1章

目覚ましの鳴る5分前に目が覚める。

スマホを手にとってゴロゴロしているうちに目覚ましが鳴り、欠伸をしながらそれを止め制服に着替える。

階段を下り、キッチンからの味噌汁の匂いにそそられるが、一旦そのそばを通りすぎ洗面台で顔を洗う。

リビングに戻ると いつものご飯と味噌汁に今日は好物の卵焼きまでついていて思わずにやけてしまう。

「いただきます」

15分で全てをかきこむと、歯磨きをして軽く寝癖を整えてから家を出る。

全てがいつも通りの朝だった。


「おはよう」

「あぁ、おはよう」

電車を乗り継ぎ 学校の最寄り駅でバスを待つ頃には、同じ制服を着た顔見知りも増え、クラスメイトとは挨拶もかわす。

ただし、僕の場合 名前もクラスもよく知らない人から声をかけられることが、たまにある。といっても同じ制服を着ているので挨拶はもちろん返すが、正直なところ面倒だというのも本当だ。

というのも僕は"イケメン"という部類に属するらしい。もちろん良くあるドラマや映画のような学校中を騒がす"キラキラ男子"と言うわけではなく、"狙えるイケメン" つまり、言っても 自分が上の下あたりだということは自覚している。だから"女子が好きな男子にチョコレートを渡す"なんていう日には毎年1 , 2個の手作りチョコレートをもらっているし、告白も人生で何度かされたことがある。

けれど僕はそれを全て断っている。なんで断る?と周りの友人にはよく言われるが、僕は1度も"恋"というものをした記憶がない。それに僕は、お付き合いをするのは両思いのもの同士だと考える固い頭の持ち主なので、せっかく告白してくれても断るという決断に至るのだ。

「お、道野おはよう。なんかお前 噂になってるぞ?」

「噂?僕が?」

「おう。お前、昨日 美並にコクられたんだろ?」

いつもバス停で同じになるクラスメイトと 、珍しく挨拶以外の言葉を交わす。

美並桜。彼女はいわゆる学校のマドンナだ。

生徒会の副会長をしていて 学校では彼女の名前を知らない人はいないほど有名だ。噂によると複数の芸能事務所からスカウトもされているらしい。そして、僕が彼女に告白されたというのは事実だ。しかし昨日のことが こんなにも早く噂になるなんて思ってもいなかった。彼女の人脈をみくびってしまったようだ。

「あぁ、まあそんな感じだ。」

「じゃあ俺は学校のマドンナの彼氏とクラスメイトか。」

「僕は付き合うつもりはないよ」

あまり話したことはないが、この人はきっと素直な人なのだろう。なにがなんだかわからない という顔で僕を見るのも、まあわからなくはない。

所詮 平凡な一般人の僕が学校のマドンナを振るだなんて確かに前代未聞だ。たまに ちやほやされるからといって調子に乗っていると勘違いされたって無理はない。だけど、僕が彼女の告白を受けたとしてどうなる?"なんであんなやつが"と学校中から目の敵にされるのは わかりきっている。どちらにしろ敵をつくるのなら、申し訳なくても 今までのように振るのが懸命だというのが僕のだした答えだ。

「お前 本気かよ。相手は美並だぞ?」

「本気だよ。僕は嘘はつかない。」

「あんなやつを振る理由がどこにある…」

自分には理解不能だ という風な顔をして、あとでな とだけ言って去っていってしまった。


靴箱でスリッパに履き替えて教室に向かう。がらりと音をたててドアを開けると、鈍感だと有名な僕でも、さすがにいつもより周りの視線を感じてしまう。落ち着かないまま自分の席につき、授業の準備をする。運の悪いことに、まあ これもいつも通りなのだが、僕がいつも一緒にいる友人は まだ学校には来ていないようだった。

あまり注目をされることに慣れていない僕は教室の居心地の悪さに疲れて廊下にでる。

まだ開いていないことはわかっているが、残念ながら他に行く宛もないので4階の図書室へ向かう。

「道野くん!」

幸か不幸か、僕を見つけた彼女に声をかけられる。早く平穏な日々を取り戻したい僕は、今日のうちに決着をつけようと決心をして口を開く。

「美並さん、今日の放課後教室に残っておいてもらえる?」

「…わかった。待ってるね。」

彼女が一人で居たことは不幸中の幸いだった。とにかく早くこの状況を脱出して、今まで通り いつも通りの生活を送ろう。


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