第20話 選手宣誓、宣戦布告

 生徒会室。

 いつも通りツヴェルフさんが会議を進行している。

 先日は散華ちゃんが途中退室してしまったので、その説明も兼ねて行われていた。


「チーム名が出揃いました。そしてトーナメント方式で争われることが決まりました」


 手元には資料が渡っている。そこにはこう書かれていた。


 先ず主催者側から三チーム。


 青薔薇クールビューティー

 聖騎士団

 暗黒騎士団


 次に学生から三チーム。


 絶対領域

 白百合会ホワイトリリィ

 天道


 街・冒険者ギルドから三チーム。


 百獣

 黒髑髏

 桜花


 王国からの招待で三チーム。


 エリュシオン

 王国魔術師団

 王国騎士団


 「この合計十二チームで争います。これを各チームに知らせます」


 ツヴェルフさんの説明に散華ちゃんが難色を示した。


「……我々のチームにおかしなルビが振ってあるのだが?」

「ソニアのたっての願いだそうです」

「本当は『聖天使の青薔薇』にしたかった。悔しいです!」

「……」


 どうにか散華ちゃんに妥協させている間。

 そんなことはお構いなしに聖騎士達が話し合っている。


「それにしても凄いメンバーですね。まさかエリュシオンまで出てくるなんて。王国は本気過ぎませんか?」

「ああ。光の勇者のパーティーだったな。相当な有名どころだぞ」


 それを聞いて私は散華ちゃんを見る。


「散華ちゃん……」

「ああ。もしかすると当たることもあるかもしれない。気を引き締めていかねばな」


 エリュシオンには散華ちゃんのお姉さんがいる。

 小さい頃から彼女は女神の血が覚醒していた。そのせいか彼女は何でもできた。本当に何でもだった。

 しかしその反動か、体調を崩すことも多かった。

 それでも戦う彼女はきっと私達の憧れだった。


「ククク……ならば歓迎してやらねばなるまい」

「ソニアが悪い顔をしています」

「……ほどほどで頼む」


 散華は「姉はもしかしたらソニアから逃げたくて勇者のパーティーに入ったのでは……」と思わずにはいられないのだった。



 †



「どうして大会に参加することになっているのですか?」

「王の命令です。大会に参加し街の様子も見てくるようにと。その後、ダンジョンの様子も探って来るようにとのことです」

「蓮華。伝令兵君に文句言っても仕方ないでしょ。これも宮仕えの仕事よ。王様だって仕事してるってアピールしたいんでしょう」

「それは分かりますが、貴女のようには割り切れません!」


 伝令兵に噛みつく蓮華をダークエルフの女が諫めていた。


「伝令ご苦労。了解したと伝えてくれ」

「はっ」


 それを見とがめた大佐が割って入り、応じた。


 アストリアへの道中、早馬で伝令兵が命令を伝えに来たのだ。伝令は伝え終えると早々に去って行く。

 その背中は緊張か、興奮かで震えて見えた。

 それを見送りながら二人は話す。


「あなたも震えているわ。そんなに大会に参加するのが嫌? それとも妹さんに会うのが嫌なの?」

「大会はどうでもいいです。妹には会いたいです。ですが妹には小悪魔が取り憑いてしまったのです」


 蓮華とて、あれは子供時代の独特な感性だったのではないかとは思う。

 もしかしたら今ではすっかり印象は変わっているかもしれない。


「へえ。それはとても興味深いわね」


 そう言ったダークエルフの彼女の紫色の瞳が好奇心で光る。

 そこにはやはり反発を覚えてしまう蓮華だった。


「貴女はやはり彼女に似ていますね」

「それは私がその小悪魔さんに似ているってことかしら?」

「ええ。雰囲気みたいなものが……」

「ふふ。それは会ってみるのが楽しみだわ」

「……やめておいた方がいいと思いますが」


 蓮華は「好奇心は猫を殺す」という諺があったなと思うのだった。



 †



 大会当日。

 観客席は溢れんばかりの人でいっぱいになった。

 そして私達は開会式に臨んでいる。


「あれがエリュシオンか!」

「他のパーティーも凄いが、やはり勇者のパーティーには劣るな」


 観客たちの注目はやはり勇者のパーティーだった。あちこちからそうした声が聞こえてくる。

 ギルド選出の選手の一人がそれを聞いてチッと舌打ちをしていた。仕方がないとはいえ、気持ちはわかる。


「でもあの暗黒騎士団か? インパクトは凄いな!」

「確かに凄い恰好ね」

「あれは暗黒騎士団じゃないらしいぞ。暗黒騎士団は黒ローブ達の方だ」

「ええ? じゃああれはどのチーム?」

青薔薇クールビューティーらしい」

「……チーム名のインパクトも凄いわね」


 私達にも注目が集まっていた。私と師匠がペロ鎧を着ていたせいでバランスが取れていなかったのを大会前に気づいた。


 急遽ツヴェルフさんと先輩にも着てもらった。そうすることでまるで散華ちゃんを護る騎士の様なチームになった。

 散華ちゃんは私だけ浮くじゃないかと文句を言っていたので、じゃあ着る? と聞くと「やめておく……」と言っていた。


 女神の血は安定してきたようだったが、まだ私達に剣を向けたトラウマのようなものがあるのだろう。


 始めに散華ちゃんが選手代表として宣誓を行う。彼女は主催者なので忙しい。


「ダンジョンと共にあるこの街で暮らす者は皆戦士だ。中でも今日ここに集った者は名だたる実力者ばかりである。その戦いは必ずや皆の心に刻まれるものと私は信じる。我々は正々堂々と戦う事をここに宣誓する! 選手代表 華咲散華」


 その姿は凛として確かに皆の心を打った。


「「「オオオオオオオオォォォ!!」」」

「あれが華咲の……」

「散華様。素敵すぎる……」


 さすが散華ちゃん、地鳴りのような凄い拍手と喝采だ。格好良かった。

 エリュシオンの蓮華姉さんも頷いている。彼女も変わらず綺麗だ。


 美人姉妹。なんと素晴らしい響きなのか!


 私はこのペロ鎧のせいで彼女に気づかれていない様子だ。

 あとで挨拶にいかねばな。ククク……


 そうして開会式が終わると私達は控室に向った。

 私はその途中で蓮華姉さんに挨拶に行く。蓮華姉さんはダークエルフの女と一緒だった。


 突然、黒鎧の女に邪魔された彼女は怒っていた。

 やはり私だと気づいていない。


 まさか……忘れられていないだろうか?

 それは、普通にショックだ……


「何のつもりかしら? わたくしそれほど気が長い方では無いのですけれど?」

「気づいて貰えませんか? あれほど愛し合った仲だと言うのに……」

「変な事を言わないでください! その言いよう、まるで彼女の……まさか!」

「気づいて貰えたようですね。逢いたかったですよ」


 蓮華姉さんは逃げ腰になった。

 逃がしませんよ、と思う私は彼女に抱き着く。

 そして徐に両手でお尻を掴む。ガシッと。

 ちょっとした悪戯心だ。気づいてもらえなくて不安だったのだ。


「ひぅ!」

「やはり姉妹。反応が似ている。お変わりないようで安心しましたよ」


 彼女は私を押して離れると。


「ソニア。貴方も変わらないようですね。わたくしは失望しましたが……」


 彼女は恥ずかしそうに目を逸らしながら応える。

 感動の再会だというのに、このツンデレさんめ!


「おや? 嫌でしたか。昔は喜んでくれたと思ってましたが……」

「喜んでなどいません! 貴女は昔からそうやって……」


 すると今まで黙って成り行きを見守っていたダークエルフの女が話しかけてきた。


「なるほど。確かに面白い子ね。蓮華のそんな姿、初めて見たわ。私はエリス。エリス・ルクスよ。よろしくね」


 妖艶な女だった。褐色の肌が艶めかしい。髪は私と同じ銀髪だ。瞳は紫。

 ダークエルフ良いよね! とは思ったが、私は初対面の相手には慎重派だ。

 無難に挨拶を返す。


「よろしくお願いしますエリスさん。ソニアです。ソニア・ロンド。貴女があの【不和】ですか……」


 彼女達ほどの有名パーティーは調べずとも、情報が出回ってしまう。

 もちろんそうした通り名も。

 

「私はその通り名、嫌いなの。やめてくれるかしら?」

「分かりました」


 重ねて言うが、私は初対面では慎重なのだ!


「ふうん。素直ね。蓮華の言ってた様子とは随分と違うようだけど?」

「どういわれていたのかは知りませんが、蓮華姉さんはツンデレさんなので好きな事を嫌いと言ってしまうのです」

「あ、それ分かるわ。あれ? でも、だったら勇者のことが好きなのかしら?」


 私の説明を不満に思った蓮華姉さんは割って入る。


「勇者は本当に心底嫌いです。あとツンデレではありません」

「これは本当に嫌いのようですね。まあ例外はありますよ。姉さんは散華ちゃんが大好きですし」

「宣誓を行ってた妹さんね。凄かったわね。私も感動したわ」

「妹なら当然です!」


 蓮華姉さんは嬉しそうに胸を張る。それはもう誇らしげだ。


 そう噂をすれば。


「ソニア。ここにいたか。姉様、ご無沙汰しております。お変わりないようで安心しました」

「ええ。散華、貴女も。皆で先ほどの宣誓が素晴らしかったと褒めていたところよ」


 蓮華姉さんに褒められて散華ちゃんも嬉しそうに照れていた。


「本当に素晴らしかったわ。私はエリス。よろしくね。お姉さんから聞いてるかしら?」

「お褒めいただきありがとうございます。エリスさんの事はもちろん聞いています。よろしくお願いします。散華です」


 散華ちゃんも同様に挨拶を交わしている。何を聞いていたのかは非常に気になるところだ。


「それで散華。ソニアを探していたの?」

「はい姉様。そろそろ第一試合の暗黒騎士団対聖騎士団がはじまるので。我々は関係者なので応援に行かなくてはならないのです。姉様達はどうされますか?」

「そう。私達は少し休んでいくわ」


 まだ旅の疲れが残っているのかもしれない。有名パーティーってのも大変だなと思う。


「分かりました。ではソニア行くぞ」


 名残惜しいが、そうして私達は別れた。


 と、その別れ際。私は宣言する。


「蓮華姉さん。私、諦めてませんから。必ず貴女を仕留めます」


 私も散華ちゃんの宣誓にあてられていたのかもしれない。



 †



 そうしてソニアが去った後、隣のダークエルフは不審げに尋ねた。


「何、今の?……何というか驚いたわね。いきなり雰囲気が変わったように見えたわ」

 

 それはしっかりと伝わっていた。


「宣戦布告かしらね……」


 蓮華とて戦士である。

 胸の高鳴りを感じずにはいられないのだった。

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