第8話 合宿開始
生徒会、会長室。
学園にある散華ちゃんの執務室だ。
高級感のある
生徒会長にはそれなりの権限が与えられる。その一つだ。
その分仕事をしろという事なのだから、私にはそれが良いのか分からない。
散華ちゃんに言わせればノブレス・オブリージュというやつらしい。ノーブル・オブリゲーションとも言うらしいが同じ意味だ。
いわゆる貴族の義務というものである。散華ちゃんの家は名家だからな。
クール美少女はクール美少女たる振る舞いをしろということですね。そう言われれば分かる気がする。
ん、違うか?
その一室にパーティーメンバーが集まっている。
合宿の打ち合わせだ。といってもエルフ先輩は不在。たぶんどこかで聞いてる。
まだパーティーには入ってくれない師匠は、あまり学舎には来たがらない。
教授に迷惑をかけたくないそうだ。合宿の必要事項は後で私から伝える事になっている。
だから集まっているのは私、ツヴェルフさん、散華ちゃんの三人だ。
私がソファーに座るとツヴェルフさんがお茶を入れてくれた。
いつの間にかツヴェルフさんは散華ちゃんの秘書的な立場になっていた。この場合は副会長か?
本当の副会長はどこ行ったの? と聞くと自分探しの旅に出てしまったらしい……
ツヴェルフさんは教授が言った通り優秀だ。散華ちゃんは随分と助けられているそうだ。
べ、べつに羨ましくなんて無いんだからね!
ツヴェルフさんが着席すると散華ちゃんが言った。
「では明日から予定していた合宿を決行する。予定は一週間。これは遠征を想定したものだ。皆準備は出来ているな?」
準備万端だ。むしろ準備しすぎたぐらいだ。
私は
「ククク……」
思わず忍び笑いが出てしまうな。
そんな私の反応に二人がビクッとしていた。
「ソニア。大丈夫ですか? どこか具合でも悪いのですか?」
驚かせてしまったらしい。ツヴェルフさんが心配してくれた。
散華ちゃんも同じだった。
「ソニア。大丈夫か? 何なら合宿は延期でもいいが?」
それは駄目だ!
「大丈夫です! ちょっと興奮してしまっただけです! 合宿が楽しみだったのです!」
散華ちゃんはその私の勢いに気圧されていた。
「そ、そうか。では準備の方も大丈夫だな?」
「万全であります! 完璧であります! 紐パンもサイズ別に複数用意してあります!」
あっ、興奮して言わなくていい事まで言ってしまった。
「……何故、紐パン? いや、敢えて問うまい……。ソニアはいつも通りの様だな」
今、紐パンと言うときに恥ずかしがりましたね。
ふふ、散華ちゃんの一挙手一投足を私は見逃しませんよ……
「これでいつも通りですか?」
少し顔を赤らめた散華ちゃんは頷くもツヴェルフさんは不思議がっている。
だが危機は脱した。これも普段の行いの賜物か。
『品行方正』クール美少女たる私に相応しい言葉だ。
そう思っていたのだが……
「ああ、それと一応言っておく、下着は各自で用意」
散華ちゃんの言葉に私は驚愕した。
「何ですと!?」
散華ちゃんはその厳しい目を、驚いている私に向ける。
「……何か問題が?」
私が苦労して入手したエロ下着が……
買うとき、かなり恥ずかしかったんだぞ!
アレは絶対、私が
店員さんに「この子見かけによらず大胆ね」って思われてたよ!
万事休す!
いや、まだだ、まだチャンスが潰れたわけではない。ここは堪えるのだ。
「……ありません」
私が侮っていたという事か。
まさか予防線を張ってくるとは。さすが幼馴染……
やるな散華ちゃん! だがこのまま終わる私では無いぞ!
「まったく……何でこんなことを言わなくちゃならないんだ……」
散華ちゃんはそんなことを呟いていた。
それは散華ちゃんが魅力的だからです。
散華ちゃんの魅力を引き出すのは私が神から与えられた使命なのです。
勿論、師匠やツヴェルフさん、アリシア先輩も魅力的です。
これは皆の魅力を引き出せとの神からの啓示なのです。
この合宿は神が私に与えたもうた千載一遇の
ならば私が頑張るしかないではないかっ!
そう私が使命感に燃えているのをツヴェルフさんは不思議そうに見ているのだった。
†
そして翌日。
ついに来た。
ついに来てしまった。この時が!
合宿の開始である!!
合宿は学園の
月・火・水・木・金・土・日はそれぞれ、
闇・火・水・風・雷・地・光の七属性に対応しているからだ。
何でも陰陽五行思想というものからきているらしい。
「木火土金水」が五行で陰陽はそのまま「月」と「日」だ。
魔導師は押さえておかなければならない基礎知識だ。
教授の魔法学の講義では陰陽は特別で、五行も陰と陽に分かれるそうだ。
つまり魔法では「闇の火・水・風・雷・地」と「光の火・水・風・雷・地」。
それに「闇」と「光」で十二属性あると説明していた。でも一般的には七属性で問題ない。
それはそれとして今は合宿だ!
クロや師匠は仕事があるのでずっと一緒にいるというわけにはいかないが、基本は皆が家で寝泊まりする。
そして私には重要な
私は
私は魔王。そしてここは魔宮。
「哀れな仔羊どもよ。さあ来るがいい! 必ずや我が前に痴態を晒す事になるであろう! フハハ、フハハハハハハ!」
その私の宣告に対して、私の前に立ったクロが呆れた様子で言う。
「……ご主人様。馬鹿な事言ってないでお出迎えするニャ」
「魔王は動いてはならないのだ。警戒させてしまうからな!」
「……意味が分からないニャ。興奮しすぎておかしくなってしまったのニャ」
そんなことを話していると、ぴくんとクロの猫耳が動いた。
クロは獣人ではないが黒猫の魔族だ。獣人の姿に化けている。だから耳もいい。
「来たようニャ。迎えてくるニャ」
来た! 来た! 来たッ!
「ふははははは!」
あまりの興奮に高笑いが禁じえない!
「……人には見せたくない痴態ニャ」
私を見てそう言い残すと、クロは出迎えに行った。
クロさん、失礼ですよ?
しばらくして声が聞こえてくる。
「凄い本の量です」
「うむ。いつ来ても圧倒されるな」
ツヴェルフさんに同意するのは散華ちゃんだろう。
「凄いとしか言えないわね」
「本当ですね。流石は蒼炎の魔女です」
遅れて、アリシア先輩の言葉に師匠が同意を示している様子だ。
私には見慣れたものだが、皆は一様に驚いていた。
「こちらですニャ」
クロに案内されて皆が入って来た。私はソファーの上で仁王立ちをしながら迎えた。
「ふははははは。ようこそ勇者ども。我が魔宮は堪能していただけたようだな! 喜べ! 貴様らは必ずや我が贄となるだろう! 感涙にむせび泣くがいい! フハハハハハ!」
皆は別の意味で驚いている。
散華ちゃんは慣れているのか比較的冷静だ。
「……いきなり絶好調の様子だが何があったのだ?」
散華ちゃんの問いにクロが答える。
「興奮しすぎてしまったのニャ。朝からこの調子なのニャ。いい加減帰って来てほしいニャ」
それを聞いて師匠が困ったように言う。
「興奮しすぎて別の世界へ行ってしまったのですね。……どうしましょうか?」
「放置だ。関わらない方がいい」
「ふはは。流石は勇者散華。美少女を放置とは私の好みを理解しているッ!」
「向こうからグイグイ来るわね」
私の言葉にアリシア先輩は戸惑ったように言っていた。
「これはウザイですね。眠らせましょうか?」
「それは助かる。そうしてくれ」
師匠と散華ちゃんが不穏な事を言っていたが、絶好調な私は気にも留めなかった。
次の瞬間師匠の姿が消えていた。
あっ、という間に私は後ろを取られている。
「しまった!」
「
いつの間に詠唱をッ……この魔王の背後を取るとはッ……!
などと思った時には私の意識は沈んでいた。
†
ハッとして目を覚ますと既に深夜だった。
気付けば私はベッドに寝かされている。
「何という事だ……まる一日無駄にしてしまった」
半身を起こして私が絶望に打ち震えていると、クロが様子を見に来た。
「起きたかニャ。調子はどうニャ。帰って来たかニャ?」
「ああ……うん。大丈夫。皆は?」
気落ちした私に先ほどまでの勢いはない。
「皆。読書に夢中ニャ」
詳しく聞くと、あの後は皆に案内をして泊る部屋や書庫を見せて回ったらしい。
そして気になった本を読んで過ごしてもらったそうだ。
まあ一日目はそうなるか。そう思っていると、不意に天啓がひらめいた。
「まだ夜があるじゃない!」
「どうしたニャ?」
突然の私の叫びにクロは驚き目を丸くする。
「いやむしろ、夜こそ我が世界ッ! 我こそは夜を統べし闇の王!」
今まで寝ていたから目はギンギンに冴えている。
これを天啓と言わずして何を天啓という?
「まだだ! まだ終わらぬぞ! ふははははははは!!」
それを見たクロは「……まだ駄目だったニャ」などと呟いていた。
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