幸運について

宮脇シャクガ

祖父の言葉

 私が幸運について考える時、決まって祖父との話を思い出す。

私が四葉のクローバーの探し方を訪ねた時、祖父はこともなげに

こう答えた。

「毎日、クローバーのあるところを歩くんだ。」


この言葉の意味がおぼろげながらわかるようになるまでには長い

時間がかかってしまった。


 最初は麦を収穫するには麦を植えれば良い程度のことと思った。

何もクローバーを見つけるのに海に潜る必要はないだろう。

やみくもに探したが結果は芳しくなかった。

ただ、少年の飽くなき探求心と無限とも思えるほどの行動力がそれ

を可能にしていたのだろう。


次に目や勘が鍛えられていった。


キノコの類に妖精の輪ができるように、一度見つけたところの近く

では見つかる可能性が少なからず高くなる。

一度間違えた組み合わせのソックスを履いたら、そう遠くない未来

に左右逆の間違いソックスを履くようなものだ。


あると信じたところでは周りと違う葉っぱが拡大されて、浮き上が

って見えるようになる。

この感覚を伝えるのはとても難しい。

ちょうど、ジグソーパズルの欲しかった1ピースがこれだと解るよ

うな感覚と思ってもらいたい。


そして、植物や遺伝のことを勉強してみた。


四葉のクローバーは遺伝子的な変異の起こりやすい場所、つまり人

や動物がよく通るところに発生しやすいという説があった。

そして、株分けによって増えるので、同じ場所に固まって生えてい

るということも…。


つまり、私は自分自身のために、そうとは知らずに自分用の幸運を

地面に埋めておいたということになるのだろう。


幸運は家でじっとしていても手に入らないこと、やみくもに行動し

ても成果は少ないこと、好機を逃さない目や勘が必要なこと、そし

て、行動した結果、最後に幸運が手に入るかもしれないこと。


実に示唆に富んだ内容ではないだろうか。


祖父は彼自身のごく短く、しかし、人生に裏打ちされた含蓄のある

言葉が一人の孫の人生を決定づけたことを知っているか知らないか

定かではない。


しかし、私が幸運であることはまず、間違いないだろう。



なぜなら、祖父に言葉の真意を聞きに行くことができるのだから。


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幸運について 宮脇シャクガ @renegate

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