第13話 闇の戦乙女
私達は散華ちゃんを探してダンジョンを進んでいる。
私は物凄く嫌な予感がしていた。目的の方向で強烈な闇の波動を感じたからだ。
皆もそれを感じていたので、頷き合うと駆け足で進んだ。
そこは拓けた場所だった。
その中心に漆黒の鎧姿の女が立っている。
遠目から見ても分かるほどに美しく妖艶。
それは闇の
闇の波動を纏って佇んでいた。
私は分かってしまう。
どうしようもなく分かる。
例え兜で顔を隠していようと、体形で、声で、何気ない仕種で分かってしまう。
私が見間違えようはずもなく。
「散華ちゃん!!」
「ええ!?」
「そう言われれば確かに」
「その様です」
私の言葉にアリシア先輩は驚き、師匠とツヴェルフさんは納得していた。
その散華ちゃんは何か呟いている。
「……壊す……全てを壊す…………」
師匠はそれを聞きとがめる。
「困りましたね。洗脳でしょうか? 私達が分からない様子です。見たところあの鎧が怪しいですが……呪いのような嫌な感じがします」
そう師匠が言ったように、散華ちゃんはあんなものさっきまでは身に着けていなかった。
私達が状況確認に努めていると、散華ちゃんはこちらを見た。
視線が合うのが分かる。
だが私達を認識した様子はない。それが無性に悲しかった。
「ウオオオオオォォォ!!」
突然、散華ちゃんが吼えた。
そしてすぐさま私たちに向かって突っ込んでくる。
手には漆黒の槍。それは禍々しい
そのまま流麗な動作で繰り出した!
高速の突きだ!
対して師匠が牽制で光魔法を放った。無詠唱だ。
「『
師匠の前面に幾つもの光の弾が並ぶように現れる。
そしてそれは高速ではじき出された。
いくつもの光の弾が散華ちゃんを襲う!
だが身に纏った闇の波動が揺らめくとそれらを打ち消していた。
「!? 効かない?」
私達が驚く間も散華ちゃんは迫る。
かばうように、散華ちゃんの突きをツヴェルフさんが長剣で受け止めていた。
だが、ツヴェルフさんは押し負けて転がるように回避する。
「ツヴェルフさんが押し負けた!?」
私達は再度驚く、ツヴェルフさんはパワーファイターだ。それは先のデュラハン戦で分かった。
逆に散華ちゃんはスピードや技のキレで戦う。
そのはずだ。少なくとも私が知っている散華ちゃんはそうだ。
「厄介ですね。あの鎧が力を与えている様です」
師匠の考察通り、魔素の流れで私の目にもそれがわかる。
状況は四対一。
だが散華ちゃんを傷つけるわけにはいかない。
隙をついて眠らせる?
無理だ。あの闇の
大魔法では殺してしまうかもしれない。だから使えない。
決して有利な状況とは言えなかった。
考える間も与えてはくれず、さらに散華ちゃんが攻めてくる。
私と師匠は両手に
アリシア先輩は
横薙ぎの一閃がツヴェルフさんを襲う。
ツヴェルフさんはそれを受け止め流そうとした。
だが読まれていた。
そのまま長剣を巻き上げられ、できた隙に槍の石突きで突き飛ばされた。
「ぐうっ……!」
「!! ツヴェルフっ!」
散華ちゃんはさらに追撃をしようとツヴェルフさんに迫った。
私と師匠は牽制をしようと駆け寄る。
間に合わない。そう思った時。
「風よ。彼の者を護れ。『
アリシア先輩の防御魔法がツヴェルフさんを護っていた!
だがそれは長くは続かない。散華ちゃんの猛攻によって、それは今にも壊れそうだ。
まだツヴェルフさんはふらついている。
私と師匠はどうにかそこへ滑り込んでいた。
師匠が華麗な剣技で翻弄する。私は隙をついて背後を狙う。
短剣と槍が打ち合い、甲高い金属音が鳴り響く……
剣技においてはさすがは散華ちゃん、二対一にも
いや、この場合は師匠の剣技を褒めるべきかもしれない。あのツヴェルフさんの剛剣を弾き返した剛槍を見事に短剣で翻弄している。
だが、師匠とてあまり余裕はなさそうだった。珍しく、息が上がって来ている……
それでも苛立ったのか、散華ちゃんは何かをぶつぶつ呟き始めた。
「闇よ 大いなる闇よ 光を喰らえ 全てを喰らえ 嘆き悲しみは我らの
詠唱だ! しかも長文詠唱による大魔法!!
散華ちゃんはこちらを見ていない。認識していない。ただの邪魔者だ。だから大魔法も当然使ってくる。それはとても悲しいことだった。
私達は目配せをして、ツヴェルフさんの元へ戻る。
これはもう受けて立つしかない!
散華ちゃんは闇魔法を唱えている。
私達は師匠の光魔法に合わせる。
ツヴェルフさんは守りを固める。
「風よ……」
「清流よ……」
「それは光の盾 女神よ我らに大いなる守護を 邪悪を祓い 災厄を避けよ その名は 『
同時に散華ちゃんが大魔法を放った。
「『
闇の球体が地面を破壊し、塵と土煙を巻き上げながら迫る!
そうして光の盾にぶつかった!
「ぐうぅっ……」
「うあっ……」
魔力を維持して皆が懸命に耐える。
暫くして収まると皆、汗をかき呼吸を荒くしていた。師匠でさえも。
「なんて威力だ……」
「でも……乗り切って……え?」
!?
散華ちゃんが詠唱を始めている! 同じ呪文だ! まずい……!
「闇よ 大いなる闇よ 光を喰らえ 全てを喰らえ 嘆き悲しみは我らの
まさかの大魔法の連続魔法。
皆が絶望する中、私はそれを見た。
「闇の
青の双眼は狙った獲物を逃がさない。
「師匠、先輩、ツヴェルフさん。次の一撃耐えられますか? いや、耐えてください!」
「勝算があるのですね。分かりました」
「分かったわ」
「分かりました」
私達は先と同様に防御を固めた。
「風よ……」
「清流よ……」
「それは光の盾 女神よ我らに大いなる守護を 邪悪を祓い 災厄を避けよ その名は 『
光の盾が私達を護る。
散華ちゃんが大魔法を放った。
「『
それは先程と同じく、闇の球体が地面を破壊しながら光の盾にぶつかった!
「ぐうぅっ……」
「うあっ……」
「くっ……耐えろおおおおおおおおお!!!!」
そう言いつつも私は散華ちゃんから目を離さない。
やはり防御のオーラが消えている!
慣れない大魔法の連発は無理があったのだ!
散華ちゃんの闇の大魔法が光の盾にぶつかって消える。
師匠たちは膝をついた。限界だった……
ここだ!!
魔素を帯びて青の双眼が輝く。
私は散華ちゃんに向かって魔法を放った。
「『
無詠唱。速攻。威力は低い。
雷光がカッと光る!
それは針穴に糸を通すが如き一撃。
闇のオーラが消え、なおかつ魔法の干渉が消えた瞬間を狙ったのだ。
それは散華ちゃんに見事に直撃した。
そのときには私は既に走り出している。
散華ちゃんは痺れたのだろうか、動かない。
それでも私が近づくと漆黒の槍で突きを放ってきた。だが先ほどまでの様な威力は無い。
私は右手の短剣で受け流すと身体を半回転させた。
ガンッ!!
左手の短剣が側頭部を打ち上げ、兜を弾き飛ばしていた。
同時に短剣を投げ捨てると散華ちゃんの顎を掴む。
顎クイだ!
青の視線と赤の視線がぶつかる。
だが散華ちゃんは私を見ていない。
それが分かった。
それが分かったから。
「散華ッ! 私の目を見ろおおおおおおお!!」
私はあらん限りの声で叫ぶのだった。
†
暗い暗い闇の中。
寒い。
ここはとても寒い。
私が消えていく。
私が闇に同化する。
でも……
何だろう。
光が見える。
それは青い炎だ。
その青い炎が私を呼んでいる。
私を見つめている。
何故だかそれで暖かくなった。
青い炎が私を抱きしめる。
消えていく私を外側から形作る。
青い炎が言った。
「私が散華ちゃんを見失うはずないだろう!」
闇は恐れるように去って行く。
そして私が残った……
†
私が抱きしめる散華ちゃんから闇の鎧が剝がれていく。
残ったのは全裸の散華ちゃんだ。
うへへ。
柔らかいです! 暖かいです! 嬉しいです!
ちょっと泣きそうになった。
カランと漆黒の鎧だったものが落ちた。
それは赤黒い結晶になっている。
私はそれを拾う。
師匠がそれを見咎める。
「ソニア。それをどうする気ですか? 危険な物の様に感じますが……すぐに破壊するべきです」
まったく、何を言っているのだろう? そんなことは決まっている。
「ペロペロします」
「は?」
「散華ちゃんをペロペロした物です。私がペロペロしなくてどうするんですか!」
「本気ですか? お腹壊しても知りませんよ?」
「それが一番の問題点。洗ったら散華ちゃん臭が消えてしまう……」
「……」
私は悩むのだった。
師匠は呆れたのか、私を信頼したのか……それ以上何も言わずに引き下がった。
できれば後者であると思いたい。
「う…ん……」
散華ちゃんが起きた。
そして全裸であることに気づく。
「きゃああ!!」
そう言って手で体を隠す。うむエロい。見ていたいが半泣きなのでやめてあげる。
アリシア先輩が
私はさりげなくあれを差し出す。
ちゃんと持って来てあげましたよ。
エロ下着を……
散華ちゃんはしばらく逡巡していたが、無いよりマシとばかりに仕方なくそれを着けた。
私達は散華ちゃんに攫われてから何があったのかを聞いた。
そして散華ちゃんは謝った。
「皆、すまなかった。私に付き合わせてしまった。そして助かった。ありがとう」
「確かに褒められた行為ではありませんが、それが戦士の矜持というものなのでしょう。罰はこれから受けるでしょうから大目に見ましょう」
師匠がまとめるように言ったのを、散華ちゃんはわかっていない様子だった。
「?」
散華ちゃんは気づいていない。隠してはいるが物凄くエロい格好です。アンナさんの救助のため急いできたのだ。着替えの準備などしていない。
私が
「では帰りましょうか」
師匠の号令に皆が頷き、街へ帰る。
来るときに魔物は蹴散らしておいたので帰りはほぼ戦闘はなかった。
†
街へ着くと師匠がギルドへ報告に行った。
暁の団の壊滅は既にグランさんから伝わっていた。デュラハンが討伐されたことと私達が無事な事を伝える。
散華ちゃんは私と違って人避けの魔法が効かない。
その美貌もさることながら、これが女神の血か……と思うほど目立ってしまうのです。
途中何度も絡まれた事は言うまでも無い。勿論全て撃退してやった。
皆なぜか「ありがとうございます」とお礼をしていったが……
絡まれていたせいで冒険者ギルドへ行っていた師匠が私達に追いついた。
散華ちゃんは半泣きで帰り着いた。
「これが罰か……恥ずかしすぎる……」
「うむ。まるで痴女」
「……うう」
散華ちゃんは私の言葉に顔を真っ赤にしながらも反論できないでいた。
「まあ反省した様ですし、それくらいにしましょう」
師匠の援護にそれ以上散華ちゃんを責めるのは、やめてあげる。
「流石に今日は疲れたわね」
「そうですね。明日はゆっくり休みましょうか」
「はい」
皆、疲れ果てていた。その日はシャワーもそこそこに早々に眠りにつくのだった……
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