放課後の一幕
台所醤油
第1話
ある日、地球上に彗星が落ちた。1つや2つなんて規模ではなく、記録に残っているだけでも60個近くの彗星が地球を穿った。地球上に存在していた文明の殆どを破壊し尽くし、世界人口の70パーセントもの人類を死に追いやった彗星は人類に『異能』呼ばれる力を授けた。
──それから数十年後、かつて日本と呼ばれていた国のとある学院で一組の男子生徒が鎬を削っていた……
☆
「それでは…試合開始っ!」
審判の合図とともに目の前にいた姫さんの周囲に無数の剣が作り出される。
軽く見ただけでも業物とわかる。まともに当たろうものなら即座に切り刻まれるだろう。
己を中心に剣を回転させながら姫さんは俺に嘲りの笑みを浮かべながら提案をする。
「ねぇ、さっさとこの試合諦めたら?」
「はぁ?そりゃまたなんでさ?」
「ふふっ、こんな簡単なこともわからないなんて♪このまま私にボロボロに負けて醜態を晒すくらいならここで降参したほうがあなたのためと思ったのよ。でも試合前にあんな大仰な啖呵を切ったのに逃げる、なぁんてありえないわよねぇ?」
姫さんは何故か俺のことを目の敵にしているようだった。
…はて、俺が何かしただろうか。
ひと月前ほどに入学した俺には少しよくわからない。
思い当たる節がなさ過ぎてとても困っている。
なんて考えながら黙りこくっているのも挑発ととらえられたのか、姫さんは作り出した剣を飛ばしてきた。
「死になさいっ!」
俺を囲むようにして目にも止まらない速さで飛来してきた無数の剣は俺の体を貫く瞬間、俺が作り出した雹入りの竜巻によってすべて砕け散った。…怖すぎかよ。あの一撃は学生のレベルを容易に逸脱してるのがわかる。
「いやー、さすがだねえ。剣姫さん。今のは割かしぎりぎりだったよ。」
「…っつ!ふざけないで。この程度が私の全力だと思ってもらったら大間違いよ。」
今度は火、氷、雷など多種多様な属性が付与された剣が生み出される。
…性格はあれだけど確かにこれだけ実力があれば学院内でのランクも1位だったのには頷ける。
「少しくらい真面目にやりますかね。……『大嵐』」
言葉を紡ぎ異能を発動させると彼女の周囲の空気が渦巻き、先ほどのものとは比べ物にならないレベルの竜巻が吹き荒れる。発動者である俺には何の影響もないが観客席からは悲鳴が上がる。…いかん、いつもの癖で結界を余裕で貫通するレベルのものにしてしまった。少し範囲を収束させっつ!?
「…驚きました。まさかあの技以外にこんな隠し玉があるなんて。」
…おいおい。多少手こずったとはいえあの竜巻を切っただと?
しかもめっちゃいい笑顔でこっち見てるし言葉遣いもものっそい丁寧になってるけど目が全く笑ってないから激おこなのがまるわかりだ。
「いや、まったく隠したことはないんだけど。みんな弱すぎるんだよ。これくらい耐えられないとここから先何もできないぞ?」
「…ええ、私も少々驕っていたのかもしれません。この程度の竜巻を切り刻むのに30秒もかかるなんて。いい加減本気を出しましょう。『聖剣』…これで決着をつけてもう一度学院1位に返り咲いて見せます!」
姫さんの手には神々しいひと振りの剣。これまでのものとは比べ物にならない程のエネルギーが剣を中心に渦巻いている。
…まじでここら一帯が蒸発しかねんぞ?いや、止めてみせるけどさ。
「『天翔星斬』!」
「『絶対零度』!」
星の防衛機構そのものである聖剣から放たれる一撃ははるか上空に存在する雲を叩き切り…すべてのエネルギーが一瞬にして奪われ、俺の眼前で砕け散る。
そしてそのまま俺は彼女との戦いに決着をつけるのだった。
☆
「──『気象要素操作』ってやっぱり頭おかしい性能だわ。流石世界ランク1位。」
観客席にいる彼の視線の先には神羅万象の一端を自在に操る同僚の姿。
同僚の異能である『気象要素操作』は組織の中でも頭一つ抜けて強かった。
──なにせその気になれば彼一人で1週間足らずのうちに世界を滅ぼせるのだから。
本人はゆっくり過ごすのが望みらしいが。
放課後の一幕 台所醤油 @didkrsyuy
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