ひとといふもののなれのはて
エゴだな。紫雁が嘆息した。
エゴだね。律果が呟いた。
記念品の紫雁と、不要品の律果。どちらも、母親に勝手に役割を負わされた。
子供というのは、親のエゴの
もう、あの部屋には帰れないだろう。あの母親はいつまでだって待っているに違いない。郵便受けに届くはずの不動産会社からの通知も、あの女の目に触れたらどうなるか。
律果と二人、
何より、仮にどこまで逃げたとしても、紫雁と律果が本当に欲しかったものは手に入らないのだ。
「心中でもしようか」
散歩に行こうか、程度の軽さで律果が言った。心中とは何だっただろうかと、紫雁は疲れ果てて霞んだ頭で考える。
「ほら、言うだろう。男女の双子は心中者の生まれ変わり」
「お前それ、近松の講義やったときに教授が言ってたやつだろ。いつの時代の話してんだ。大体、俺たちは双子じゃないだろ」
「半分血の繋がった男女が同じ日に生まれたんだぞ?」
案外、前世は心中し損なって、どちらかが後から死罪になったんじゃないか。江戸時代、心中未遂は重罪だったと教授は話していた。同時に死ねなかった、だから双子になり損ねたのだ。からりと笑って言うには
馬鹿か、と鼻を鳴らしながら、そうかもしれないな、と紫雁は心の中で呟いた。そうであれば良い。一番欲しかった
律果の提案は魅力的なように思えた。逃げるより死ぬ方が簡単だとも。
心中するか。声にしてみると、一層現実味を帯びた。
律果は嬉しそうに笑って、紫雁の手を握った。
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