第33話 帰還

「仕方ないですよね。おっぱいは二つあるんですから」


 私は散華ちゃんの方乳を揉みながら言う。


「そうね。仕方ないわね。それにしてもこの大きさ……そして柔らかさ」


 蓮華姉さんがもう片方を揉みながら言った。うっとりしている。


「やめっ…… あっ……」


 散華ちゃんが可愛い悲鳴をあげる。

 が、ガバッと跳ね起きて。


「って姉様! 何でいきなり裏切ってるんですか!?」


 散華ちゃんが抗議の声を上げた。


「仕方ないのです。おっぱいは二つあるのですから。わたくしには可愛い妹の成長を確かめる義務が……」

「ありません! っく……ソニアまたしてもお前か!」


 ええ。私でございます。蓮華姉さんに優しく諭してあげました。散華ちゃんのおっぱいは二つあると!


 そうしていたら私達に声がかかった。


「随分と楽しそうですね? ここに皆がいるのを忘れているのでしょうか?」


 師匠がお怒りでした。

 そうでした。ここは大会の休憩室でした。

 私たちは正座で謝った。下着姿で並んで……


「すまぬ。悪かった」


 そう言いながらも凛として正座する蓮華姉さんは満足気だ。その佇まいは堂に入っていて美しい。

 全く反省した様子ではなかったが……


「申し訳ございませんでした」


 私も同じく謝る。私は素直に反省を示す。師匠の言うことは絶対なのだ!


「どうして私まで……理不尽な……」


 しかし散華ちゃんは大いに不満があるようだ。


「散華さん何か?」

「いえ、申し訳ございませんでした。……ソニア。覚えておけ」


 師匠に睨まれて散華ちゃんも謝る。

 横目で私を睨む散華ちゃんだったが、視線を合わせないでおいた。


 しばらくそうして反省していると女神の娘以外の全員が目覚めたので、私達も許されて用意された服を着る。

 シンプルで可愛げはないが、ごく一般的な服だ。大会は激しい戦いが予想されていたので準備してあった。多少、サイズが合わないのは折り曲げたり、縛ったりで調節する。


 それから私達は夢の話をした。

 クロも他の夢を見た様なので話してもらった。


「まさかあのデュラハンの件と繋がっていたとはな……」


 クロの話に散華ちゃんは目を丸くして驚いていた。

 デュラハンの最後を看取ったのは散華ちゃんだ。何かしら思うところはあるのだろう。


「なるほど。これで大方の事情はわかりました。ですが今後の事も含めて、先に決めた通りこの娘は一度、私が教授の許へ相談に連れて行きましょう」

「すいません。お願いします」


 師匠がそう言ってくれたので、私達はお願いした。

 うむ、師匠は修道女の鑑だ。


 散華ちゃんとツヴェルフさんは大会の後始末の状況を確認に行った。

 今は生徒会こと聖騎士団が対応しているはずだ。暗黒騎士団にも手伝うよう指示してある。

 特に大会に出場した聖騎士団のクリスティと暗黒騎士団のアリスが頑張ってくれている。


 散華ちゃんとツヴェルフさんが戻ってくると、状況を説明してくれた。


「大会の混乱は粗方収まった様だ。皆が手を尽くしてくれた。負傷者は何名もいたが皆の尽力で大事には至っていないそうだ」

「それは良かったですね」

「ああ。被害の規模の割に負傷者が少なくて皆、驚いていたよ」


 散華ちゃんの報告に師匠は感心していた。

 私たちもそれは驚きだった。あの破壊された会場を見れば、誰しもそう思うはずだ。

 そこでツヴェルフさんが説明するように言った。


「これは噂ですが伝説級レジェンド達が動いたと言われています」


 伝説級……冒険者ギルドのランクで言えば八星。

 私の推測では【蒼炎の魔女お婆ちゃん】、【華咲家の爺散華ちゃんのお爺さん】、【教授】、【大佐】辺りだと踏んでいる。直接聞いた事は無いが……


 ツヴェルフさんは続けて。


「他にも冒険者ギルドの皆さん。特に桜花の皆さんやグランさんやアンナさん達が救助活動を手伝ってくれたとの報告がありました」

「今回は本当に皆に助けられた。改めて礼を言う。ありがとう」


 散華ちゃんが私たちにお礼を言った。


「しかし、今回は災難でしたね。責任の大半が勇者にあるとはいえ、何らかの責任追及はあるかもしれません」

「全くだ。それを考えると頭が痛いよ……」


 師匠の言葉に散華ちゃんは項垂れる。

 とはいえ、誰もこんなことになるとは思ってもいなかっただろう。

 むしろ迅速に解決に導いたことを称賛されるべきだと思う。


「散華。申し訳ありませんでした。薄々は感づいていたのですが、証拠はなかったのです」

「いえ、姉様は何も悪くありません」


 蓮華姉さんも悪かったと思っていたようだ。

 勇者とあまり仲が良くないように見えたのは、やはりそうした理由があったのだろう……


「大丈夫ですよ! たとえ何と言われようと聖天使様の牙城は小動こゆるぎもしません。絶対王政ですよ! 私がそうします! 私達がそうさせます!」


 私がそう励ましてあげたのだが……


「それは頼もしいと言っていいのだろうか? それはそれで不安なのだが……」


 散華ちゃんは複雑な心境に陥っている様子だった。



 私達がそんな話をしていると彼女が目を覚ました。

 元女神の少女だ。


「起きましたか? ええと言葉は分かりますか?」


 師匠の言葉に彼女は頷いた。


「良かった。それで身体は大丈夫ですか? 動くことはできますか?」


 彼女は首を振ると。


「身体中が痛い……今は無理」


 そう言った。


「無理もありませんね。あれほどの力を使ったのですから。それで記憶の方はどこまで覚えていますか?」


「?」


 師匠の問いに元女神の少女は微妙な表情をした。


「名前は分かりますか?」


「? わからない……」


「そうですか。わかりました。またお話ししましょう。今は休んでください」


「……わかった」


 彼女はそう言うと、再び目を閉じてしまった。おそらく彼女も混乱しているのだろう……


「もう良いの?」


 アリシア先輩が師匠に尋ねていた。


「今は仕方がありませんね。彼女がある程度回復したら教授に会わせます」

「そう。分かったわ。お願い」


 彼女に対して今できることは何もない。時間が解決してくれるのを待つばかりだ。


「そうだな。では皆ご苦労だった。帰れる者は帰って休んでくれ。勿論ここに残っても構わないが、その時は交代で休んでくれ」

「じゃあ皆またニャ。先に帰らせてもらうニャ。あまり仕事を休むわけにもいかないからニャ。ご主人様もあまり遅くならないようにニャ」


 そう言ってクロが先に帰って行った。


「私も帰るわ。皆お疲れ様」

「ちょっと待ってアリシア。私も泊るわ」

「ええ!? 何でよ?」

「蓮華の家は豪邸だから、気を遣うのよ」

「……仕方ないわね」


 アリシア先輩とエリスがそう話をしていた。どうやら二人は以前からの知り合いのようだ。

 そうしてエルフの二人も帰って行った。


「ではツヴェルフ。私達も帰りましょう」

「はい。アイリーン」


 師匠とツヴェルフさんが帰る。と言っても学園奥の聖堂なのだが……近くていいですね。


 残ったのは私、蓮華姉さん、散華ちゃん。


「ソニア。何か話があるのだろう?」


 散華ちゃんがそう言った。もしかしたら皆も察してくれたのかもしれない。


「はい。とは言ってもただの確認ですが。蓮華姉さんに」

「わたくしにですか。何でしょう?」


 きっと薄々は気づいている。だが、それでも私が正式に言わなくてはならない。


「勇者は死にました。エリュシオンは元々、勇者を支えるためのパーティーだったはずです。勇者がいない今その役割は終わったと私は考えます。ですので青薔薇クールビューティーに入っていただけますよね?」


 通常であれば引き抜きなど好まれない。なので、それを散華ちゃんに言わせるわけにはいかない。

 だが勇者はやらかした。メンバーを裏切った。これは絶好のチャンスなのだ。

 蓮華姉さんはため息を一つついて。


「狡いですね……分かっているのでしょう? 私がもう散華から離れられないことを」

「はい。その上で言っています」

「確約はできません。エリュシオンのリーダーである大佐に一度話を通す必要があります。それにエリスのこともあります。あの子はわたくしが引き留めたのです。ですから前向きに検討しますとだけ言っておきましょう」


 よし! 今はこれで良い。


「ありがとうございます! ああ。それとエリスさんのことは心配いりませんよ。彼女も青薔薇クールビューティーに入ることになるでしょうから」

「そうですか……貴女がそう言うのならそうなるのでしょうね……」


 私はそれで満足した。だが、散華ちゃんが不満げだった。


「ソニア。相談しろと言ったよな?」

「相談したらサプライズにならないじゃない!」

「何故そこでサプライズをする必要があるんだ……」

「私は散華ちゃんを常に驚かせていきたいのです」

「……私は平穏がほしいのだが」


 そこで蓮華姉さんが間に入ってくれた。


「散華、ソニアも尽力してくれたのです。それくらいにしてあげなさい」

「むう。姉様がそう仰るのなら仕方ない……」

「ではソニア。わたくし達は帰ります。貴女も疲れているでしょう。早めに帰るのですよ」


 そう言うと蓮華姉さんは散華ちゃんにピッタリとくっついて腕を取った。


「姉様!?」

「どうしたのです? 行きますよ」

「いや、姉様。……とても近いんですが」

「遠慮することはありません。さあ行きますよ」


 散華ちゃんは恥ずかしそうにしている。そうして歩いて行った。

 私に見せつけるように……


「……」


 ラブラブかっ!


 私は元女神の少女の寝顔を見る。しばらくは起きそうにない。

 身体中が痛いと言っていたので安静が必要だろう。


「帰ろう……」


 後を聖騎士団の女性に任せて一人帰途に就くのだった。

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