第19話 青薔薇

 私は家へ帰ると椅子に座って考えていた。


 その場の流れで師匠に嘆きの鎧のペンダントを渡した。

 そこで私が持っていても仕方がないと気づいた。渡せる人には渡そうと思う。


 散華ちゃんは無理だ。女神の血が安定していない今、渡してしまうと更に危険な状態に陥ってしまう事が容易に予想できる。


 先輩は微妙だ。エルフは妖精や精霊に近いと言われる。危険度で言えば師匠と同じくらいだと思う。

 

 ツヴェルフさんは分からない。それほど影響がない気がする。

 

 クロは完全に大丈夫だと思う。魔族だから。

 そう予測をつけて先ずはクロに渡すことにした。


 私の部屋へ呼んで、クロと話す。


「さあクロ、これを舐めるんだ」

「ご主人様、ついに頭がおかしくなってしまったのニャ?」


 む、失礼だな。


「舐めれば分かる」

「本当かニャ? まあいいニャ。舐めてやるニャ」


 ぺろぺろ。

 おお! 本物の猫の様だ。可愛い。これはずっと見ていられる。

 猫がミルクを舐めるようにペロペロしている。


 すると。


「! 何ニャ?」


 闇の影が彼女を包む。

 クロは黒地に金の装飾の鎧を纏っていた。


「ずいぶんと露出が高い鎧だニャ。それに何か言ってる。女神を堕とせ? うるさいニャ。」


 そう言って、バシバシ兜を叩いた。


「あ。おさまったニャ」


 おお、さすが魔族。鎧の声まで聞こえたようだ。

 私もなにか言っている様な気はしたが気にしなかった。


「でどうするニャ?」

「戻れって命令して」

「戻るニャ!」


 クロが下着姿になった。


「……服が戻ってないのニャ」

「うん。それが欠点」


 クロは一度部屋から出て服を着て戻って来た。


「それでこのペンダントは?」

「クロへのプレゼントだよ。お守りにして?」

「分かったニャ。ありがとうニャ」


 やはりクロとは親和性が高かったようだ。



 翌日。魔導書店『知恵の泉』


 私達は一度話し合うため私の家に集まった。校舎内は師匠が嫌がるからだ。

 生徒会の時のように散華ちゃんが指揮をとる。


「ツヴェルフ。頼む」

「はい。議題は我々のパーティー名をどうするかです。案の有る方は挙手の後、発表してください」


 皆が考え込んでいる。

 ふっ。先手必勝。強引に押し切るのだ!

 わたしは手を挙げて発表した。


「はい。『聖天使の花園』」

「却下」


 ぐっ。まだだ。


「はい。『聖天使の百合園』」

「却下」

「はい『聖天使と愛の奴隷達』」

「聖天使は全て却下だ」

「ええ!? じゃあ全部だめじゃない!」

「お前は……聖天使は禁止だと言ったはずだが」


 散華ちゃんに睨まれながら私が撃沈していると、アリシア先輩が言った。


「でも、何かこれが私達ってものが欲しいわよね」

「確かにそうですね。その点ではソニアの案も方向性としては間違っていないかも知れませんね。名前は酷いですけど」


 師匠にもサラッと否定された。ぐぬぬ。


「では、他にありますか?」


 ツヴェルフさんは進行役に徹するようだ。


「皆を表現するものか。難しいな。やはり花か? あまりマニアックなものでは引かれてしまうだろう。有名どころでは百合。薔薇。桜。向日葵……」

「やはり薔薇が無難ですかね。色は……」


 散華ちゃんに師匠が応える。

 散華ちゃん達が私を見ながら。


「青だな」

「青ですね」

「青薔薇ね。悪くないわ」


 私も青薔薇は好きだ。「奇跡」という意味もあるらしい。


「素晴らしい! 青薔薇クールビューティーだな。私達にぴったりだ!」

「いや、待てソニア。お前の言い回しおかしくないか?」

「では。青薔薇で登録します」

「う、うむ。そうしてくれ」


 そう言いつつも散華ちゃんは一抹の不安を隠せない様子だった。



 一区切りついたようなので、私の要件を話そうとした。

 「嘆きの鎧」こと「ペロ鎧」の事だ。皆が集まっているなら丁度いいとおもったのである。説明をして着替えを持って来てもらおうとした。


 だが思わぬ反発にあう。


「ずるい! 私も個人指導してほしい!」

「私も皆に見られるのは恥ずかしいです。」


 アリシア先輩とツヴェルフさんだ。それぞれ意味合いは全く違うが、やることは一緒だ。


「私に渡せないのは了解した」


 散華ちゃんは頬を赤らめてホッとした様子だった。

 この間倒れたばかりだ。残念だが、今は渡せない。


 解散後に二人には着替えを持って来てもらった。

 アリシア先輩から始める。その間ツヴェルフさんには待ってもらった。


 彼女を私の部屋へ呼ぶ。

 ペンダントを渡して舐めてもらう。それだけだ。

 私は椅子に座って見ている。


「さあ。どうぞ」

「違う。何か違う。盛り上がらないの!」


 私の素っ気ない態度にアリシア先輩が反発していた。


「やれやれ。仕方のない先輩ですね」


 私はそう言って立ち上がり彼女に近づいて彼女の手からペンダントを受け取る。

 そして彼女を抱き寄せて。

 彼女の長い耳に囁くのだ。


「こうして欲しかったのだろう?」

「ひぁ……はい」


 彼女は頬を赤くして頷いた。

 彼女が近い。近すぎる。とてもいい匂いがする。だがここで折れてはだめだ。私は鉄の意思で自制する。

 私はペンダントを彼女の顔の上へ持って来る。

 丁度舌が届く位置だろう。


「さあ。舐めてごらん」

「んん……はい」


 美少女エルフがおずおずと舌を伸ばす。

 ぺろ。

 私は彼女を抱きしめながら耳元へ優しく囁く。


「いいよ。そのまま。もっとだ」

「ひぅ……はひ」


 ぺろぺろぺろ。

 私の心臓と彼女の心臓が近い。激しく鳴りすぎてヤバい。


「さあ……激しくしようか」

「はぅ……はひ」


 レロレロ。


「もっとだ。まだやれるだろう?」

「あぅ……」


 ぺろぺろぺろ。

 レロレロ。

 彼女は懸命に頑張る。その姿は美しい。


 そして。

 闇が濃くなる。私は離れた。離れる前に「大丈夫だよ」と言ってあげる。


「! 何? ああああ!!」


 そして闇が彼女を締め付ける。

 やはり彼女も苦し気だ。

 でも彼女は気丈に「大丈夫だから」と言っている。

 自分に言い聞かせているのかもしれない。

 そして現れたのは黒地に緑の装飾の鎧を纏った美しい闇の戦乙女。

 だが彼女も膝をついて身体を抱きしめている。


「大丈夫。大丈夫なんだからっ!」


 懸命に自信を鼓舞している。

 私は彼女に近づいて。


「今日はここまででいい。戻れと命令して」


 彼女は安心したように。


「はい。戻れ!」


 鎧はペンダントに戻った。


 私は彼女を抱き寄せて耳元へ囁いた。


「よく頑張ったね」


 そして彼女の長い耳を舐めてあげた。

 ぺろっ。


「ひぃ……」


 バタッ。


 アリシア先輩は興奮しすぎて失神してしまった。

 私は下着姿の彼女をベッドで休ませてあげる。

 うわ言で「凄い……凄いの……」と言っている。……ちょっと心配だ。



 †



 私の部屋は先輩が寝ているのでツヴェルフさんはクロの部屋に来てもらった。

 その時ツヴェルフさんは言った。


「ずいぶん激しかったようです。心音の乱れがあります」

「あはは……」


 私は苦笑するしかなかった。やり過ぎたとは思っている。


 ツヴェルフさんにペンダントを渡すと素直に舐めてくれた。


 ペロペロ。

 ペロペロ。


 あれぇ? 変化がない。


「ソニア。変わらないです」


 ちょっと泣きそうになってる。可愛い!

 私は励ましてあげる。


「頑張るんだ! もっとだ!」

「はい。わかりました」


 彼女が本気になった!

 レロレロ。ペロペロ……!


「うお! そんな! 激しくっ! そんなにっ! いいのかっ!」


 ペロペロ。レロレロ……!


「まだなのか! まだ上があると言うのか!」


 レロレロ。ペロペロ。レロレロ……


「凄い! うおおおおお! 激しいっ!」


 ツヴェルフさんは一度口を離した。

 彼女の唾液が銀の尾を引く。

 彼女は頬を赤くして。


「ソニア。うるさいです」


 怒られました。


「ごめんなさい……」


 ペロペロ。レロレロ……


 落ち着いて再度、挑戦するツヴェルフさん。

 私が邪魔しただけだったのかもしれない。


 そして。

 闇が濃くなる。

 影が纏わりついて彼女を締め上げる。


「くううぅぅうっ」


 そして鎧姿の彼女が現れた。黒地に黄色の装飾の鎧。


「大丈夫?」

「大丈夫です。少し重い気がしますが」


 大丈夫そうなので良かった。


「じゃあ命令して戻してみて」

「戻るのです!」


 巻き戻しの様に鎧が影となりペンダントに収縮される。

 下着姿のツヴェルフさんはすぐに服を取り出す。

 私は着替える彼女の後ろ姿をじっと見てしまう。


「恥ずかしいです」

「綺麗だよ」


 先ほどの興奮がまだ冷めていなかったらしい。ついそう言ってしまった。

 彼女は頬を赤くして。


「ソニアはたらしですね」


 そんなことを言われた。


 アリシア先輩は起きたものの「凄かった……凄かったの……」と言ってふらふらしている。


 本当に大丈夫だろうか……


 心配だったので「泊っていきますか?」と聞いたのだが、上の空の様子で「うん。帰る……」と言って玄関から出て行ってしまった。


 聞いていたのだろうか?


 ツヴェルフさんにお願いして、途中までで良いのでついて行ってもらった。

 私が行くと余計にこじらせそうだったからだ……

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