第21話 武闘大会 一回戦
第一試合。暗黒騎士団対聖騎士団。
私と散華ちゃんはそれを見守っている。
散華ちゃんにとって片方はファンクラブ、もう一方は直属の部下。とても複雑な気持ちだろう。
私は実質的に暗黒騎士団のリーダーだ。弟子の成長を見守る心境に近いのだろうか。弟子はいないので分からないが。
隣ではツヴェルフさんも見守っている。立場は私に近い。反対の聖騎士団側だが。
開始を今か今かと待ち望んでいると、ツヴェルフさんが私に言った。
「ソニア。負けませんよ」
可愛いな! だがこちらも負けられぬ。
「受けて立とう! ツヴェルフさんっ!」
暗黒騎士団は黒の幹部達で構成されている。パーティーリーダーはアリス。
よく私を補佐してくれている。私が散華ちゃんに捕まった時にも、フォローしてくれた。できる子だ。
彼女がなぜ聖騎士団に入らなかったのか不思議なくらいだ。最近は私の影響か、青の服装が多い。
その上に黒のローブを着ている。やや童顔だが可愛い子だ。
対して聖騎士団は生徒会幹部のチームだ。リーダーはクリスティ。
散華ちゃんに「あ~んして」などとふざけた口をきいた愚か者だ。
とはいえ、それは人から聞いただけで実際に私が見たわけではない。
生徒会幹部なだけはある。その実力は認めよう。
こちらは聖騎士らしく白の鎧姿だ。金髪を七三分けで流している。
美人だろう。だが、男性より女性に人気がありそうな雰囲気だ。
私は試合前、応援に行くとアリスに厳かに告げた。彼女達の前では大司教にならねばならないのだ。
「アリス。やってしまいなさい」
「はっ。大司教様!」
一方、聖騎士陣営ではツヴェルフもクリスティに声をかけていた。
「クリスティ。油断されませんよう」
「はっ。副会長」
そう答えはしたが、内心でクリスティはそれを素直に受け取ることができなかった。
激励にきた散華とツヴェルフが去ると。
「本来ならば前副会長が逃げた今、私が散華様の隣にいたはずだ。それをあの女! 偉そうに!」
そう不満を漏らしてしまっていた……
ただ、目前で反発しなかったのは散華への忠誠のためだ。
第一試合。
開始早々にクリスティは己の過ちをこれでもかというほど味合わされていた。
「馬鹿な!」
クリスティは思わずそう口に出す。
アリスたちは見事なチームプレイで一人づつ聖騎士を倒していった。
上手く五対一に持ち込んでいく。
反対に己の力を過信したのか、個々の実力の高さが仇になって連携が上手く取れない聖騎士達。
五人の黒ローブに囲まれた白鎧たちは成すすべなく倒れるのだった。
そして残ったのはクリスティただ一人。
観客たちからも「聖騎士団弱いな」などという非情な言葉が投げかけられる。
屈辱に歯噛みするクリスティ。
そしてアリスは言った。
「終わりにしましょう。私達が強かったのです」
だがクリスティは窮地に陥った事で、逆に視界が開けていた。
「認めよう。お前たちは強い。私は慢心していたのだろう。いや私達か。……だがこれ以上は無い!」
クリスティが本気になった!
五対一にも拘らずクリスティはその攻撃を捌ききる。
アリスも驚いている。
「やりますね……」
それには「おお! あいつ強いぞ!」と観客達も盛り上がっていた。
だがアリスは冷静だった。
「そろそろ、集中力が切れるでしょう。畳みかけますよ!」
その言葉通り、クリスティの身体に小さな傷が増えていく。
「ぐっ……くうぅ……あぅ……負けぬ。負けられぬ。……うあっ!?」
その姿を見てもアリスは冷静だ。
否、恍惚としている!
「美人が傷つく姿は美しいですね……。もっと虐めてあげましょう!」
「あぁぁっ!」
それを見ていた散華ちゃんは嘆くように……
「惜しい、ソニアの同類か……」
「心外です!! 私ならもっと上手くやります!」
「それを同類と言うのではないでしょうか」
私の抗議をツヴェルフさんに冷静に返されました。
確かに最近。アリスは私の影響を受けてしまっている。
「うむ。長所は伸ばしてあげないといけないな」
「……私のファンクラブを変な道に引き込まないでくれ」
散華は暗黒騎士団をこのままソニアに任せていたら危険だと感じるのだった。
結果。クリスティはボロボロになりながらも頑張った。あの状態から隙を突き、三人も暗黒騎士を倒したのだ。
だがそこまでだった。最後は集中力が切れたところを的確にアリスに気絶させられていた。
会場は大いに盛り上がり「よく頑張った」、「よくやった」などの言葉と共に割れんばかりの拍手が起こった。
私は勝利した暗黒騎士団を称えに行った。
「アリス、そして皆よくやった。だが勝った以上お前たちは更に上を目指さねばならない。心せよ」
「「はっ! 大司教様。ありがとうございます!」」
この初戦は大会にとっても重要な一戦だった。良くやってくれたと思う。
その間、散華とツヴェルフも聖騎士団を労いに行っていた。
そこでいきなりクリスティに謝られる。
「会長! 副会長! 申し訳ございません! この敗北は私の不徳の致すところ……処分は如何様にも!」
その顔には既に、慢心も驕りもない。
「いや、よくやってくれた。あの状況から立ち直ったのは見事だった」
「はい。素晴らしい戦いぶりでした」
散華ちゃんに続きツヴェルフさんが褒める。
「ありがとうございます。ですが悔しいです! 我々、聖騎士団が早々に敗退など……」
「この敗北はお前たちの糧になるだろう。いや、糧とするのだ! 後は我々に任せてゆっくり休め」
「「はい!」」
クリスティは涙した。他の聖騎士も泣いている。
散華とツヴェルフは聖騎士団はこれからもっと強くなると思うのだった。
†
大会の観客席。
「勇者様。『贈り物』は気に入っていただけましたか?」
「ああ。気に入ったよ。俺の欲しいものがよく分かったな?」
「我々は同志じゃないですか。勇者様の欲しいものは私の欲しいものと同じですよ」
「ふん……今回は踊らされてやるよ」
「ありがとうございます」
お礼を言われたものの勇者は不愉快だった。この男の薔薇の匂いは鼻につく。
「ところで……」
「何だ? まだ何かあるのか?」
「いえ。ただの興味本位ですが、今の試合どうでした?」
「つまらん試合だ。所詮は学生のお遊びさ。この分だと華咲の妹も大したことはないだろう」
「そうですね。いや貴方にとってはそうなんでしょうね。六星の勇者様」
「冒険者ギルドのランクになど興味はないよ」
素っ気無いほどに突き放す様子は、普段の勇者とは真逆だ。あるいはそれは信頼の証なのか……
「では、何に興味がおありで?」
「俺の欲しいものが分かるのだろう? 俺はそれを手に入れるだけだ」
「おや、これは一本取られましたね。では勇者様。健闘を祈っておりますよ」
「要らんよ。お前に祈られたら呪われそうだ」
「ハハハ。酷いですね」
男は去った。薔薇の匂いを残して。
「
光の勇者はそう言い残すとその場を後にした。
†
試合は順調に進んでいた。
第二試合。絶対領域対
どちらも女性だけのパーティーだった。
白百合会の独特な雰囲気に絶対領域が侵された。何とも不思議な戦いだった。
いつの間にか白百合会が勝っていたのだ。
第三試合。桜花対黒髑髏。
桜花はどうやら散華ちゃんの流派、華咲の一門らしい。礼儀正しい印象だ。
対する黒髑髏は冒険者らしい荒くれ者達だ。
対照的な戦いになった。初めは黒髑髏の猛攻に怯んだように見えた桜花だったが、堅実な戦い方で巻き返した。そしてそのまま桜花が勝利した。
第四試合。
私達の出番だ。私達にはかなり注目が集まっていた。いや、私達ではなく散華ちゃんか……宣誓の時に既に観客の心を掴んでいたためだろう。
対する天道は何だかよくわからない。
リーダーらしき黒フードの男が何やら小声でブツブツと呟いている。「天の道は貴方達が負けると言っています」とか……
宗教か何かだろうか? きっと見えてはいけないものが見えてしまっているのだろう。
結局、私達はほぼ何もしなかった。散華ちゃん一人で倒してしまったからだ。
彼女の華麗な剣技に観客は大いに驚いていた。
その試合を見ていたエリュシオンの蓮華とエリスは語り合う。
「さすが妹ちゃん。強いわね」
「こんなものでは何も分かりませんよ。まあ妹が強いのは当然ですが」
エリスには蓮華が喜んでいるのはまるわかりだった。
第五試合。王国騎士団対王国魔術師団。
どちらもカリス王国、特に王都を護るエリート中のエリートだ。もっとも、その中のごく一部だが。
この街にも数名が幹部として派遣されて来ている。
互いに因縁があるのか、どちらも気迫が凄まじい。
結果は王国騎士団がかろうじて勝利した。
第六試合。百獣対エリュシオン。
私と散華ちゃんは特に注目している。アリシア先輩と師匠も見に来ていた。
エリュシオンは言わずと知れた光の勇者のチームだ。
百獣は獣人のチームだった。獣人なだけあって身体能力が高い。
そのパワー、スピード共にかなりのものだったが、エリュシオンは強かった。
百獣が弱いわけではない。それ以上に強かったのだ。百獣は果敢に食らいつこうとするものの失敗に終わっていた。
ただ気になったのは勇者のやる気のなさだ。戦いに加わる気が無いらしかった。
私が見ていてもあれでよくパーティーが成り立つなと思った。勇者だからだろうか?
散華ちゃんは「やはり姉様は凄いな!」と感心していた。私も嬉しい。
これで一回戦は全て終わった。
勝利チームは暗黒騎士団、
試合数の関係上、二回戦からは翌日となっている。
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