「入学式は明後日です」
『地球の学校について、友達の作り方を検索致しますか?』
「いい」
頭に埋め込まれた人工知能、通称イズがそう提案してくるが、アイラはそれを一蹴する。
イズは感情解析プログラムを組み込まれた、M125星の最新技術だ。長年人工知能の感情研究を廃止してきたため、人工知能の技術はまだまあ未発展。
「イズ、恋って何?」
『主が求めている回答を私は持ち合わせておりません。ですが、世間一般の回答として……』
「別にいい。お姉ちゃんが言ってたから気になっただけ」
「かしこまりました」
イズはそう言い黙り込む。アイラはまだ体験したことのない感情に興味を持った。アイリスの話を聞いたアイラはとても惹かれていた。
恋の素晴らしさをその身で体感したいと、強い感心を寄せていた。
「恋って何だろうね」
アイラの呟きに、夕日が応えるように地平線の先で煌めいた。
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