第17話 大会準備
生徒会室。
「何故だ? 何故私がまたここにいるのだ?」
私は何故かまた呼び出された。この前は立っていただけなので私は手伝っていない。むしろ邪魔した方だ。
それに散華ちゃんは答えた。
「ソニア。お前は私の監視対象に入ったのだ。しばらくは行動を監視させてもらう」
なるほど。そういうことか。
「ふっ。私と一緒に居たいと素直に言えばいいのに。このツンデレさんめ!」
「邪魔をするなら口を塞ぐぞ」
「猿轡か! それはそれで……いや、まさか唇の方か!! わ、私にも心の準備というものが……」
「な、何を言っているんだ!?」
「ソニア。めっ! です」
想像したらしい散華ちゃんが頬を赤らめて、動揺していた。
そして私はツヴェルフさんに怒られた。
二人とも可愛すぎるだろ!
「ありがとう副会長。こほん。では議題に入る。副会長頼む」
「了解です。今年は既に学生の死亡者が三名出ています。正確には死亡二名、行方不明が一名ですが。既に時間も経過しており、冒険者ギルドでも死亡扱いとされました」
私が関与した件なのは明白だった。これを聞かせるためでもあったのかも知れない。
辛い記憶ではあったが皆のおかげで乗り越えるとまではいかないまでも、動じない程度には落ち着いている。
「これには学生の質が低下してきているのではないか? との懸念の声も上がっています」
こう言っては故人に失礼かもしれないが、彼女達はダンジョンをなめきっていた。
だが、あれが一般学生の認識なのだろう。若さゆえなのか、高い自尊心の表れか……
どちらにせよ、そう思われてしまうのは当然だったかもしれない。
「そこで……会長お願いします」
ツヴェルフさんは散華ちゃんに交代した。
「うむ。そこで我々は今回の件を踏まえて学園において『武闘大会』を開催する!」
生徒会メンバーの皆が一様に「「おお!」」と驚く。
「これは学生達の奮起と力の底上げを図ると共に、先の懸念の声も払拭することを目指すものである」
武闘大会は毎年は開催されない。というよりできない。根回しから警備など色々と大変だからだ。
規模が大きくなりすぎて会長が辞した時もあったという噂だ。つまりは諸刃の剣。
成功すれば良いが失敗すれば生徒会は解散となるかもしれない。
それは別に構わないが、散華ちゃんに傷がついてしまうのはだめだ。
私は散華ちゃんの意図を理解した。
「なるほどつまり聖天使様は我等、闇の眷属の力を当てにしているとみえる」
「その言い方は禁止したはずだが……まあいい。ソニア頼めるか?」
「良いだろう。聖騎士共に我等、暗黒騎士の力を見せつけてくれるわ!」
私は宣戦布告のようにそう宣言した。
無論、聖騎士共の居城においては大ブーイングであったことは言うまでも無い。
私は逃げるようにコソコソと生徒会室をあとにした。
生徒会室では散華ちゃんとツヴェルフさんがなだめるのを苦労している様子だった……
†
学園地下。闇の集会。
集まっているのは幹部達だ。今回はちゃんと散華ちゃんに許可を取ったので大丈夫だ。
私は大会の件を伝えた。
だが、いきなり異論が出ていた。
「大司教様! 何故我らが聖騎士共の手伝いをしなくてはならないのですか!」
「そうです! それに手伝わなければ勝手に聖騎士共は瓦解するはずです。そのあと我々暗黒騎士が聖天使様をお守りすれば良いのではないのですか? 納得のいく説明をおねがいします!」
ふっ。さすが我が闇の眷属達。良い反骨精神だ。ならば答えよう。
私は問う。
「貴様らは誰の剣だ?」
「聖天使様です!」
「ならば聖天使様に傷がつくかもしれない事態に陥ったとき黙って見過ごせるのか?」
「むっ……それは無理です」
「そうであろう。それに聖天使様は約束してくださった。今回の働き如何によっては褒美があると。場合によっては我等暗黒騎士が聖騎士共に並び立つ事になるやもしれんな」
この言葉には大いに反響があった。
「「ぬおおおおおおお!!!」」と皆が一様に驚いている。
フフフ。大司教様はやるときはやる女なのです!
ちゃんと「成功したらご褒美ちょうだいね」って言っておきましたよ。
「さすが大司教様!」
「分かりました。協力します!」
暗黒騎士の皆は俄然やる気になったのだった。
†
生徒会室。
「ソニア。首尾は?」
「聖天使様。闇の眷属達の協力は得られました。成功の暁には何卒、聖天使様からの褒美をお願いいたします」
「そうか。わかった」
散華ちゃんはそこで一息ついて。
「では今回の武闘大会のルールだがどこまで決まっている?」
それにはツヴェルフさんが答える。
「はい。試合は審判による判定制で行われます。審判は聖騎士、もとい生徒会が行います。
具体的には気絶や敗北の宣言などで戦闘不能と判断された方が負けです。勝負がつかない場合は優勢だった方を勝ちとします。
万一に備え医療班を待機させます。闘技場には結界班が結界を張ります。これは観戦者に怪我をさせないための措置です。
また学外からも来賓、観戦者、参加者が来る予定です。
会場は学内闘技場。暗黒騎士の皆様には会場の警備を担当してもらいます。これには生徒会風紀部も協力します」
聞くだけで大変そうである。ちょっと逃げたくなってきた……
「ふむ。大方決まっているな。では決まっていないのは?」
「対戦方式と参加者です。つまり集団戦になるか個人戦になるか。参加者は後で生徒会が募集します」
「なるほど。ありがとう。では皆、集団戦か個人戦のどちらが良いだろうか?」
皆が意見を出すが、なかなか決まらない。どちらも一長一短だからだ。
聖騎士共は「集団戦なら散華様のチームが圧勝してしまう。かと言って個人戦では散華様の圧勝だ。困った」などと言っている。
決まらないなと思うと散華ちゃんが。
「決まらないようだな。では私が決める。集団戦。五対五のパーティー戦でどうだ?」
「了解です。そのように参加者を募集します」
「それと私も当然出る。私のパーティーメンバーでだ。これは学生たちの奮起を促すためだ」
んん? 私のパーティーメンバー?
「ちょっと待って散華ちゃん!」
「どうした。ソニア」
「私も出るように聞こえたのだけど?」
「当然だろう? 私のパーティーメンバーなのだから。勿論、ツヴェルフもだ」
聞いてないよ!?
「なん・だ・と!? 私は暗黒騎士。闇の世界でしか生きられないというのに。まさかそんな晴れ舞台に出ろというのか……」
「了解です」
私は驚愕していたのだが、ツヴェルフさんはあっさりと了承していた。
ぐぬぬ……
「それからソニア。その暗黒騎士達からも一チーム出してくれ。こちらも聖騎士達から一チーム出す」
とても言いづらそうに散華ちゃんは言った。
「おお! 聖天使様が我等を認めるとは……分かりました。必ず!」
こうして舞台は整いつつあった。
†
闇の会合。
私は決定事項を伝えた。
「おお! まさか聖騎士達との直接対決の機会が巡ってくるとは! さすが聖天使様! 我らの意を汲んでくださったのか」
「必ずや増長している聖騎士共をコテンパンにしてやりましょう!」
暗黒騎士たちの士気はいやが上にも高まっていた。
†
一方、光の会合。
「我らの敗北は即ち聖天使様の敗北。聖騎士達よ奮起せよ! 我等は聖天使様をお守りする盾なのだ!」
「「おおおおお!!!」」
ツヴェルフが聖騎士達を扇動していた。
それを見ていた散華は顔を引きつらせて。
「ここにも恐ろしい女がいた……」
散華はこのまま聖天使が定着したら嫌だなと思うのだった。
†
その噂は王都まで伝わっていた。
カリス王国。王都カリス。
軽薄そうな男が仲間に話しかけている。
「へえ。武闘大会だって。面白そうだね。アストリアか……ダンジョンのある街だそうだね。たしか君の故郷だったよね。雪月花?」
「そうですが、話しかけないでください。わたくしは貴方が嫌いです。光の勇者」
雪月花は通り名だ。名は華咲
白の和装を身に纏う妹に劣らぬ美女だ。ただ雪月花にふさわしいのか、そこには凍えるような冷たい印象も含まれていた。
「あら。今日も潔く嫌われてるわね。でも丁度いいじゃない、私も見に行きたいわ。王様からダンジョンを調査に行くよう言われてるんでしょう? ふふ。蓮華も妹が心配よね?」
そういったのは妖艶なダークエルフの美女だ。褐色の肌が艶めかしい。その銀髪は誰かを思い出させる。
ただ蓮華には肌の露出が多いのが気に入らない。
「そんなことはありません。妹は優秀ですから」
「へえ。それは会ってみたいな」
「貴方のそういうところが本当に気持ち悪いです。早く死んでください」
蓮華は勇者には手厳しい。
それをリーダーの老齢に達するかというぐらいの男がまとめる。こちらは歴戦の猛者の貫禄だ。
「まあ。それくらいにしておけ。だがアストリアへは行かねばならない。準備が整い次第出発するぞ」
「わかったよ。
「また買い食いでもしてるのね。すぐに来るでしょ」
決して仲が良いとは言えないものの、着実に実績を残しているのは個々が非常に優秀だからである。
それは今代の光の勇者のパーティーだった。
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